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ガラケー技術をEVに 東レ、ナノ積層フィルムで「極限追求」

2023-10-23 23:49:10 | エレクトロニクス・自動車・通信・半導体・電子部品・素材産業

電気自動車(EV)シフトの流れが強まる中、東レが「ナノ積層技術」を使った新製品を相次いで投入する。

10億分の1メートルという単位でフィルムを積層。約15年前に開発した技術だが、電磁波透過性や遮熱といった性能を高められることからEVや自動運転などのCASE技術と相性が良いとされる。東レはコア技術を磨き続ける「極限追求」の姿勢で新市場を開拓する。


東レ独自の「ナノ積層技術」を使った樹脂製フィルム
      東レ独自の「ナノ積層技術」を使った樹脂製フィルム

 

光沢を放つなめらかな曲線、一見すると金属のように見える物体。
これは、東レが培ってきたナノ積層技術を使った樹脂製フィルム「PICASUS(ピカサス)」だ。

50~200ナノ(ナノは10億分の1)メートルという極薄のフィルムを約1000層にわたって積み重ねた。

 フィルムの層が厚ければ波長の長い赤や近赤外線といった光を反射し、薄ければ波長の短い青や紫外線といった光を反射する性質がある。

このため、出したい光沢に応じて層の厚みを変えなければならないが、東レはフィルムの厚みを1ナノメートル単位で調整できる。東レフィルム研究所の長田俊一所長は「それぞれの層の厚みを個別に制御できるのは独自の技術だ」と明かす。

 ナノ積層技術によって光の進路を自在に制御できるほか、フィルムは成形がしやすく、引き裂かれにくくなる。

顧客からは「見た目は金属なのに樹脂製で軽い」「電磁波は透過するが、赤外線などは透過させるか反射させるかが選べる」という点も評価されている。

 東レがナノ積層技術を使った製品を本格的に売り出し始めたのは約15年前だ。

当初は金属のような光沢を出すため、従来型携帯電話「ガラケー」の背面に使われており、大手メーカーがこぞって採用。その後、ノートパソコンやスマートフォンの背面などにも用いられてきた。

 足元ではCASE時代に移行しようとしている自動車業界への売り込みを強める。

「EV化の潮流によって、電磁波透過性や遮熱といったナノ積層技術の特性がより生かせるようになった」(長田氏)。新製品を相次いで投入しているのだ。

 例えば、車のフロントガラスに情報を表示する「ヘッドアップディスプレー」。

通常のガラス板に映像を投影させようとした場合、ガラス板の表と裏の両面に反射して映像が二重に見えてしまうという課題があった。

 そこで東レは2020年、この課題を解決できるフィルム「PICASUS VT」を開発した。

ナノ積層技術を使い、正面からの光は透過させ、斜めから入ってくる光は反射させられるように設計。このフィルムをフロントガラスに貼り付けると、投影した映像がはっきり映るようになる。


東レが開発したフィルム「PICASUS VT」を貼り付けたガラス(左)は、アクリル板(右)よりも投映された映像がはっきりと映る
東レが開発したフィルム「PICASUS VT」を貼り付けたガラス(左)は、アクリル板(右)
よりも投映された映像がはっきりと映る

 

東レは23年に本格的に販売を始めており、国内外の自動車メーカーやディスプレーメーカーからの注文が増えている。

 

23年6月には、EVの機能性を高める遮熱フィルムを開発した。フロントガラスに貼ることで車内のエアコンの消費電力を約27%減らし、航続距離を最大で約6%延ばせる。さらに高速通信規格「5G」などの電波の減衰率を1%程度に抑え、自動運転技術のサポートにもつながる可能性があるという。

 フィルムは遮熱性と透明性を両立させようとすると、意図しない部分で発色してしまう「色づき」が発生する。東レは10年弱もの間、この問題の解決に取り組んだ。フィルムの層と層の間に極薄層を入れる手法を編み出して量産化にこぎ着けた。

 23年8月にはナノ積層技術を応用し、前を走る車両との距離を検知するレーダーに使う「ミリ波」を吸収するフィルムも開発。ミリ波が障害物に当たって反射し、誤作動につながってしまうことを防げる。


