晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

ジョン・バーンズ 『エビータ』

2012-02-09 | 海外作家 ハ
その国で、実政権を握った夫のほうよりも、その夫人のほうが
有名になった、という話は古今東西(日本では・・・?)多く
ありますが、中でもこの「エビータ」は、ミュージカルや映画
の影響もあるのでしょうが、夫で元アルゼンチン大統領のペロン
よりも有名であることは間違いないでしょう。

そんなエビータの生涯、それからエビータの死後のペロンのノン
フィクションです。

本名、旧姓マリア・エバ・イバルグレンは、首都ブエノスアイレス
から西に100マイル以上のところにある寂れた、ちょっと強い風
が吹けば壊れそうな家に生まれ、母は、愛人生活をして、生計を
立てていたそうです。
その当時の暮らしぶりを、エビータは後年、世の中の不公平にショ
ックを覚えたと書いています。
中学生のときにエバは、学芸会で端役を与えられたのですが、それ
がきっかけで彼女は女優を目指すようになります。が、当時の彼女
を知る人の証言は、いつもおとなしく、目立たない、あまりパッと
しない女の子、まあ平たくいうとキレイではなかったようです。
それからエバは地元に巡業に来た歌手といっしょにブエノスアイレス
へ着いて行ってしまうのです。

さて、ブエノスアイレスに着いた彼女ですが、すでに首都にいた兄
(後年エバが大統領夫人になったときに大出世した)に助けてもらい
ながらもスターを夢見ていたそうですが、とても惨めな生活をして
いたようです。
ようやく舞台の端役をもらえるようになり、生活もそれなりに楽に
なってきたそうですが、当時の女優は、夜にちょっとしたバイト(
お金持ちの男性とお付き合い)もしていて、エバがそうしていたか
どうかは定かではありませんが、ある日、大金を持っていたことも
あったりしたとか。

そんなこんなでエバはラジオドラマに出演、そこそこ名前も売れて、
彼女は当時の逓信大臣の愛人になります。逓信大臣といえばラジオの
放送許可を出す所管であり、エバの給料は大幅アップ。
このときに軍事クーデターがあって政権が交代し、とあるチャリティー
イベントがあり、そこでエバはハンサムな若き将校、フワン・ドミンゴ・
ペロンと運命の出会いをはたします。

いくども政変が起こり、全国の労働組合を味方につけたペロンは大統領
に就任することに。この組合員を味方につけたのはエバの功績が大きく、
大統領夫人となってからは、それまでの低賃金に苦しむ労働者の給料
アップ、休暇の取得、女性の参政権などの地位向上、地方に公共施設
(学校、図書館、病院など)を建設するなど、大多数の貧しい国民のため
に奔走。
しかし一方では、自分を悪くいう富裕層、新聞などには容赦ない攻撃を
するなど、だいぶ恨みも買ったりしています。

ペロンが「軍事独裁政権」となっていることが多いようですが、彼は
大統領に就任すると同時に大佐の職を辞任、大統領在籍時に軍部とは
揉め事もあったりして、軍事政権ではなかったこと、それから「独裁」
ですが、確かにペロン政権時は(エビータのせいでもあったわけですが)
新聞や雑誌では大統領批判は許されず言論の自由は無く、逮捕、拘禁
などは日常茶飯事だったそうですが、”一応”は、民主的に選挙によって
当選したのです。

エビータは33歳の若さで死亡したのですが、その際、死体がアルゼンチン
国内から消えます。亡骸は長旅を経て、なんとイタリアにあり、しかも別名
で埋められていたとのこと。

本を読み終えて、ミュージカル「エビータ」の有名な曲「アルゼンチンよ、
泣かないで(Don't cry for me Argentina)」を聴きたくなってしまい、
ネットで探して視聴。
それにしてもアンドリュー・ロイド・ウェバーはほんとうに天才ですね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ニック・ホーンビィ 『ぼくのプレミア・ライフ』

2012-01-31 | 海外作家 ハ
この作品の原題は「Fever Pitch」つまり直訳すれば「熱狂」とか
そういう意味なのですが、イギリス在住の作者が、ロンドンにある
フットボール(イギリスではサッカーと呼ばない)チーム、かつて
元日本代表の稲本も所属したことのあるアーセナルを中心に、世相
も交えて描いた、スポーツライターでもない「いちファン」のエッセ
イ的な作品です。
そういえば、メジャーのボストン・レッドソックスの熱狂的ファンの
男、その恋人の女性(ドリュ-・バリモア)のラブコメ映画も原題は
同じでしたね。

