「ロシア軍は2024年に4168平方キロメートルを獲得する一方、42万人の死傷者を出したと伝えられる」「ウクライナの兵員数は引き続き減少している。
無断離隊者も増加している」「24年11月、ルーブルは対ドルでウクライナ侵略以降の最安値をつけた。インフレ圧力が引き続き強まっている可能性は高い」米戦争研究所(ISW)、カーネギー国際平和基金のマイケル・コフマン氏、英国防省の見解だ。
ロシアが人的・経済的損失を顧みず、国力に劣るウクライナは領土を失っている。両国の損耗は進んでいるが、すぐに軍事的に破綻するとは考えづらい――。シンクタンクの分析は、おおむね収束しつつある。
ウクライナ戦争は4年目に入る。占領地の帰属、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟など停戦に向けたハードルは高い。
武力による現状変更を認めれば世界の秩序は揺らぐ。半面、ロシア経済は2兆ドル(約316兆円)と米国の10分の1に満たなくなった。核戦力と諜報(ちょうほう)、軍事技術の流出を除けば脅威は低減した。
調査会社CREAのデータもロシアの孤立を物語る。欧州連合(EU)のロシアからの化石燃料輸入額をみると、22年1月は1日あたり5億6000万ユーロ(約920億円)に上ったが、24年12月には7700万ユーロに減少した。
24年に最高値を更新したのは日経平均株価や米ダウ工業株30種平均だけではない。ドイツ株価指数(DAX)や欧ストックス600も高値を付けた。
ドイツやフランスでは一時的に電力価格がマイナスになる事態が発生した。EUの風力発電は原子力に次ぐ電力源になった。世界は脱ロシアを前提に動く。
米国、中国に集中
トランプ次期米大統領が「(ウクライナ戦争は)欧州にとってより重要だ」と支援縮小を匂わせ、早期停戦を掲げるのには冷徹な判断がある。
欧州の秩序を保つコストは欧州に回す。米国は資源を中国の抑え込みに割く。J・D・バンス次期副大統領は「米国の真の問題、中国に集中できる」と話す。
毛沢東の生誕から131年となる24年12月26日。中国・四川省成都で「第6世代」とみられるステルス戦闘機が飛行した。航続距離が長く、高高度飛行が可能で、多くの兵器を搭載できるもようだ。翌27日には最新型の強襲揚陸艦が上海で進水した。
半導体の国策ファンドは12月末、930億元(約2兆円)を投じ「実動部隊」を設立した。
太陽光パネル、粗鋼、造船、風力発電、車載電池。日本経済新聞社が主要71品目を対象に23年のシェアを調べたところ、中国は17品目で首位に立ち米国の26品目に続いた。
弱点は半導体ぐらいしか見当たらない。
習近平(シー・ジンピン)指導部が目指す、供給網の穴を防ごうとする国家戦略は成果を上げつつある。
一方、中国の生産年齢人口は13年のピークから5000万人減少している。不動産需要の先食い、過剰債務も影を落とす。経済成長率は40年にかけて2〜3%台に低下していくとの見方が一般的になった。
中国の台頭に限界がみえたとき、焦った習氏が米国との衝突を選ぶリスクはどれほどか。トランプ氏はデンマーク領グリーンランドやパナマ運河、カナダを巡り乱暴な言説を繰り返す。
イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦協議は膠着し、シリアで起きたような混乱の火種はくすぶったままだ。
長期金利に予兆か
このコストは誰が、どのように負担するのか。
米長期金利は4.7%と24年9月の利下げ開始から1%超上昇した。インフレ懸念だけではない。期間が長い債券を保有する場合の上乗せ金利「タームプレミアム」はプラスに転じた。
日本、欧州の国債も売られ始めている。宴に酔う株式をよそに、静かに警告を発している。
米調査会社ユーラシア・グループは25年の10大リスクにリーダーシップの空白、トランプの支配、米中決裂を挙げた。
ロシアとウクライナの停戦はあり得るが、世界は緊張を増している。荒(すさ)みゆく世界のシナリオを読んでみた。
(張勇祥が担当した。グラフィックスは田口寿一)
[日経ヴェリタス2025年1月12日号]