ナノ積層、基の技術はビデオ

 自動車業界で引き合いが強まるナノ積層技術だが、実は、基となったのはビデオテープに使われた昔の技術。東レが自社のDNA(遺伝子)とうたう「一つのことを深く掘り下げていくと新しい発明・発見がある」という「極限追求」によって生まれた。

 当時、ビデオテープに使うフィルムになんらかの機能性を持たせる場合、フィルム全体に無機粒子を添加するのが一般的だった。しかし、これだと表面にランダムな突起が生じてしまう。

そこで東レは粒子を含んだポリマー(高分子)をフィルム表面に薄く積層し、粒子を一列に並べるという技術を開発。表面に生じる突起の高さを均一にすることに成功した。



 東レフィルム研究所の宇都孝行主任研究員は「ビデオテープの平滑性と滑り性を両立し、大きな市場シェアを獲得した歴史がある」と自負。

ビデオテープはDVDの台頭によって姿を消したものの、東レがそこで培った技術は、世界トップシェアの積層セラミックコンデンサーの製造フィルムや、偏光板の製造工程で使う材料などに応用されてきた。

 ナノ積層技術も、ビデオテープの技術を深掘りして生まれた。ピカサスを量産するために特殊な製造装置を自社で開発。

詳細はベールに包まれているが、溶かした2種類の樹脂を流し込むことで約1000層の積層を一気に形成できるという。

 

 

EVを巡っては、米テスラや中国・比亜迪(BYD)などの海外勢が市場をリードしており、日本勢は出遅れているとされている。

もちろん、自動車メーカーに部材を供給する化学、素材メーカーにとっても他人事ではない。


時流を見定められるかどうかで追い風にも向かい風にもなり得る。実際、東レだけでなく、旭化成やAGC、マイクロ波化学などもこぞってCASE市場向けの新素材開発に注力している。

 東レに限らず、日本の素材メーカーは、自社のコア技術を顧客が求める新技術や新材料へと改良したり応用したりすることがお家芸とされてきた。


CASE時代に求められる新たな素材ニーズを先読みし、先回りした提案を打ち出せるかどうかが各社の明暗を分ける。

 

 

 


出光、30年磨いた技術「世界標準に」 トヨタと全固体電池を量産化

2023-10-23 23:36:53 | エレクトロニクス・自動車・通信・半導体・電子部品・素材産業

出光興産が、電気自動車(EV)で巻き返しに動いているトヨタ自動車と全固体電池の量産化に向けて協業する。

同電池の技術開発で世界有数の両社がタッグを組み、先行するEVメーカーを追い抜く「ゲームチェンジ」を狙う。脱石油という歴史的な課題を受けて出光が約30年にわたって磨き続けてきた技術が、ついに花開こうとしている。

 「(トヨタとの)協業で得た全固体電池の技術を世界標準として展開したい」。

出光の木藤俊一社長は10月12日の記者会見で、次世代EV電池の本命とされる全固体電池を両社で量産化することに自信を示した。EVでゲームチェンジを起こすという決意がにじむ。

 投資家もこれを好感。両社の株価は協業発表後に急騰し、この日の終値はトヨタが前日比3.4%高、出光興産が5.6%高といずれも上昇した。

 
全固体電池の量産化へ協業する出光の木藤俊一社長(右)とトヨタの佐藤恒治社長。両社は2013年から共同研究に取り組み、技術課題を乗り越えてきた(写真:つのだよしお/アフロ)
全固体電池の量産化へ協業する出光の木藤俊一社長(右)とトヨタの佐藤恒治社長。両社は2013年から共同研究に取り組み、技術課題を乗り越えてきた
 
 
 

