晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

チャールズ・ディケンズ 『オリバー・ツイスト』

2011-12-21 | 海外作家 タ
去年か一昨年でしたか、古本屋をウロウロしていたら、ディケンズの
『オリバー・ツイスト』が棚にあったので、ちょうどその頃、漱石に
ハマっていて、英国留学時代に影響を受けた作家ということで興味が
あり、これはラッキーと、確認もせずに文庫で上下巻買ったつもりが、
見てみたら上巻が2冊。

店員も「これ、上巻2冊ですけどよろしいですか」の一言くらいあって
もよさそうじゃないか、なんていう自分勝手な怒りをツイッターでつぶ
やいたものです。

とりあえず、上巻を読んで、そのまま放置。そして先日(たぶん)同じ
古本屋をウロウロしていたら、下巻を見つけたのでした。
上を読んだのはだいぶ前で、もう一度読み返して、長い時間をかけて、
ようやく読了。

イギリスにある救貧院で、ある身重の女性が男の子を出産し、まもなく
死んでしまいます。この男の子は、救貧院の“ならい”で、アルファベ
ット順に名前を決めるもので、「オリバー・ツイスト」と名づけられる
のです。

この救貧院とは、救貧法という法律が1600年代に原型が出来て、そ
れが実用的になったのが、ちょうどこの作品の書かれた1800年代の
中期で、この法律は富裕階級の善意から生まれたものではあったのです
が、その運営たるや劣悪を極めるもので、オリバーをはじめとする、親
のいない子ども達の境遇は、つねに栄養失調状態で、粗末な服で、ちょ
っとしたことで暴力をふるわれ・・・

オリバーは、そこそこ働ける年齢(といっても7歳とか8歳で)になるや、
煙突掃除の奉公に出され、次に棺桶大工のもとに奉公に出されるのですが、
そこにいた兄弟子みたいな陰険な小僧にいびられて、耐え切れずにオリバー
はそこから脱走します。

どうにかロンドンのまで歩いてたどり着いたオリバーは、疲れて座っている
ところ、「若い紳士」に声をかけられます。
よくわからないままついてゆくと、その「若い紳士」、実際はまだ少年でし
たが、彼はユダヤ人のフェイギンという窃盗組織の親分の手下だったのです。

オリバーはフェイギンに懐柔され、街中でスリを決行しますが失敗、警察
に捕まってしまいます。しかし被害者の老紳士は、寛大にもオリバーを許し、
家に招きます。
ここでオリバーは、家に飾られた一枚の絵にひどく惹きつけられるのですが、
それは老紳士ブラウンロー氏と、のちのち関係してきます。

一方、フェイギンら窃盗団は、アジトを知っているオリバーが捕まったと
聞き、なんとしても連れ戻さねばと、外出していたオリバーをひっ捕まえて
ふたたび悪の巣窟へ・・・

今度の悪巧みは、スリや万引きといったレベルではなく、強盗。しかし、
中にいた使用人が気付いて、銃を発砲、先に忍び込んでいたオリバーは撃たれ
てしまい・・・

たまたま強盗に入った家ですが、そこの夫人はじつはオリバーと関係があって、
さらに先述したブラウンロー氏もオリバーの出生を知っていて、というふうに、
ずいぶんと(都合のいい)話の展開なのですが、それを差し引いたとしても、
19世紀のロンドン、イギリスの情景、とくに貧困層の暮らすエリアの描写
は、ヘタな歴史書を読むよりずっと身に入ってきます。
これで思い出したのが、漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」。この作者
の秋本治さんの描く東京の下町の情景描写、そして主人公の両津が語ったり
思い出したりする生まれ故郷の浅草に関する話題は、そこら辺のガイドブック
よりも素晴らしいです。

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ボストン・テラン 『神は銃弾』

2011-09-12 | 海外作家 タ
なんとなくですけど、夏の寝苦しい夜は、ノワールが合う
ような気がしますね。なんとなく、ですけど。

というわけで、アメリカのノワールといえば、ジェイムズ・
エルロイと、ボストン・テランくらいしか思いつかなくて、
とりあえず手にとってみたのがテランのデビュー作。
アメリカ探偵作家クラブ(MWA)最優秀新人賞ノミネート、
ならびに英国推理作家協会(CWA)最優秀新人賞を獲得
したそうです。ちなみにMWAの新人賞は、エリオット・
パティスンの「頭蓋骨のマントラ」という作品で、こちらは
だいぶ前に読みました。ただ疲れた、という記憶しかありま
せんが。

