欧州政治共同体(EPC)は7日、ハンガリーのブダペストで首脳会議を開いた=ロイター
【ブダペスト=辻隆史】
米大統領選でトランプ前大統領が勝利を確実にしたことを受け、欧州で安全保障を独自に強化する動きに拍車がかかりそうだ。トランプ氏との関係維持に努めつつも、中長期的に米国依存から脱却すべきだとの意見が強まる。
「トランプ氏と再び働くのを楽しみにしている。彼は(加盟国が)防衛費を国内総生産(GDP)比2%以上に高めるよう刺激した。彼のおかげであり、もっとやる必要がある」。
北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長は7日、ハンガリーのブダペストで開かれた欧州政治共同体(EPC)首脳会議に先立ち、記者団にこう語った。
オランダ前首相のルッテ氏は、1期目の大統領時代のトランプ氏と何度も対面し米欧連携について協議した経験がある。トランプ氏は過去に米国以外のNATO加盟国の防衛支出が少ないと不満を表明し、有事に欧州加盟国に対する防衛義務を果たさない可能性に言及した。
ルッテ氏はトランプ氏の発言が欧州の防衛費増加につながったと持ち上げ、ロシアや北朝鮮といった欧米共通の脅威に共同で対処すべきだと訴えた。
トランプ氏がNATOの活動やウクライナ支援に消極的にならないよう、まずはつなぎ留めをはかる。
マクロン氏「戦略的自立」説く
中長期的には、欧州の安保を巡っては、欧州のNATOや欧州連合(EU)加盟国が主体的に強化していくべきだとの考えが出始めている。
仏大統領府高官によると、7日の会議でもマクロン大統領が欧州の「戦略的自立」の重要性を説いた。「我々の安全をいつまでもアメリカに委ねるわけにはいかない」と明言した。
「欧州の未来は私たちの手にある。今こそ行動しなければならない」。EUのフォンデアライエン欧州委員長も会議でこう強調した。トランプ氏との協調に触れながらも「(欧州が)防衛力と防衛投資を強化し、備える」必要があると話した。
「地政学的なアウトソーシングの時代は終わった」。ポーランドのトゥスク首相は2日、X(旧ツイッター)で米国依存からの脱却は不可避だとの認識を示した。NATO加盟国には多くの米軍兵が駐留し、米国製の兵器に頼る現状がある。NATOは欧州の加盟国の兵器増産を後押しする。
EUは年内の発足をめざす欧州委員会の新執行部で初めて防衛担当の欧州委員ポストを新設する。フォンデアライエン氏はEUが一体となって域内の防衛産業を振興し、「防衛同盟」を形づくる構想を描く。
フィンランド前大統領のニーニスト氏はフォンデアライエン氏に米中央情報局(CIA)に相当するEUレベルの情報機関の創設を提言した。
域内の「結束」課題に
欧州内の結束を保てるかが課題となる。
「これは新しい状況だ。欧州は応えないといけない」。ハンガリーのオルバン首相は7日の会議後の記者会見で、トランプ氏の返り咲きに喜びを隠さなかった。同氏と協力し、ウクライナとロシアの停戦交渉を進めることに意欲を示した。
権威主義的な政治手法をとり、ロシアにも融和的なオルバン氏はウクライナ支援の拡大に否定的だ。早期の和平交渉入りを唱え、EUやNATOの重要決定を阻もうとする場面が目立つ。
EUの外交・安保分野の決定には全会一致が必要で、NATOは全加盟国の同意がいる。一国の拒否権の存在感は高まる。
2010年からハンガリーで政権を握るオルバン氏も、内政では権力に陰りがみえてきた。地元メディアによると、同氏率いる極右ポピュリスト政党の支持率は10月の世論調査で約20年ぶりに2位に転落。中道右派が首位となった。
インフレに加え、欧州委との度重なる対立やロシア寄りの姿勢が影響したとみられる。26年春のハンガリー議会選の結果次第でEU内の構図は変わり得る。
オルバン氏や他のEU内の極右勢力は、トランプ氏との近さをアピールして支持拡大に躍起になっているともいえる。
オランダの極右政治家ウィルダース氏は6日「愛国者たちは世界中で選挙に勝利している」と誇り、「自国第一」の考えや不法移民の排除こそが有権者の求めなのだと説いた。
「有志国」で連携も
トランプ氏の返り咲きや欧州内の対立が響き、NATOやEUの意思決定が停滞するリスクは高まる。
国際機関での粘り強い交渉や妥協は不可欠だが、安保に対する危機意識を持つ有志国がNATOなどの決定を待たずにウクライナ支援などを進める機運も生まれる。
ポーランドのトゥスク氏は7日、英国も参加するEPC会合に合わせ、英国やフランスの首脳と個別に会談して安保強化策を話し合う意向を明かした。
「英国はEU非加盟だが、安保では共通の体制を組める」との期待を述べた。ロシアとの国境に近い中東欧や北欧、バルト3国はこうした議論のけん引役になっている。
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EUの防衛・安全保障の強化、戦略的自立は、加盟国間の足並みが一致せず、進展が阻まれてきました。
フランスは伝統的に戦略的自立を重視する立場ですが、ドイツや中東欧諸国が米国の欧州へのコミットを低下させることに繋がりかねないとして消極的だったと理解しています。
しかし、トランプ1.0での対米関係の緊張、ロシアによるウクライナ侵攻という環境変化は消極派の国々も戦略的自立を支持する立場に変えました。
マリオドラギ氏によるEU改革の提言「欧州の競争力の未来」でも、防衛をEUの連携を通じて強化すべき領域としています。
立ちはだかるのは赤川総局長のコメントにあるとおり、リーダー不在、財源不足の問題です。
日本はどうするのでしょうね。
今年、米国が対立する州同士の内戦状態に入った近未来をリアルに描く映画「シビル・ウォー」が、世界的にヒットしました。
今度の選挙結果をどう評価する方も、米国が今まで以上に移り気で安定感を欠く同盟国になった点では恐らく、一致するのでしょう。
親米一辺倒が最大の外交戦略のように見える国々の、ひとつに残り続けるのか。詳しい方々の解説や、記事を読んでみたいと思いました。
究極の目標は「欧州軍」。外交・安保で米国と距離を置くフランスがけん引役です。
この記事にあるようにトランプ2.0で追い風がある一方、実現には2つのハードルも。
1つ目は域内の政権弱体化。ドイツはレームダックで、来年の総選挙待ち(以下リンク)。フランスも27年の大統領選待ち。独仏が機能不全ならEUも動けません。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR07E0Y0X01C24A1000000/
2つ目は財政余力の問題。米国なしなら、欧州は軍事費を爆発的に増やさないと。
景気低迷のなか、果たしてできるのか。 兵器の共同開発など手近なところから始め、「独自の軍」は数十年先という息の長い工程表になっていくでしょう。日本が積極的に欧州との兵器開発に加わるのはありだと私は思います。
2024年に実施されるアメリカ大統領選挙に向け、ハリス副大統領やトランプ氏などの候補者、各政党がどのような動きをしているかについてのニュースを一覧できます。
データや分析に基づいて米国の政治、経済、社会などに走る分断の実相に迫りつつ、大統領選の行方を追いかけます。
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