日産は人気車の「キックス」の投入で巻き返しを図る
日産自動車は25日、2024年4〜6月期の連結営業利益が前年同期比99%減の9億9500万円だったと発表した。
主力市場の米国が振るわず、台数を稼ぐために販売奨励金が膨らんだ。現地で人気のハイブリッド車(HV)の不在も響き、業績が急失速している。
業績不振に加え、想定為替レートも1ドル=155円と10円円安としたため、25年3月期見通しを下方修正した。
修正後の営業利益予想は12%減の5000億円と1000億円下げた。増益から減益の見通しとなり、決算発表直後の株価は一時前日比11%下落した。
「米国で在庫が増加し、予想よりも販売を伸ばせず、古いモデルでより高いインセンティブ(販売奨励金)が必要になった」。
オンラインで記者会見をした内田誠社長は業績悪化の要因についてこう説明した。
4〜6月期の純利益も285億円と73%落ち込んだ。背景に主力の米国販売の誤算がある。
前年同期と比べた営業利益の増減要因をみると、特に販売奨励金の増加に関わる項目が1104億円押し下げ、為替の円安効果(237億円のプラス)では補えなかった。
日産は米国の売れ行きが競合に比べて厳しい。4〜6月期は23万台と3%減った。マークラインズによると、同期間のトヨタは9%増の62万台、ホンダが3%増の35万台で、大手3社では苦戦が鮮明だ。
トヨタ・ホンダと明暗を分けたのがHVの存在にある。23年から米国では電気自動車(EV)の拡大にブレーキがかかった。物価高で割高なEVが消費者に敬遠されたためで、燃費が良くEVより割安なHVに再び人気が集まった。
トヨタはHVの世界シェアで6割を占め、ホンダも「CR-V」などのHVが好調な一方で、日産は米国でHVを展開できていない。HV不在が響き、現地での6月時点の新車が売れるまでの期間を示す在庫日数もトヨタの27日やホンダの49日に対し、日産は55日と長い。
利益を稼ぐために重要な販売単価でも差は広がる。米調査会社コックス・オートモーティブによると、6月の日産ブランドの米国の平均取引価格は3万4000㌦と1年で4%減少した。
単価の高いHV効果により、ホンダは1%減の3万6000㌦にとどめ、トヨタは4万1000㌦と5%増やした。
日産は米国でHVよりも「リーフ」などのEVの投入を優先する戦略をとってきた。現地でHVを投入するのは26年以降の予定だ。平均単価が下がるなか、台数を稼ぐために販売奨励金をつぎ込む悪循環が経営悪化を招いた。
日産は米国では今後売れ筋の「キックス」など複数のガソリンの新型車を投入する計画だ。内田社長は「新たなモデルの投入で(修正後の)販売台数と収益の達成を目指す」とするが、狙い通りにいくかは不透明だ。
日産は前期に世界販売が当初400万台の見通しから複数回下方修正し、344万台まで下がった過去もある。今期も世界販売台数見通しは365万台と早くも5万台下振れした。
経営計画を発表した当時の内田社長(神奈川県厚木市)
3月に公表した27年3月期まで3カ年の中期経営計画では、販売台数を前期実績から100万台増やす目標を掲げる。
株式市場からは「台数の達成は見通しにくい」(東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司氏)との声が早くもあがる。
日産は3月、ホンダと電動化や知能化の分野での提携検討を発表した。内田社長は「良い進捗をみせている。(いずれ)説明できる場を設けたい」とだけ語った。
ホンダとの提携はEVの開発費を下げ、中長期的な競争力を左右する。業績を立て直すためにも、迅速な意思決定は欠かせない。
(野口和弘、落合修平)
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中西孝樹
ナカニシ自動車産業リサーチ 代表アナリスト
ひとこと解説
米国在庫調整は進まず、インセンティブが増大し中古車リーマケティングコストも拡大しました。
米国だけで747億円ものインセンティブ/価格の減益要因が生じ、結果、自動車事業の営業損失は740億円に赤字転落しています。
米国販売不振とインセンティブ増大は既にデータポイントで確認していましたが、予想をはるかに超える収益の悪化を招く結果となりました。
会社計画は下方修正となりましたが、前提条件は楽観的で先ゆきは予断できないでしょう。
現在の日産のグローバルシェアは僅かに3.8%に過ぎません。
基礎台数と呼ぶ確信度の低い右上がり台数計画を考え直すべきだと考えます。
それがホンダとのアライアンスの道をひらくでしょう。
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日経記事2024.07.25より引用