カリフォルニア州の刑事、ボブは、別れた妻に引き取られた
娘ギャビと、ちょっとした「あいさつ」を夜のパトロール中
にするのが楽しみ。
それは、家の近くを通ったときにパトカーの明かりを点滅さ
せると、娘も部屋のライトを点けたり消したりする、という
もの。ところが、ある夜、家の前を通っても、娘の部屋は暗
いまま。

その時間帯、ボブの別れた妻、サラと再婚した男、サムは、
惨殺されて、娘のギャビは謎の集団に連れ去られて・・・

あまりに惨い殺され方をしたサムとサラ。そして行方不明
の娘。ボブは調べていくうちに、「左手の小径」というカルト
教団がこの犯罪に絡んでいるのでは、と考え、その教団から
命からがら逃げ出して、今は麻薬中毒の治療をしている、
ケイスという女性をたずねることに。

しかし、ボブの上司であるジョン・リーや、サラの父親で、
かつての義父のアーサーは、ボブが捜査することを、どこか
嫌がっているような感じがするのです。

ボブはケイスに会い、犯行現場の写真を見せると、ケイスは、
これはやつらの仕業だと断定し・・・

そして、ケイスとボブは、「左手の小径」のリーダー、サイラス
を探しに、娘はまだ生きていると信じて連れ戻しに向かうのです
が・・・

この事件には、25年前の、トレーラーハウスの中で殺害された
女性が絡んでくるのですが、それがサムとサラが殺されてギャビ
が誘拐されたこととどう関係しているのか、という背景というか
過去は重要なカギではあるのですが、そんなことはお構いなしに、
まあ全体的に“ブッ飛んで”いるといいますか、運転の荒い人の
車の助手席に乗ったような気持ち。

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ジェフリー・ディーヴァー 『石の猿』

2011-02-10 | 海外作家 タ
元ニューヨーク市警科学捜査部長、事故によって首から下が麻痺
してしまった、リンカーン・ライムのシリーズ第4作、前作の
「エンプティー・チェア」では、麻痺状態を手術で治す方法を
医師と話し合うためにニューヨークから南部の病院に出かけて、
そこである事件を解決する”ハメ”になってしまったのですが、
『石の猿』のオープニングから、あれから手術をして云々という
部分は無く、相変わらず麻痺状態でベッドに横たわり、介護助手
のトムをあごで、もとい「あごで使うような口調」で使いまわし
ます。
しかし、恋人でニューヨーク市警鑑識のアメリア・サックスの
心情描写で、医師とアメリアとの会話が文中の合い間合い間
に出てきて、成功率の低い手術をライムが受けるか否か、という
内容以外になにやら”意味深”なやりとりがあります。

物語のスタートは、中国の犯罪組織「蛇頭」の手引きでロシアから
アメリカへ不法入国しようとボロ船に乗り込み大西洋を横断して
いるところから。

この船の船長が、「蛇頭」のメンバー、通称”ゴースト”にある
事を告げます。それは、どうやらアメリカの沿岸警備に追われて
いるらしい、というもの。
何者かの密告か、それとも裏切りか?ゴーストは思い切った手段
にうって出ます。それは船を爆破して、逃げるのです。
しかし、狭い倉庫に押し込められた不法移民たちは閉じ込められた
ままで、彼らは必死で倉庫から這い出します。

一方、ロシアから移民を運ぶ船が大西洋を横断していると先読み
していた移民帰化局とFBIの捜査陣は、突然の船の爆破に驚き
ます。
緊急用のゴムボートで逃げるゴーストは、船から逃げようとして
いる移民たちを殺そうとします。なぜなら、彼らは自分の顔を
見てしまっているから。しかし全員を始末するほど時間はなく、
さらに、上陸地点で待っているはずの「蛇頭」の仲間は、逃げて
しまったのか見当たりません・・・