現在主流のリチウムイオン電池では、正極・負極間にリチウムイオンを通す電解質は液体だ。全固体電池はそれを固体に置き換えたもので、イオンの移動が速くなる。

それによって充電時間は短くなり、航続距離は伸びる。電池のサイズも小さくできる画期的な技術だ。

 今後、出光の材料製造技術とトヨタの電池加工・組み立て技術を融合させ、全固体電池の量産化への準備を急ぐ。

両社は2027年度に国内で生産ラインを稼働させ、27~28年にトヨタが発売するEVに搭載する計画だ。

割れにくい電解質で課題破る

 トヨタは23年6月、早ければ27年にも全固体電池を実用化すると発表し、業界関係者を驚かせた。

発表できたのは、13年から進めてきた出光との共同研究でブレークスルーがあったからだ。

 「3年ほど前、全固体電池の耐久性に関する問題を解決できる可能性がある方法を発見し、そこから量産化へ向けて動く自信がついた」とトヨタ関係者は振り返る。

具体的には、充放電を繰り返すうちに電解質に亀裂が生じ、性能が劣化するという課題を乗り越えた。


トヨタが報道陣に公開した全固体電池の試作品(6月)
        トヨタが報道陣に公開した全固体電池の試作品(6月)

 

出光が手掛ける硫化物系固体電解質
           出光が手掛ける硫化物系固体電解質

 

試作車を造って評価を繰り返す地道な作業を続けてきた成果だ。

出光が手掛ける硫化物系固体電解質は軟らかくて他の材料との密着性も高く、亀裂が生じにくい。量産にも向いているとされる。トヨタもその特性を高く評価した。

 出光が固体電解質の原料となる硫黄成分に可能性を見いだしたのは1994年にまで遡る。

 70年代、2度の石油ショックが起き、「石油資源はいずれ枯渇する」と指摘されてきた。出光にとっては死活問題だ。石油の「確認埋蔵量」「可採年数」などという言葉も世に出てきた。

 そこで出光は、石油に代わるエネルギーや素材の開発に乗り出した。「石油の付加価値をどう高めて有効活用するかという研究をかなり広い範囲でやった」(木藤社長)。

着目したのが、硫黄化合物だ。石油の精製過程から高純度の硫黄化合物が副産物として発生していた。「コストもかからない。これを再利用しない手はない」。事業化への模索を続けた。




日経記事  2023.10.23より引用

 

 

 
 

図説:変わるケイレツ、部品選別厳しく

2023-10-23 23:20:53 | エレクトロニクス・自動車・通信・半導体・電子部品・素材産業

国内の自動車業界は、自動車メーカーを頂点に1次部品メーカー(ティア1)、2次(ティア2)、3次(ティア3)と連なるピラミッド構造を形成。自動車メーカーと部品メーカーが株を持ち合うなどして、系列として強固な関係を築くパターンも多かった。

 電気自動車(EV)の台頭でこの取引関係が変化しつつある。エンジン車の部品は1台当たり約3万点とされるが、EVでは3~4割減るとされる。今後は自動車メーカーが設計・開発の主要部分を担い、部品メーカーが最適な部品を供給する水平分業型に移行していくとの見方がある。これまで以上に部品メーカーの技術力やコスト競争力が問われ、選別は厳しくなる。



ピラミッド型から水平型へ

ピラミッド型から水平型へ
     EVの発展によって変化する産業構造(写真=Vlad Kochelaevskiy/stock.adobe.com)

 

ここ数年は、新たな業界秩序に適応するための企業再編が活発になっている。従来のライバル同士が統合し、規模の拡大と技術力の向上を図るケースが目立つ。

23年に再編の動きが加速している
最近の主な自動車部品業界の動き 日立製作所系とホンダ系の計4社が統合し日立Astemo誕生(21年)
(写真=共同通信)

次世代EV部品の開発競争は激化している。駆動装置「eアクスル」では、独立系サプライヤー、EV専業メーカー、ニデックなどの新規参入企業がしのぎを削る。水平分業型への構造転換が進むと、特に秀でた技術や製品を持つサプライヤーが自動車メーカーを選ぶ立場に変わる可能性もある。

EVでは使う部品が少なくなる
             エンジン車とEVの動力機構の主な違い

 

 

 

日経記事 2023.10.20より引用

 

 

 


広がるApple Watch外来 「まるで小さなクリニック」

2023-10-23 21:45:28 | 医療・病気・疫病・ヘルスケア・健康・食事・睡眠 及び産業

米アップルの腕時計型端末「Apple Watch」で取得できるデータを活用して外来診療する「Apple Watch外来」を開設する医療機関が増えている。特に効果を発揮するのが、悪性不整脈の早期発見だ。