アーセナルといえば、現在ではイングランドのプレミアリーグ(1部)
では、つねに優勝争いにからみ、"Big 4"だか"Top 4"の中の1チーム
(他は、マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、チェルシー)
に入るくらいの強豪ですが、この作者が少年時代に父親に連れられて
観に行って、ニック少年を虜にした1960年代後半当時のアーセナル
は、絶不調のど真ん中で、退屈なつまらないフットボールしかしない
ようなチームでした。

クラスメイトにアーセナルのファンはほとんどいなく、逆にファンを
標榜した日にはからかわれる始末。しかしニック少年は、チームの
スタイルであったり、シンプルに強いから好き、といった具合で夢中に
なったわけではなく、ホームのハイベリー(現在はエミレーツ・スタジ
アムに移転)の雰囲気込みで好きになったのです。

それから少年も成長し、一時期はスタジアムに足を運ぶことが無くなった
りもして、大学生活でロンドンを離れなくてはならなくなったり、しかし
カップ戦の決勝ともなれば、ロンドンにあるフットボールの聖地ウェンブ
リーまで出かける、どこか、好きとか嫌いとかいうレベルを超えた、家族
のような間柄といいますか、そういうスタンスで彼とクラブは結ばれて
いるように思えます。


作品では1968年から1991年まで描かれて、その間に起きた「ヘイ
ゼルの悲劇」と呼ばれる、1985年にベルギーで行われた欧州チャンピオン
ズカップ決勝リバプール対ユベントスで、死者39人、負傷者500人以上
を出した事故や、1989年のFAカップで死者95人という事故「ヒルズ
ボロの悲劇」も登場し、前から問題視されていたフーリガンや、サッチャー
政権当時の国内情勢などに言及しています。

この続編にあたるエッセイが出ているのか分かりませんが、ベンゲル監督が
就任してから、「1-0の退屈なアーセナル(せいぜい勝ててもこのスコア)」
とバカにされていたチームが、それまでの守備重視から、中盤から前にかけて
豪華な布陣となり攻撃的なチームへと変わり、2回のダブル(リーグとFAカップ
の両方に優勝)を達成、2003~04シーズンのリーグ戦無敗、2005年に
チャンピオンズリーグ決勝に進出したことなど、どういう気持ちで観ていた
のか、気になるところです。「今のガナーズ(アーセナルの愛称)は俺の好きな
ガナーズじゃない」とふてくされていたりして。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アーサー・ヘイリー 『マネーチェンジャーズ』

2012-01-09 | 海外作家 ハ
アーサー・ヘイリーの作品はジャンル的には「経済小説」に属する
のでしょうか、全部読んだわけではありませんが、企業内での出世
物語もあり、業界の内幕もありで、それでも堅苦しさはあまり無く、
自身を小説家、作家ではなく「ストーリーテラー」と称してるあたり、
なんとなくジェフリー・アーチャーのエンターテインメントぽくも
感じられます(翻訳者が永井淳さん、ということもありますが)。

アメリカの中西部にある大手銀行、ファースト・マーカンタイル・アメ
リカン(FMA)の創業者一族の頭取、ロッセリが、自分の死期が近い
ことを取締役会議で発言、そこでは後継者つまり次期頭取の指名はあり
ませんでした。

通常どうり、取締役会での投票で次期頭取が決まるという運びに
なるということで、副頭取の2人、アレックスとロスコーのどちら
かに期待が集まり、策士のロスコーはさっそく票集めの作業にとり
かかりますが、アレックスは、正当に評価されれば頭取に任命して
いただければ幸い、といったスタンス。

そしてロッセリが息を引き取り、次期頭取を決める会議で、アレックス
とロスコーは演説をしますが話し合いで決着がつかず、暫定的に、
副会長のパタートンが頭取に就任することに。

アレックスは、市内の貧困地域の再開発や支店の充実といった公共性
を主軸に、これは創業者であるロッセリ一族の信条でもあり、それを
守っていくことを主張、いっぽうロスコーはFMAを田舎のトップから
全米屈指の、バンカメリカ、チェースマンハッタン、モルガン、シティ
といった大手と肩を並べる銀行にすべく、悪評の耐えない巨大コングロ
マリット企業と提携をすべく奔走しますが・・・