命からがら上陸した不法移民の数人は、とりあえず行く当ては
ニューヨークと決めて、教会に置いてあった小型バスを盗みます。
上陸地点で待機していた警察とアメリアは、捜査を開始。かろう
じて生きていた移民を助けます。

そこから、ゴーストの移民者殺害がはじまるのです。まずはじめに
自分を裏切って上陸地点から消えた仲間を殺害。
そして、どうにかこうにかニューヨークにたどり着いたと思われる
ふたつの家族を全員”始末”しよと探し出します。
それを食い止めようとゴーストの行方を探すライムのチーム。
しかしライムたちは、大都会の雑踏に紛れ込んでしまった中国人家族
の行方を知らないので、彼らに逃げろと伝えることもできず・・・

ライムの捜査チームに、この船の移民たちに紛れ込んでいた中国の
公安局刑事ソニー・リーが加わります。はじめは中国の”迷信”の
たぐいをライムに教えたりして煙たがられます(部屋での喫煙も
咎められます)が、次第にライムとの距離も縮まってゆきます。

しかしこのシリーズ、またもや「ええっ、これで終わりじゃないの?」
と驚かされます。読み始めたら止まりません。
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ジェフリー・ディーヴァー 『エンプティー・チェア』

2010-09-07 | 海外作家 タ
『エンプティー・チェア』は、元ニューヨーク市警の科学捜査部長で、
ある事故が原因で四肢麻痺となり、首から上と片手の一本の指のみが
かろうじて動く、といった状態のリンカーン・ライムと、ニューヨーク
市警の警部でリンカーンの助手の女性、アメリア・サックスのコンビ
が活躍するシリーズの第3作目の作品。

第1作「ボーン・コレクター」の、ニューヨークの連続殺人犯、そして
2作目「コフィン・ダンサー」の、ライムも怖れるほどのプロの殺し屋、
暗殺請負人との対決が手に汗握るスリリングな話で面白かったのですが、
今回は、小さな田舎町で起きた謎の事件を解き明かすという、ちょっと
それまでとは違って、かなり複雑に入り組んでいます。

さらに、前作で恋愛関係に発展したライムとサックス。
ニューヨークから舞台をノースカロライナ州の小さな町に移したのは、
ライムはかすかな希望をたよりに、ノースカロライナにある、脊椎損傷の
手術に定評のある病院で、手術を受けようとやってくるのです。

そこに、ライムの知り合いのニューヨーク市警の「いとこ」というジム・ベル
保安官が訪ねてきます。かねてよりライムの鑑識能力の高さを聞いていたジムは、
自分の管轄する郡の小さな町で起きた事件の解決に、ライムに手を貸してもらい
にお願いにきたのです。

サックスは乗り気ですが、自分の慣れない場所や違う環境での捜査はやりにくく、
それが大きな失敗につながるおそれもあると危惧するライム。

しかし、なんだかんだで捜査に協力することになります。
ある日、大学院生の女性、メアリー・べスが誘拐されます。その現場の傍らには
シャベルで殴られた男の死体が。そして、すでに死亡したとみられるメアリーに
花束を誘拐現場に供えようとした地元の病院に勤務する看護婦、リディアも警察
の見ていない隙に何者かに連れ去られます。
リディアは男に、どこに連れてゆくのか聞きます。すると男は「メアリー・べスの
ところだ」と答えます。

じつは、この事件の犯人は、問題ばかり起こしている16歳の少年、ギャレット
の犯行だと警察は判断していたのです。
数少ない手がかりから、町の北を流れるパケノーク川のさらに北に広がる森の中
へと捜査の手は進み、ようやく、リディアとギャレットが見つかります。
しかし、ギャレットはメアリー・べスを監禁している場所をしゃべろうとしない
ばかりか、自分は悪いやつから彼女を守っていると主張するのです。

そこでライムの神がかり的な鑑識力と洞察力と推理力で、メアリー・べスの監禁
場所を探し出します。
メアリーはようやく見つかりましたが、監禁されていたときにギャレットとは違う
二人組の男に乱暴されかかったとメアリー・べスは言うのです。