専用アプリケーションが心拍の乱れを通知し、その場で心電図を記録することで、不整脈を「現行犯」で捕らえる。


「Apple Watchは小さなクリニックのようだ。Apple Watchの記録は、治療が必要な不整脈かどうかを判断する1つの材料になる」

 心臓血管外科や循環器内科を中心とする高度専門治療を行うニューハート・ワタナベ国際病院(東京都杉並区)の大塚俊哉医師はこう話す。

 

 

Apple Watchでは、「デジタルクラウン」と呼ぶコントローラーに、机や膝の上に腕を置いて安静にした状態で指を当てることで心電図を記録できる(写真:的野弘路)

Apple Watchでは、「デジタルクラウン」と呼ぶコントローラーに、机や膝の上に腕を置いて安静にした状態で指を当てることで心電図を記録できる(写真:的野弘路)

 

2020年にApple Watchに搭載された2つのアプリ、心電図を記録できるアプリと不規則な心拍を通知できるアプリが、厚生労働省から医療機器の承認を受けた。

これをきっかけに日本国内において、Apple Watchで取得できるデータを活用して外来診療する「Apple Watch外来」を開設する医療機関が増えてきた。


 ニューハート・ワタナベ国際病院は21年4月に、Apple Watchで計測した心電図のPDFをオンラインで送ることで無料相談できる外来診療を開設した。

これまでに延べ500件以上の相談を受け付けているという。もともとは、心房細動の術後の経過観察でApple Watchの活用を始めた。それが今では心房細動の発見にもつながっており、外来をきっかけに心房細動の手術に至った患者もいるという。

 

救急医療やがん、脳疾患、心臓病を中心とした先端医療の提供を行う総合東京病院(東京都中野区)も23年8月に、Apple Watchで測定した心電図の結果を基に対面受診できる外来を開設した。同病院の滝村由香子医師は「これまでも不整脈外来にApple Watchのアプリのエラーメッセージをきっかけに受診する患者さんがいた。問い合わせが増えてきたため専門外来を開設した」と話す。


怖い不整脈「心房細動」 異常時に記録しづらい課題

 Apple Watchが特に力を発揮するのが、治療が必要になる不整脈の発見だ。

 不整脈は、治療を要する悪性と経過観察を行う良性に分けられる。「心房細動」は悪性不整脈の1つで、心房が細かく震える状態になる。

罹患(りかん)者数は推定100万人以上といわれ、60歳以上になると急激にかかりやすくなる。心房細動にかかると、心不全になったり、心房の血流がよどんで血栓ができやすくなったりする。

心房細動は致死的な心原性脳梗塞リスクを約5倍に高めるともいわれている。

 それにもかかわらず、心房細動は自覚症状のない場合があるのが怖いところだ。滝村医師は「心房細動は進行性の病気。しかし、進行が進んだ段階でも自覚症状がない場合がある」と指摘する。


 ここで役に立つのがApple Watchだ。Apple Watchは、身に着けている人の不規則な心拍リズムを検出すると直ちに通知が届く。

心房細動の自覚症状がない場合も、心拍に異常が起きたタイミングで心電図を記録することができる。不整脈が起こった瞬間を記録するチャンスが多くなる。


 従来は、例えば2カ月に数回突発的な不整脈があるといった人は、異常時の心電図を記録しづらいという課題があった。

改めて受診して心電図を記録しても、異常が検出されないケースがあるからだ。体に複数の電極を付けて24時間心電図を記録する「24時間ホルター心電図」といった記録方法もあるが、これも24時間以内に不整脈が出ないと検出できない。



 滝村医師は「不整脈の診断は、不整脈が起きた時の心電図を記録しないとできない。

24時間ホルター心電図や長時間(1週間など)ホルター心電図で検査して、それでも正常だった場合は『不整脈が起こったらすぐ受診してください』と伝えていた」と話す。


大塚医師は、「心電図に異常が記録されなくても、心房細動だった際の脳梗塞の恐れから、他院で投薬治療を行っていた患者もいた。

本当に必要な人に必要な医療を提供するためにもApple Watchは有効だ」と指摘する。

 