物語はロスコーとアレックスの2人どちらが頭取になるかのレースを
中心に描かれていますが、それぞれのプライベートな部分もあり、
アレックスは心の病で入院している妻がいて、仕事にかまけて家庭を
顧みなかったことを悔やみます。そんなアレックスには弁護士の恋人
マーゴットがいますが、マーゴットは離婚を迫ったりはしません。
ロスコーの家庭はというと、こちらは仮面夫婦状態で、しかも妻は夫の
稼ぎ以上の暮し向きをして(ボストンの上流家庭出身)、家計は火の車
ということもあり、ロスコーは何が何でも頭取に就任したいと焦ります。

そこに、FMAのお膝元の支店で6000ドルが消えるといった事件が
起こり、女性支店長と本社の保安部長が犯人を探しますが・・・

本社でのゴタゴタと同時進行で、この支店の現金紛失騒ぎがあとあとに
なって絡んできて、偽造カードの組織と対決したり、話があっちこっち
に飛びますが、それらがうまい具合に重なっていて、最終的にまとめあ
げられているあたりは、さすが。

日本の某カメラ会社が巨額の粉飾決算をして、それを告発しようとした
外国人社長が解任させられ、その元社長が先日、再就任を断念したという
ニュースがありました。その理由は、取引先銀行との関係がうまくゆかな
いからだ、と述べていて、つまりその取引先銀行は、そんな内部告発を
するような「危なっかしい」人をトップにするのは考えもの、ということ
らしいです。まあその銀行の名前は敢えて書きませんが(○井○友銀行)、
その銀行の役員、いや行員すべてにこの本を読んでほしいです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ヘルマン・ヘッセ 『車輪の下』

2012-01-05 | 海外作家 ハ
作者とタイトルはよく知っていても読んだことは無く、かといって
買って読んでみよう、とまではいかない作品が多く、そのほとんど
は古典に属するものですが、先日ディケンズを読んだついで(とい
っては失礼ですが)に、とうとう『車輪の下』を読むことに。

ドイツの片田舎の小商人(仲買人兼代理店主)に住むギーベンラート
のひとり息子、ハンスは、幼いころから引っ込み思案で体も弱く、
しかし頭の良さは同年代の子どもたちよりずば抜けていて、しかし
家にお金の無いハンスは進学したいという希望も父に認められず、
お金の無い子弟はその当時、教会の神学校へ行くことしかできず、
猛勉強のすえ、成績上位で神学校へ入学します。

神学校は勉強の時間のほかは宿舎で暮らし、ハンスは「ヘラス」と
いう名前の部屋の9人部屋に入ります。
はじめのうちこそ成績上位で入学したハンスは大人たちからの期待
も高かったのですが、将来は詩人になりたいというハイルナーとの
友情が、ハンスの心の内に大きな影響を与えます。

もっとも、ハイルナーが性悪でハンスも堕落していった、というわけ
ではなく、あくまで「感化」された、ということですけど、ハンスの
成績はみるみる下がり、とうとう学校から、ハイルナーとの付き合い
をやめるように言われます。

そして、ハイルナーと過ごす時間を断ち切って、これから勉強を取り
戻そうとした矢先、ヘラスのクラスメートが死ぬといったショッキング
な事件が起こり、その他さまざまな要因が重なって、ハンスはもう
勉強ができなくなってしまい、中退します。
実家に戻って、仕事を見つけようとするハンスですが・・・

この話は、途中まではヘッセの自伝的な部分があって、じっさいヘッセ
は神学校に成績上位で入学して中退したそうです。
話の途中まで、ということは、ヘッセはその後見習い工から職人になって
、その合い間に詩や小説を書いて、やがてノーベル文学賞を受賞するまで
になるのですが、『車輪の下』のハンスは、そのようにはなりません。

というか、え?という衝撃的なエンディング。

エリートからの転落、子どもに分不相応なプレッシャーをかける是非、
といったような現代にも通じる話ですね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アダム・ファウアー 『数学的にありえない』

2011-10-25 | 海外作家 ハ
ずいぶん前からですが、タイトルだけは気になっていました。
しかし、故・児玉清さんのあとがき解説にもありましたように
「数学アレルギー」的な人は、避けてしまうタイトルでもあり
ます。