メアリー・べスを誘拐するときに男を殺した容疑に関してはギャレットは否認。
殴ったのは事実だけれども、殺してはいない、と。
話を聞いていたサックスは、幼い頃に両親を事故で失い、その後里親
家族を転々とし、問題を起こしてはいたものの、何よりも昆虫に対して愛情を
そそぐギャレットは、この事件の犯人ではないと思い、拘置所からギャレットを
脱走させてしまうのです・・・

ここから、事態はとんでもない方向へと進みます。一難去ってまた一難かと
思いきや、二難、三難というぐあいにライムとサックスは窮地に立たされ、
ふう、ようやく解決、かと思ったら、ものすごい展開に驚かされます。

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スコット・トゥロー 『推定無罪』

2010-08-18 | 海外作家 タ
スコット・トゥローといえば、ジョン・グリシャムやリチャード・ノース・
パタースンなどと並んで、1980年代後半のリーガル・サスペンス小説
ブームの旗手、として有名ですが、特にこの『推定無罪』は、小説は本国
アメリカでベストセラー、イギリスのミステリー文学賞受賞、さらに、
ハリソン・フォード出演の映画は大ヒットと、まさに金字塔といった作品
なのですが、『推定無罪』以降に出版された小説を先に読んでしまった感想
としては、これが最初にして最高だったのではないか、と。

もちろん好き嫌いはあるでしょうが、『推定無罪』は大衆文学的に描き、
それ以降の作品は、純文学的に描いたり、また、純文学と大衆文学の橋の
中間のようにした、とする作品もあったりして、なんというか、いい意味
でいえば「新鮮」なんでしょうけど、この「ぶれ」が賛否の分かれるところ
でもありますね。

でも、今まで読んだ作品すべて、緻密な構成、人物の背景や心理、情景といった
描写は見事で、法廷における、原告対被告といったシンプルな対決構図だけでは
なく、そこに、裁判のあり方、さらに法制度そのものを問う、といった主テーマ
は、たんにハラハラドキドキするだけでなく、いち裁判の深み、重みを感じさせ
てくれます。

4月、女性検事のキャロリンが、自宅で殺害されているのを発見されます。
検死結果によると、性的暴行を受けた後に後頭部に打撃を受けて死亡したと思われ、
キンドル郡の地方検事、レイモンドは、検事補のロバート・サビッチに、検察側
からこの事件の捜査を依頼します。
しかし、じつはかつてロバートは一時期、キャロリンと関係を持った時期があり、
複雑な思い。さらに、地方検事の選挙が間近に迫って、出馬するレイモンドは
頼んだまま多忙で、ロバートの相談に耳をかしてくれず、同じく次期検事選挙に
立候補している、ロバートと同期のニコ・デラ・ガーディア(通称ディレー)から
は、レイモンドの負けは濃厚で、じぶんの当選したあかつきにはロバートを次の
主席検事補にしたいとのたまいます。

ロバートは仲の良い刑事のリップの協力のもと、独自で捜査をはじめます。
そこに、かつてキャロリンが担当していた保護観察時代のファイルが抜けている
ことに気づいたロバートは、なんとか時間の空いたレイモンドにその件を訪ねると、
あるコピー用紙をロバートに渡します。
そこには、ある男が、賄賂を送って無罪となり、それに検察や判事が絡んでいる、
という匿名の手紙で、なんとそこには、ディレーの片腕の検事補モルトの名前が・・・

捜査も行き詰まっていた中、晴天の霹靂が。キャロリンの部屋にあったグラスに
ついていた指紋が検出されます。なんとそれはロバートの指紋。
ロバートは、キャロリン殺害と、独自捜査でつかんだ情報を検察に教えなかった
情報隠避の疑いがかけられ・・・

本筋に並行して、ロバートが精神科医にカウンセリングを受けているシーンが
あり、心の悩みを吐露します。
キャロリンとの出会い、家庭がありながら彼女に惹かれてしまった自分の脆さ、
妻バーバラと自分との問題、そして、突然キャロリンから別れを切り出された
ときのショック、さらに、その後釜の愛人は、ロバートのよく知る人物。
夜、ロバートはショックからか、酒で開放的になったからか、バーバラに不倫の
事実を告白。しかしバーバラは夫を愛していて、別れない、と。
そしてロバートには、ある恐ろしい感情が芽生えます。キャロリンが死ねばいい・・・

