トランプ氏㊨はマスク氏を外国首脳との協議に同席させる=AP
【ワシントン=坂口幸裕】
トランプ次期米政権で要職に就く起業家のイーロン・マスク氏が機密情報を扱う条件となる手続きを順守していない疑いが浮上した。
米メディアによると、米空軍は外国への漏洩懸念から高度な機密へのアクセスを拒否した。
スペースX弁護士も「機密接触できないよう」促す
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は国防総省が11月に調査を開始したと伝えた。当局者の話として、イスラエルを含む複数の同盟国もマスク氏が機密情報を他国と共有する可能性を懸念しているとも報じた。
マスク氏率いる宇宙開発会社の米スペースXは衛星通信事業「スターリンク」を巡り、偵察や弾道ミサイルの察知など軍事利用に特化させた技術を米連邦政府に提供する契約を結んだ。ロシアの侵略が続くウクライナでもスターリンクのサービスを手がける。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、スペースXの弁護士が機密を含む同社の事業にマスク氏が接することができないようにすべきだと同社の経営幹部に助言した。
マスク氏はロシアのプーチン大統領を含む外国首脳と定期的に接触しているとされる。WSJによると、スペースXの弁護士は「うっかりと機密を漏らすおそれがある」と懸念。機密を扱う資格制度「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」の保有を認めないよう促した。
スペースX内では、外国首脳と接触したり海外渡航したりした際の報告義務を順守しないマスク氏の行動を疑問視する声が出ていた。
警告した社員は解雇されたり担当を外されたりしたケースがあり、報復をおそれて黙認する社員もいたという。
マスク氏「ディープステートの裏切り者」と報道に反発
マスク氏は17日、X(旧ツイッター)で「ディープステート(闇の政府)の裏切り者が旧来メディアの手先を使って私を追い詰めようとしている」と反発した。「戦いを始めることを好まないが、それを終わらせる」と記した。
トランプ氏は次期政権で新設する「政府効率化省(通称DOGE)」のトップにマスク氏を起用する。2025年1月20日に大統領に返り咲けばマスク氏に高度な機密へのアクセスを認めるとの見方が広がる。
米大統領は特定の人物に機密へのアクセスを許可する権限をもつ。連邦議会は仮に問題が生じた場合、付与を決めた経緯などを調査できるものの剝奪する権利はない。
トランプ氏は11月5日の大統領選で勝利後に対面や電話でウクライナのゼレンスキー大統領ら外国首脳と協議した際にマスク氏を同席させた。マスク氏は外交への関与に意欲的で、トランプ氏は11日にフランスを訪れた際も同行させた。
中国、関係深いマスク氏「強い影響力」との見方
米電気自動車(EV)大手テスラの最高経営責任者(CEO)も務めるマスク氏は中国との関係も深い。主力の上海工場を世界への輸出拠点と位置づけ、中国側も厚遇する。
今年4月には訪中し、李強(リー・チャン)首相と会談した。テスラの運転支援システムを使った車の走行に関し、中国当局の承認を得るのが目的だったとされる。中国江蘇省は7月、テスラのEVを公用車として調達対象にすると決めた。
第1次トランプ政権で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトン氏は「テスラによる中国での投資レベルを考えると、中国はマスク氏に強い影響力を持つ」と話す。
1990年代後半に米国企業が高度な技術を中国に漏洩していた事実が発覚し、米政府と1400万ドルの罰金支払いで合意したことがある。
ボルトン氏は米中がしのぎを削るさなかに当時の二の舞いになりかねず「中国に機密を漏洩しかねない深刻な事態だ」と警鐘を鳴らした。
ドナルド・トランプ次期アメリカ大統領に関する最新ニュースを紹介します。11月の米大統領選挙でハリス副大統領と対決し、勝利しました。次期政権の行方などを解説します。