まあ、たしかに、確率統計であったり、物理学であったり、
数学を通り越して「理系アレルギー」は、もはや降参、と思い
つつも、久しぶりにぐいぐいと物語に引き込まれていきました。

大学で統計学の講師をしていたデイヴィッド・ケインは、マフィア
の経営する闇カジノで1万ドル近くの借金をすることに。そもそも
大学講師からポーカーとばく師に転落したのは、突発的に襲って
くる、不快な臭い。それは体臭などではなく、どうやら意識下で
臭ってくるようなもので、これのせいで日常生活に支障をきたす
ようになってしまいます。

マフィアの借金をどうにかしようと考えますが手持ちはすっからかん
で、ニューヨークの街をふらふらと歩いていると、またあの“臭い”
が。ケインは路上で倒れてしまいます。

ケインには双子の兄弟がおり、小さいころから癲癇持ちで、よく
不思議な言動があり、現在も、語尾に奇妙な韻をふむ(踏む・組む・
住む、のような)癖があります。
ケインの“臭い”の原因が突発性の癲癇によるものだとわかりますが、
目を閉じると、なぜかそこには、これから起こる出来事が映画のよう
に浮かんでくるのです。

とりあえず差し迫った問題として、マフィアの借金があり、ケインは
恥をしのんで大学の講師時代に世話になった教授を訪ねます。
カフェで教授の知り合いと3人で食事をしていると、急にケインの頭
の中に、そのカフェに車が突っ込んでくる映像が浮かび、逃げるように
周りの人に言い、そして現実に、数分後に車が店に・・・

このケインの予知能力?の話と並行して、CIAの女性スパイの話が。
この女性、ナヴァはもともとソ連で生まれ、スパイのスパイのような
かたちでアメリカに渡ってくるのですが、機密情報を他国の組織に
横流しして小銭を稼ぐようになります。
しかし、北朝鮮の組織とトラブルがおきてしまい、ナヴァはCIAに
入り、他の重要な情報を盗みに行こうとするのですが、そんな時に
上司から出頭の命令が・・・

ある教授が、愛人関係にある大学院生を「人体実験」しようとして、
実験が失敗し、学生は窓から飛び落ちてしまいます。
ナヴァは、詳しいことは聞かされないまま、その教授のいる大学へ
行くと、なんとビルの上階から女性が転落するのを目撃。
かけよると、その女性は「ケインを殺して」と謎の言葉を残して・・・

話があっちこっちに飛ぶのですが、そのバラバラの話がまとまって
一本の線となって進みはじめると、流れは急加速し、あっというまに
ゴール、つまり読み終わります。

複雑な情景の描写も丁寧にわかりやすく、また登場人物の感情というか
息づかいまでもが聞こえてくるようで、そのテクニックも見事。

今さら数学や理科の勉強をしたいとは思いませんが、こういう小説を
読んで「勉強した気」にさせてくれるのは嬉しいものですね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フィリップ・プルマン 『琥珀の望遠鏡』

2011-07-25 | 海外作家 ハ
この「ライラの冒険」シリーズは、全3作をすべて読み終えてから
ブログに感想を載せようと思っていたのですが、前の2作は掲載し
ていたのですね。

あまりに間隔をあけすぎていたので、話の流れがまったくつかめず、
前作「神秘の探検」の下巻を引っ張り出してもう一度読んだのですが、
ああ、そうだったそうだった、と。今さらですが、1~3作とぶっ通し
で読んだほうがよかったと軽く悔やみつつ。

ただこの最終巻、話があっちに飛びこっちに飛び、一作目での疑問が
ようやく解決したり、特に説明のないまま謎の登場人物(人物ではな
くて、なにか虫のような小型生物)がいつの間にか物語にとって重要
なポジションにいたり、なかなか頭を混乱させてくれました。

ライラという少女のいる世界とは別の世界(パラレルワールド)があり、
なにやらそれが「ダスト」と呼ばれるものが原因なのでは、というのが
一作目、それからライラは別の世界へ行き、ウィルという少年と出会い、
そのウィルが「神秘の短剣」を手にして、この剣で空を切ると、その
向こう側に別の世界があり、そこを行き来し、ウィルの父親を探す、と
いうのが二作目、さて、そこからふたりは離れ離れになってしまい、
なんとライラは、母親に連れ去られてしまい・・・