ロバートの弁護士には、キンドル郡内きってのやり手弁護士、アレハンドロ(サンディ)・
スターンが担当することに。原告である検察側には、新任の検事であるディレーと、
検事補モルト。

ここから、裁判となっていくのですが、この裁判の判事には、ラレン・リトルという
検察の敵、被告の味方として有名な黒人判事が担当に。しかし、検察側証人に、なんと
レイモンドの名前が。
はたして、ロバートは無罪を勝ち取れるのか。キャロリンを殺したのはいったい誰か。
警察、検察に漂うきなくさい雰囲気。ロバートは嵌められたのか・・・

裁判の行方、真犯人と知るごとに「ええっ」「ああっ」「マジっ?」と思わず声が
出てしまうほど。家で読んでいてよかったです。

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スコット・トゥロー 『囮弁護士』

2010-06-26 | 海外作家 タ
スコット・トゥローの作品はこれで2作目、といっても順番は
バラバラで、本来ならばデビュー作の「推定無罪」から順番どおり
に読んでいくのがスジなのですが、いちばん最初に読んだのが
2作目の「立証責任」、そして、この『囮弁護士』は、3,4作
を飛ばしての5作目。

もっとも、ストーリーに連動性があるというわけでもなく、ただ共通の
登場人物が出たりして、その人物像の把握という意味でも、順番どおり
に読むべきなのですが、そうでなくてもちんぷんかんぷんということには
なりません。

連邦検察官のスタン・セネットは、キンドル郡の民事裁判の判事が多額の
賄賂をもらっているのではとの情報をつかみ、その賄賂を贈っている側の
弁護士ロビー・フェヴァーの「弱み」を握って、連邦の捜査に協力させるの
です。

その弱みとは、ロビーの妻はALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病に
おかされていて、もし夫である自分が逮捕、収監でもされれば、妻の面倒を
見ることができなくなるのです。

協力とは、囮役を演じてもらうこと。目下、連邦検察が追っている判事の
中でのボス格はブレンダン・トゥーイ判事。しかしこの判事の甥のモート
はロビーの弁護士事務所で働いており、伯父をこよなく尊敬するモートには
この囮捜査を秘密にしなければならず(情報がつつぬけになる)、FBIから
派遣された女性捜査官イーヴォン・ミラーを秘書役として事務所にもぐり込ま
せます。

盗聴、物的証拠(指紋や筆跡)など、まずは手下格の判事から次々と証拠を
挙げていきます。はたしてキンドル郡裁判所にはびこる腐敗は一網打尽となる
のか・・・

作品の語り手は、ロビーの弁護士であるジョージ・メイソンという人なのですが、
物語は主にロビーを使った囮捜査、そしてロビーの私生活とりわけ妻との闘病、
FBI女性捜査官イーヴォンのことが描かれており、特にロビーとイーヴォンの
関係は、イーヴォンの過去、人となりを詳しく聞きたがるロビー、事前に聞かされて
いたロビーについての注意(奴ににたらしこめられないように)を守るイーヴォン、
このふたりの展開が、人間ドラマとしての幅を持たせます。

あとがきにあったのですが、作者はこの作品を「純文学と大衆文学の橋の中間
あたり」と表していて、だからでしょうか、どうにも読み進むのが遅く(今月は
やたら忙しかったということもあって)読み終わるのにかなりの時間を要して
しまいました。
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スコット・トゥロー 『立証責任』

2010-02-13 | 海外作家 タ
スコット・トゥローとは、アメリカの現役弁護士にして作家、デビュー作
「推定無罪」の大ヒットさらに映画化によって、その後、弁護士の肩書き
を持ちながらの作家が多く出現することになる立役者となったわけで
すが、訳者あとがきによると、弁護士兼作家のもうひとりの代表格の
ジョン・グリシャムは、デビュー作「評決のとき」は「推定無罪」の出版
の数ヶ月前に出版社に原稿を送っているので、トゥローに影響された
わけではない、というような意味の言葉を「誓って」だの「宣誓しても」
といった、ややムキになって否定しているところが面白いのですが、
それにつけても裁判が日常当たり前に存在しているアメリカにとって、
法廷にはドラマチックな、小説のヒントとなるような話題がごろごろ転
がっているのでしょう。

