小林製薬の大阪工場(3月30日、大阪市淀川区)
【この記事のポイント】
・「プベルル酸」とみられる成分が3割のロットから
・検出された原料は、いずれも同じ菌株から培養
・工場はすでに閉鎖、生産環境の再現は難しく
小林製薬が製造した「紅麹(こうじ)」原料を含む機能性表示食品による健康被害問題は、最初の症例報告から2カ月半が経過しても全容は解明できていない。
青カビ由来の有毒物質で健康被害の原因の可能性が指摘される「プベルル酸」とみられる成分は2023年に製造された製品ロットの3割から検出された。専門家は製造時の状況などから「外部から青カビが侵入した可能性は否定できない」と話す。
紅麹原料は紅麹菌を培養してつくる。23年に製造された原料のうちプベルル酸とみられる成分が検出されたものは、いずれも同じ菌株から培養されていた。
その菌株から33ロット(9.3トン)の原料が生産され、そのうち3割におよぶ10ロットから検出された。別の菌株から生産した54ロット(9.2トン)からは検出されなかった。
問題の10ロットは23年4〜10月に生産されており、有毒物質の検出は特に9月生産分に集中している。
東京大学の唐木英明・名誉教授(薬理学・毒性学)は「成分が検出された製品の生産時期は長期にわたり、悪意ある人為的混入は考えにくい」と指摘する。
工場のなかで青カビが繁殖できるほど衛生環境が悪かった場合は、一部のロットに検出が限られていることの説明がつきにくい。
検出ロットが3割であったことで、外部から混入した可能性が高まっている。
唐木名誉教授は「壁のヒビなど何らかの理由で青カビの胞子を含んだ空気が入った可能性はある」と話す。
静岡県立大学の増田修一教授(食品衛生学)は「現時点で断定はできないが、菌の培養に使うコメが青カビに汚染されていた可能性も否定できない」という。工場外からの青カビの侵入を見過ごしていたならば、小林製薬の製造管理責任が問われかねない。
問題の紅麹原料は小林製薬の大阪工場(大阪市)で生産されたが、同工場は老朽化もあり23年12月に閉鎖している。
紅麹原料の生産設備などは和歌山工場(和歌山県紀の川市)に移された。
問題を受けて厚生労働省や自治体は3月30日に大阪工場の跡地、翌31日に和歌山工場をそれぞれ立ち入り検査したが、現時点では衛生管理上の問題は見つかっていない。
大阪工場が既に閉鎖されており、当時の生産環境を完全に再現することが難しくなっている。
腎疾患の原因と推定されるプベルル酸は研究論文に乏しい。健康被害との因果関係を解明するには数カ月を要するとみる専門家もいる。原因究明は長期化する恐れもある。
問題がある紅麹原料を使った他社製品の流通先解明も半ばだ。小林製薬は23年に生産した紅麹原料計18.5トンのうち、自社サプリメント向けに使う分を除く16.1トンを取引先に出荷した。このうちサプリ向けの6.9トンにプベルル酸とみられる成分が含まれていた疑いがある。
これまで判明している原料の出荷先は、食品の着色用なども含め直接卸していた52社と、そこから原料を仕入れていた173社。
各企業がそれぞれ食品や健康サプリに使っていたとみられる。厚労省はこれらの企業名を公表した。
一方、帝国データバンクによると、小林製薬の取引先の中には健康食品の原料を卸売りする商社も含まれる。
小林製薬は原料を転売した場合は情報提供するよう求めており、最終的な原料の出荷先はさらに増える可能性がある。
紅麹原料の流通先を調査している帝国データバンクの担当者は「トレーサビリティー(生産履歴の追跡)が非常に困難な原料で、流通網の全容解明には時間がかかる」と話す。
消費者問題に詳しい村千鶴子弁護士は「厚労省が流通先の企業名を公開したのは、企業側に食品の安全性を重視するよう促す効果が期待できる」と指摘する。
一方、「最終的な流通先や製品名が分からなければ消費者の判断材料として十分とは言えない」としたうえで「消費者からの信頼を失わないためにも、原料を仕入れた企業は卸先や製品名、販売時期を自主的に公開してほしい」と求める。
原因物質と混入経路の全容解明に向けて、サプライチェーン(供給網)の関係者はできる限り情報を公開する姿勢が欠かせなくなっている。
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分析・考察
普通の食品加工工場は衛生管理が徹底されているはずである。東大名誉教授の方は外気から入った可能性が高いと指摘して、それを聞いて信じられなかった。
この会社の工場はどのような設計になっているのか。製薬会社だから本来きちんとしているはずだと思っていた。
いずれにせよ、原因を早く特定してほしい。さもなければ、ほかのサプリメントも風評被害を受ける恐れがある
(更新)
分析・考察
原因の究明は長期化しそうです。 仮に何らかの理由で青カビが混入していたとしても、それが即、「犯人」ではありません。
問題の「プベルル酸」に関する科学的知見が乏しく、一から人体への影響を調べていかなければならないからです。
毒性をみる動物実験だけでも1、2ヶ月かかり、腎機能障害との因果関係を調べるとなるとさらに相当な時間が必要です。
健康食品は医薬品と異なり、制度上、健康被害を想定した対応になっていません。この点も究明を難しくしています。
日経記事2024.04.05より引用