成田空港に到着した訪日客ら(9月28日)
日本政府観光局(JNTO)が18日発表した9月の訪日客数は218万4300人で2019年同月の96.1%となり、新型コロナウイルス流行前の水準をほぼ回復した。都道府県別の宿泊者数は栃木や京都などがコロナ前に迫った。ただ25道県は6割未満にとどまり、地域で明暗が分かれつつある。
政府が水際対策を大幅に緩和してから10月で1年を迎えた。訪日客数全体でみれば着実に持ち直しが続く。
国・地域別では韓国が57万400人で最も多く、台湾が38万5300人で続いた。8月に日本への団体旅行を解禁した中国は3位の32万5600人だった。前月比では1割減少し、戻りが鈍い。
観光庁が18日に発表した23年7〜9月の1人当たりの旅行支出は19年同期比29.4%増の21万810円(速報値)だった。消費総額は1兆3904億円で四半期ベースで過去最高となった。
一方で国内をみると回復の足取りにはばらつきがみられる。EYジャパンによると、1〜6月の都道府県別の延べ宿泊者数は栃木や石川などはコロナ前の8〜9割まで戻したものの、鳥取や鹿児島は3割に低迷したままだ。
回復率が全国3位の栃木県の鬼怒川温泉(日光市)では、アジアからの団体旅行が再開し、訪日宿泊客が増えつつある。
鬼怒川パークホテルズは夏前から海外向けの宿泊予約サイトで低価格帯の洋室の素泊まりプランの受け付けを始めたところ、毎日6〜7組の訪日客の予約があり好調だ。
欧米からの利用者が増えているという。小野真社長は「ザ・リッツ・カールトン日光が開業し、日光全体の海外からの認知度が高まったのではないか」と話す。
鹿児島は国際定期便再開の遅れが目立つ。19年時点で香港や上海など4路線があったが、コロナ禍の21年に利用者はゼロになった。今年6月から香港路線などで順次再開するが、機体誘導などを担う地上職員が不足して思うように増やせないのが現状だ。
鳥取では米子鬼太郎空港でソウルと結ぶ定期便が25日から4年ぶりに運航を再開する。だが近隣の温泉旅館の多くはコロナで従業員を減らしたため「団体客の受け入れの面で弱くなっている」(皆生温泉旅館組合)との声が出る。
ホテル各社も足元の旅行需要の急回復で人手確保に追われている。
ホテル椿山荘東京を運営する藤田観光は、来春入社の内定数を2.2倍にするなど採用を強化した。今年4月に賃上げをしたほか、設定した地域以外への転勤がない「エリア職制度」を導入するなど職場環境の改善を急ぐ。
京王プラザホテル(東京・新宿)の9月の客室稼働率は75%と19年同月と同水準だった。外国人比率は85%超で19年同月を5ポイント上回る。外国人客の増加に伴い、グループ旅行などに対応できる客室を新設する。
回復軌道を本格化させるには受け入れ態勢の増強が欠かせない。
観光分野に詳しいEYの平林知高パートナーは「水際措置の緩和後は東京、京都、大阪を通るゴールデンルートへの集中が顕著だ」と指摘。「回復が鈍い地方圏は量と質の両方を担保していく必要がある」と話す。
【関連記事】