アメリカの中西部、架空の地域キンドル郡に住む弁護士アレハンドロ・
スターンは、シカゴからの帰り、家に着くと、そこには30年連れ添った
妻のクララの死体が。
状況から自殺と思われ、救急車と警察、それにスターンの子供たち、
医者の長男ピーター、ニューヨークに住む弁護士の長女ステラ、キンドル
郡郊外に住む次女ケイトを呼びます。

ピーターは母の遺体の解剖を拒み、遺書も見つかったことで、そのまま
自殺として処理されます。その遺書は、メモに走り書きで「わたしを許し
てくださる?」とひと言だけ。
スターンは結婚生活で、ちゃんと愛を注いできたつもりでしたが、思い
がけない妻の答えの出し方に打ちのめされます。
そんな中、悲しみにくれる家族に突然の訪問者が。それはFBI特別
捜査官で、スターンの妹の夫、義弟であるディクソンの会社に対する
違法取引の大陪審への召喚令状だったのです。

スターンとディクソンは軍隊時代に知り合い、除隊後にディクソンは
スターンの妹と結婚します。ディクソンはその後商品先物取引の会社
を立ち上げ、いまや大金持ち。しかし強引なやり口で周りには敵も
多く、スターンの家族もあまり好感は持っていません。
ディクソンはなんとか信頼されるべく、スターンを会社の顧問弁護士
にしたり、ピーターを主治医にしたり、ケイトの夫ジョンを会社に
入れたりします。

連邦検察から、関係書類の提出を命じられるスターンですが、どんな
違法な取引があったのか検察から教えてもらえず、ディクソンに聞いても
知らんの一点張り。つまりどんな罪状かも分からずに召喚されること
となり、スターンは会社内に情報リーク者がいると訝ります。

そんな状況ですが、妻クララの遺産の話となり、そこで、生前クララが
現金85万ドルを引き落としていたことが分かります。その使途は不明。
やがて、ディクソンの会社の悪巧みがだんだんと分かってきて、そこに
どうやら娘ケイトの夫ジョンが絡んでいるらしく・・・

スターンはディクソンを救えるのか。そもそも彼の犯した罪とは。
妻の自殺の原因とは。生前に手にした大金は何のためだったのか。

男やもめとなったスターンは、それまで意識していなかった周りの女性
を考えるようになり、そして、ちょっとしたモテ期に突入します。
最終的にディクソンの不正が明らかになり、そしてその情報提供者も
意外な人物だったということも分かり、さらに妻の死の原因もスターン
の知るところとなるのですが、あまりに複雑。ちょっと集中して読まない
と話についていけなくなります。

仮に人物相関図を作るとしたら、その矢印や関係線はこんがらがって
しまうことでしょう。それくらい複雑。

登場人物の心の機微がじつに深く描かれています。スターンはユダヤ系
アルゼンチン人で、子どものころに家族とアメリカに渡り、そこから
苦労して弁護士の地位を手に入れます。しかし、彼の心には大きな穴が
あいているようで、妻を失い、子どもたちとの関係も難しく、さらに
義弟はトラブルメーカー。

「立証責任」というのは、通常裁判における検察側の仕事なのですが、
この物語における「立証責任」とは、スターンが証明しなければならない
数々の問題にたいして、最終的にスターンに責任の所在があるのか、
を問うものです。
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ジェフリー・ディーバー 『コフィン・ダンサー』

2010-02-07 | 海外作家 タ
前作「ボーン・コレクター」に続く、脊椎損傷により首から下の
動かない元ニューヨーク市警察科学捜査部長のリンカーン・ライム
と、ライムの指揮で現場で動くアメリア・サックスのコンビが活躍
するミステリー。
「ボーン・コレクター」では、立て続けにニューヨークで起こる凄惨な
殺人事件を、ライムの神がかり的な鑑識眼と推理力で犯人を追うの
ですが、『コフィン・ダンサー』は、相手はプロの殺し屋、その名も
「コフィン・ダンサー」と呼ばれる、棺桶と踊る女性の刺青を腕に持つ
名うての暗殺請負人で、まさに神出鬼没、正体不明で依頼は完璧に
遂行するすご腕。