そして、二作目に登場した大学の研究員が、別の世界への穴をくぐって
たどり着いたその世界は、馬のようなロバのような4本足の、しかし、
彼らの足で移動するのではなく、大きな車輪のようなものを転がして
いたのです・・・

さらに、ウィルとライラがふたたび出会い、なんと「死者の国」へ行く
と言い出し・・・

ある程度、話を整頓させつつ読まないと、読んでいる自分自身がどこの
世界にいるか分からなくなってしまうような、そんな感じ。
しかし、これがたんなる子供むけファンタジーではないところが、子供
のみならず大人にも受けている(大人向けファンタジー)のでしょうね。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ダン・ブラウン 『パズル・パレス』

2011-07-06 | 海外作家 ハ
この作品は「ダ・ヴィンチ・コード」や「天使と悪魔」で
おなじみのダン・ブラウンのデビュー作ということなので
すが、デビュー作にしてこのクオリティというのは、衝撃。

アメリカの「米国家安全保障局」、通称「NSA」の開発
した、暗号解読のスーパーコンピューター「トランスレータ」
は、当然ながら、防犯上の利用がメインで、テロを未然に
防いだり、麻薬や武器の闇取引を一網打尽にしたりするの
ですが、一歩間違えれば、一般市民の通信内容もすべて見ら
れてしまうという危惧から、市民団体などはトランスレータ
の使用を止める運動をしています。

そして、NSAにとって、市民団体よりもさらに厄介な“ある
男”を敵に回してしまったのは痛手でした。その男とは、手に
障害を持つ日本人でコンピュータの天才。彼は元NSA職員で、
このトランスレータの使用をめぐりNSAを辞職します。そこ
で彼は、(解読できない暗号はない)トランスレータでも解読
できない暗号ソフトを開発し、なんとそれをオンライン上で
プログラムをオークションにかけて、さらにそのソフトを全世界
に無料配布するというのです。

休暇中だったNSA職員スーザンは、NSA副長官ストラスモア
から呼び出され、至急本部へ。今までどんな暗号でも数分で解読
してしまうトランスレータが、なんと10時間以上も解読できず
に作動中で、じつはこの原因は、元NSA職員だった男が送りこ
んだ暗号で、それを解読するパスワードはその男自身が持っている
(あるいは知っている)ということで、ストラスモアは、スーザン
の恋人で大学講師のデイヴィッドをスペインに送ったのでした。

しかし、その暗号ソフトの開発者であった日本人は、なんとスペイン
で死亡してしまったのです。そして、もし自分が死ぬことがあれば
それはNSAの仕業なので、ただちにトランスレータにウィルス攻撃
をしかける、と喧伝していたのです。

デイヴィッドは遺品を“すべて持ち帰るように”と頼まれて、確認を
しますが、そこにあるはずの指輪が無く、ストラスモアからその指輪
を探し出すように命じられます。しかしデイヴィッドの後ろには謎の
影が・・・

半日以上も解読作業を続けるトランスレータの(異常)に職員たちも
おかしいと感じますが、ストラスモアは通常の解読中と説得します。

そもそも、なぜ“素人”であるスーザンの恋人をスペインに送りこん
だのか、ウィルス汚染されたトランスレータを停止させずに稼動させ
続ける真意とは・・・

専門用語のオンパレードで多少読み辛い部分もあったりしますが、
それでもスピード感、スリリングは一級品です。
ただ惜しむらくは、ラストの“オチ”といいますか、そこがやや
蛇足かなあ、と。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ケン・フォレット 『飛行艇クリッパーの客』

2011-06-11 | 海外作家 ハ
先日亡くなった児玉清さんが、何の番組か忘れましたが、
ケン・フォレットの「大聖堂」という作品が面白い、と
お薦めしていたのをたまたま観ていて、さっそく本屋へ
行ってみたのですが、その目当ての本が無く、あったの
は『飛行艇クリッパーの客』の文庫と、他いくつか。