実はApple Watchで記録する心電図と、病院で一般的に記録する心電図には違いがある。

 心電図を記録する際は、体の様々な位置に電極を取り付けるケースが多い。病院で一般的に記録する心電図は、胸部と両手足に付けた電極を使って、12方向から心臓の電気的な動きを捉える「12誘導心電図」が用いられる。

 それに対してApple Watchは、本体背面の電極と「デジタルクラウン」と呼ぶコントローラーの電極を使って心電図を記録する。1方向から心臓の電気的な動きを記録する「単極誘導心電図」という手法に近い。

 簡易的なApple Watchの測定で、きちんと心房細動の波形が取れるのかと思うかもしれないが、医師らは電気信号が乱れて拍動が不規則なリズムとなるのが心房細動であり、単極誘導心電図の手法でも判別できるという。



 さらにApple Watchは、心電図を記録した後に、記録した内容を「心房細動」「洞調律」などと細かく状態を分類する機能もある。

Apple Watchが登場する以前の携帯型の心電計の場合、異常の有無の表示のみで、細かな分類機能を備えない製品が一般的だった。さらにこれまでの携帯型の心電計は、(1)一時も離さず持ち歩くのが難しい(2)自覚症状のない人では購入ハードルが高い、といった課題があった。

Apple Watchは、常に身に着けられる腕時計型の心電計でもあり、分類機能も実現している。大塚医師は「Apple Watchは心房細動かどうかを高い確率で判断できている印象だ。心房細動の検出に特化していると言ってもいい」と指摘する。


 Apple Watchのほかにも、ヘルスケア機能を備えた様々なウエアラブル端末の開発が進む。大塚医師は「そう遠くない未来、ウエアラブル端末でバイタルサイン(呼吸・体温・脈拍・血圧)をモニタリングして診断・治療につなげていくことが主流になるだろう。


いろんなものがデジタル化している時代、医療現場も新しいことを取り入れて自分の診療に生かすことが大切だ」と指摘する。

 


見えてきたデジタル円 スマホ・カード活用、保有上限も

2023-10-23 18:05:12 | 世界経済と金融



 

中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC、中銀デジタル通貨)の準備が日米欧で進んでいる。

欧州中央銀行(ECB)が11月から導入に向けた「準備段階」に入ると表明し、米国も研究開発を急ぐ。

日銀は金融機関のシステムへの接続を想定した本格的な実証実験に着手した。日々の決済のあり方が大きく変わる可能性があり、国民を巻き込んだ議論が欠かせない。


ソフトバンク、NTTドコモも参加

「保有額、取引額の制限を前提にしているが、どの程度のものを想定しているのか」「具体的な額、回数は具体的なイメージはないが、制限があり得る」。

9月に日銀が開いた中央銀行デジタル通貨フォーラムの作業部会では、日銀と民間企業の出席者とで具体的な制度設計を巡る議論が交わされた。

デジタル円は「現時点で発行する計画はない」というのが政府・日銀のスタンスだ。

ただ水面下では大手金融機関のほか、ソフトバンク、ソニー、NTTドコモといった民間企業を交え、制度設計などを巡る具体的な議論が始まっている。


中銀デジタル通貨とは

中央銀行が発行するデジタル通貨で「CBDC(Central Bank Digital Currency)」とも呼ぶ。

①デジタル化されている
②法定通貨建て
③中銀の債務として発行される――といった要件がある。国際決済銀行(BIS)によると、30 
 年までに15中銀で個人向けのCBDCが正式に発行される可能性がある。新興国が先行してい
 るが、先進国にも発行準備の動きが広がりつつある。





導入時のイメージも少しずつ浮かび上がってきた。日銀が法定通貨として発行し、個人は預金や現金などを対価に入手できる。

スマートフォンやICカードなどを通じ、インターネットの接続の有無にかかわらず利用できるものが想定されている。

民間企業が発行する電子マネーやクレジットカードと異なり、手数料が発生しない。

加盟店に限定されずに利用できる。決済代金が銀行口座に反映されるタイムラグも生じないといった利点があるとみられる。





 