話は、小さな民間航空会社のシカゴ行きの飛行機が上空で爆破し、
副社長で航空会社副社長のエドワードが爆死。その妻で社長の
パーシーともう一人の社員は、この航空会社がある武器密売業者
を乗せたときに密売業者にとって都合の悪い何かを目撃されたこと
で、この航空会社の飛行機を時限爆弾で爆発させ、さらに生き残った
ふたりも暗殺のターゲットとなってしまったのです。

そして、業者が依頼した暗殺者は、ニューヨーク市警ならびにFBIが
前から追っていた「コフィン・ダンサー」であることが分かり、ふたたび
監察のスペシャリストであるライムに協力を要請し・・・

検察側は、このふたりを証人として、武器密売業者を陪審にかける
ために保護しようとしますが、ダンサーの恐ろしさをよく知る市警
とライムは拒否し、自分たちの知っている「隠れ家」にふたりを匿い
ます。
しかし、その隠れ家もダンサーにばれてしまい、ライムの読みは後手
後手にまわってしまいます。
はたしてダンサーとライムの駆け引き、頭脳戦はどちらが勝利を
手にするのか・・・

ダンサーとは一体何者なのか。途中、盗聴でライムの存在を知るダン
サーは、自分と肩を並べるほどの頭の回転に驚き、なんとかライムの
居場所を知ろうとしているときに、捕まりそうになるのですが、ある
浮浪者と手を組み、地下に逃げ込みます。
なぜかダンサーは、この浮浪者に心を許し、自分の過去を話します。

現場を動き回るサックスとは、恋愛関係に発展しそうになるも、保護
されている航空会社社長のパーシーとライムの仲に嫉妬します。
それが現場とライムの指揮の歯車が狂って、何度かサックスは危ない
目に合います。

ライムのかつての恋人であり妻の話も出てきて、手に汗握るアクション
ミステリーの合間に人間ドラマも垣間見え、物語の幅が拡がります。

そして、なんだかんだあって、とうとうダンサーを捕まえたかと思いきや
、それはダンサーではなく、ふたたび証人とサックスは殺し屋の恐怖に
脅えることになってしまうのですが、この仕掛け、久しぶりに「えっ!?」
と、思わず声を出してしまったほど、ビックリしてしまいました。

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スコット・トゥロー 『死刑判決』

2009-10-13 | 海外作家 タ
80年代のアメリカで、法廷サスペンス小説ブームのさきがけ
となった、スコット・トゥローの「推定無罪」をどうしても読みたく
なり、本屋へと足を運んだのですが、その目当ての本が無か
ったので、同作家の別の作品を買って読むことに。
案外、こういうなかに思いもよらぬ名作、傑作と出会うもので
して、たんあるラッキーといってしまえばそれまでですが、自分
のセンスが光った、などと自画自賛したくもなります。

この作品は、原題が「Reversible Errors」、破棄事由となる
誤り、という訳となり、説明によると「再審理している上訴裁
判所が、一審判決を無効にせざるをえないほど重大な法的
誤謬。第一審裁判所はその判決を破棄するか、審理をやり
直すか、さもなければ判決を修正するよう指示される」とあり
ます。

ある町外れのレストランで、店主と客の女性、男性の3人が
射殺され、町のチンピラのロミー・ギャンドルフが逮捕され、
死刑判決が下されます。
それから10年後、ロミーの死刑執行まで1ヶ月となったとき
に、人身保護手続きのため連邦裁判所から弁護を押し付け
られた弁護士アーサーのもとに、10年前の3人惨殺事件の
真犯人はわたしだ、という男が現れるのです。

ロミーの判決は州裁判所で下されており、彼の無罪と真犯人
の立証の舞台は、連邦控訴裁判所へと移されます。しかし、
現在の主席検事補のミュリエルは、10年前の裁判での検察
を務めており、郡検事の跡を継ぎたいミュリエルにとって、差し
戻しは過去の汚点となるために防ぎたいところ。
そして、当時の判事ジリアンはこのロミー裁判ののちに収賄で
逮捕されて、しかし実は彼女はこのときドラッグ中毒であり、こ
れが露見すれば、当時の裁判そのものが成立しなくなります。
アーサーはジリアンに助言を求めますが、アーサーは彼女に
惹かれてしまい、やがて二人は恋仲に。
一方ミュリエルはというと、10年前にロミーを逮捕した警察官
ラリーと当時不倫関係であり、今回の連邦裁判でふたたび会
うようになります。
ロミーは完全に自白していて、その際に警察からの強要はなく、
しかし真犯人と名乗る男は、癌に冒されて余命いくばくもなく、
今さら嘘をつくとも思えません。

はたしてこの事件の真相はどうなのか。アーサーとジリアン、
ミュリエルとラリーの関係が10年前そして現在と交錯し、この
4人の視点と主観から、事件と裁判が描かれていて、エゴなの
か屈折した愛情なのか仕事に忠実なのか、善悪とか是非では
まとまりようもない人間ドラマがそこにあるのです。

話の後半に、死刑について考えさせられる一節があり、被害者
の家族や友人にとっては、少なくともだれも二度とこのろくでなし
に自分と同じような悲しい目に合わされずにすむという安心感は、
残された者の心の均衡を保つ、というもの。
たしかに、死刑になったからといって被害者が戻ってくることには
なりませんが、遺族の「心の均衡を保つ」ことが、人権問題や死刑
廃止などでないがしろにされてはいけないのです。
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ジェフリー・ディーヴァー 『ボーンコレクター』

2009-01-18 | 海外作家 タ
国連の国際会議が開催される厳戒態勢下のニューヨークで、空港からタクシー
に乗った男女2人が行方不明に。男のほうは、鉄道の線路脇に、手だけを地上
に出した状態で生き埋めに。その手の指には、男性にとってはサイズの小さい
女性物の指輪が、指の肉を削ぎ切り、骨に通してあった。

現場には、高精度の鑑識でなければ解読できないような次の殺害現場の予告。
同行の女性は、高温度スチームが今にも噴出する地下の縛られて監禁。

ニューヨーク市警察は、この事件の捜索に、3年半前に鑑識中の事故により
首から下が麻痺状態の、元市警鑑識係のスペシャリスト、リンカーン・ライム
に指揮を依頼。
一方、現場の鑑識には、はじめの殺害現場で被害者を発見、ただちに鉄道の
運行を止めさせて、近辺の道路封鎖を命じ、上司に怒られるはめになった刑事、
アメリア・サックスが担当することに。その日をもって異動する予定だった彼女
はいささか不満と乗り気せずに現場の鑑識に。

しかし、指揮するライムの鑑識の要求は、どうにも度を越す要求。
挙句、高温度スチームで蒸し殺された被害者女性の後ろ手でかけられていた
手錠の鑑識をしたいがために、被害者の手を糸鋸で切ってこいと命令。
これでは現場と場外指揮の関係は悪化。しかしライムは現場からアメリアが
持ち帰った数少ない証拠品で次の殺害現場を推理、行ってみるとそこには
またもや縛られて地下室の監禁されていた女性が・・・

『ボーンコレクター』とは、ニューヨーク殺人事件史によると、20世紀初頭
に起きた連続殺人事件の犯人シュナイダーにつけられたあだ名。
現代に甦った連続殺人鬼は、シュナイダーの殺害方法になぞって、被害者の
年齢や外観など似通った人を、同じような方法で殺していく。

最終的に犯人が分かって、その動機も解明されるのですが、それにしても
連続殺人事件に立ち向かう警察、その犯人像のプロファイリングをする、
どうにも神がかり的な洞察力、観察力、推理力を持つ男。
なんだかこの構図、どこかで読んだことがあると思ったら『羊たちの沈黙』
のクラリスとハンニバル・レクターの関係。

証拠や情報も乏しい状態でも、けっこう確信を突く推理が導き出される、
というのは、海外のミステリー小説によくある傾向。やや強引ともとれる
推理になってしまう場合もあります。
アガサ・クリスティの影響がまだまだ色濃いのかなあ、と思っちゃいます。
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