フォーラムの作業部会で話題となった保有・取引制限も、設けられる可能性が高い。制限がないと銀行から大量に預金が流出し、金融システムが不安定化するリスクがある。デジタルユーロは1人あたり3000ユーロ(約47万円)程度の保有制限をかける案が浮上しており、こうした数字が参考になりそうだ。


全銀ネット障害が落とす影

課題もある。一つはシステムの安全性をどう確保するか。関係者によると、日米など多くの先進国は暗号資産(仮想通貨)で用いられるブロックチェーン(分散型台帳)を採用しない前提でシステムを検討している。

複数の取引の記録を共有し、互いに監視するブロックチェーンの仕組みは「取引処理に時間がかかり、利便性が損なわれかねない」(関係者)。

そのためデジタル円の導入時はブロックチェーンの一部技術を活用しつつ、日銀を中心とした新たなシステムを構築する可能性が高いとみられる。




 システムが巨大になればなるほど、障害時の影響も広範囲に及びやすくなる。

10日は全国銀行データ通信システム(全銀システム)で障害が発生し、丸2日間、三菱UFJ銀行やりそな銀行など10の金融機関から他行向けの振り込みができなくなった。

財務省が10月に開いた「CBDCに関する有識者会議」でも全銀ネットのシステム障害を踏まえ、デジタル円も万全の安全対策を求める声が上がった。

「システム障害を完全にゼロにするのは難しい。リスクを冒してまでデジタル円を導入する必要があるかも議論になる」(金融庁幹部)との意見もある。

システムの安定確保や利便性向上には十分な投資と人員確保も求められる。システムの研究開発や管理・維持にかかる人件費やインフラ関連費、さらにはサイバーセキュリティーのための費用など様々なコストが想定される。

総額は数千億円から兆円単位に上る可能性があるが、誰がどのような形で負担するかははっきりしていない。


スウェーデンが直面した壁

もう一つの課題が民間との役割分担だ。経済産業省によると、22年の個人の消費額全体に占めるキャッシュレス決済額の比率は36%と過去最高を更新した。スマホ決済事業者(ペイ事業者)らは日銀に先行するかたちで、店舗への専用端末の設置といったキャッシュレス環境の整備に取り組んできた。





CBDC発行が難航するスウェーデンのリクスバンク(中央銀行)=ロイター


日銀はデジタル円の根幹のシステムを構築し、利用者との接点は民間企業にも担ってもらう仕組みを想定するが、制度設計次第では各企業の過去の積み上げが無に帰しかねない。

民間サービスが普及しているのにCBDCが必要なのかという疑問の声は根強い。17年から「eクローナ」の導入プロジェクトに着手し、いまだ発行に踏み切れないスウェーデンが直面した壁だ。

日常の決済の主流がデジタルへ置き換わっていくとすれば、民間企業による寡占の弊害を避けるためにも、国が決済インフラを提供することは理解できる。

ただ、民間企業の活力を生かす工夫がなければ、普及はおぼつかなくなる。


進む準備、議論は尽くしたか

法整備も課題だ。日銀法や刑法、民法といった現行法はデジタル円を想定していない。法改正は数年単位で時間がかかり、導入が先延ばしになるリスクがある。財務省の有識者会議はどんな法改正が必要かも議論していく方向だ。




黒田東彦氏は日銀総裁当時、デジタル円の発行を「26年までに判断する」と語っていた



黒田東彦前総裁は22年1月、デジタル円の発行の可否について個人的見解と前置きした上で「26年までに判断する」と述べた。

実際に導入するためには、世論を含めた合意形成が欠かせない。現時点では、中銀デジタル通貨がなぜ必要で、どういった機能が求められるか議論が尽くされたとは言いがたい。

「海外でも導入準備が進んでいるから」という説明だけでは説得力を欠く。

民業圧迫やプライバシー侵害といった懸念を取り除き、誰でもどこでも使えるデジタル通貨の利点を丁寧に示していくことが、次のステージに進むためには必要となる。




 

 

日経記事 2023.10.23より引用

 

 

 

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