背表紙の番号でいうと、「大聖堂」の次にこの『飛行艇~』
がきているので、仕方なく、といっては何ですが、購入。

はじめ、飛行艇とは、ツエッペリン号とかの(飛行船)を
想像していたのですが、作品に出てくるクリッパー号は、
水面を滑走路代わりにする飛行機で、正式にはボーイング
B-314型機といい、12機しか製作されなかったそう
で、陸上滑走路がいらないメリットがあったのですが、そ
の後、あちこちに滑走路ができてお役ご免になった次第。

時はナチス・ドイツがポーランドを侵攻、イギリスも参戦
を表明し、ロンドンでは灯火管制で夜は真っ暗になり、誰
もが不安でいっぱい、という状態の中、パンアメリカン社
の、イギリス・サウサンプトンとアメリカ・ニューヨーク
を結ぶ飛行艇“クリッパー”は人々の注目を集めていまし
た。

そのクリッパーで、イギリスからアメリカへ渡る乗客には
さまざまな背景や事情があって、ファシズムの父親の一家、
宝石泥棒、ハリウッド女優、護送する犯人とFBI、亡命
しようとしている科学者と知人、ロシアの元貴族、浮気を
した妻とそれを追う夫、会社を乗っ取ろうとする弟とそれ
を追う姉、あとは謎の男、それから乗務員。

物語は、フライトエンジニアのもとに電話がかかってきて、
妻を誘拐した、クリッパー号をニューヨークの手前の湾で
不時着させろと脅迫の電話がかかってくるところからはじ
まります。

他の乗組員にばれないように、不時着を成功させ、妻を
取り戻したいエンジニア。いっぽう、客室内でも大小の
事件というか揉め事、それぞれの“物語”が進行してい
きます。

総勢で20人ほどの登場人物ですが、しっかりと人物描写
がされていて、舞台はほぼ機内といういわば「一場劇」な
のですが、展開がとても広く思えます。

ネタバレにならない程度にしますが、ラストの宝石泥棒と
ある女性の逃避行はスカッとします。何といいますか、
「おお、やってくれたね」という感じ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

レイ・ブラッドベリ 『黒いカーニバル』

2011-04-25 | 海外作家 ハ
だいぶ前にブラッドベリの「火星年代記」を読み、
しょうじきSFというジャンルはあまり好き好んで
読むタイプではなかったのですが、こりゃバツグン
に面白いぞ、と思ったものであります(確かに「
火星年代記」はSFの記念碑的作品と評されていま
すね)。

この『黒いカーニバル』というのは短編が収録されて
いて、デビュー作の短編集からと、あとは未収録の
作品をいくつかをまとめた構成となっていています。

移動遊園地が来てから、この小さな町に見かけない子ども
の泥棒が家々のお金を盗みまわっていて、それがどうやら
“あの遊園地”の観覧車が怪しいと目をつけたピーターと
ハンクというふたりの少年は、夜中に忍び込んで、とうとう
その「カラクリ」を見つける・・・これは表題作の『黒い
観覧車』ですが、他にも、子どものころに好きだった戦争
ごっこを大人になってもまだその感覚で、ホンモノの戦争
で戦地に趣き、実弾飛び交う中、戦争ごっこのつもりで
ばったばったと敵を撃ってゆく、「バーン!お前は死んだ!」
という作品だったり、他にもSFの枠にとらわれない、
これはホラー?これはファンタジー?サスペンス?などなど
のラインナップ。






コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フレデリック・フォーサイス 『オデッサ・ファイル』

2011-04-04 | 海外作家 ハ
フォーサイス好きとしては、前々から気になっていた作品
で、まだ読んでないのにフォーサイス好きと言うなんざ10
年早いなどとお叱りを受けそうですが、まあそれはともかく
として、ようやく『オデッサ・ファイル』を読むことに。

タイトルからして、ウクライナにある黒海沿岸の街を想像
していたのですが、冒頭から「本書のタイトルに使われて
いるオデッサ(ODESSA)とは、南ロシアの町でもな
ければ、アメリカ、テキサスの田舎町でもない」と説明が
あり、むむ、と。

これは、元SS隊員の秘密組織のイニシアルをつなげた
造語ということだそうです。
ところでSSとは、第2次大戦の小説や映画ではたびたび
登場する、ナチスドイツ時代の軍隊の一部で、彼らが忌み
嫌われるのは、その“仕事”とは、スラブ系、障害者、
コミュニスト、ナチスを批判する社会階級などを文字通り
「片っ端から」捕まえて“処分”すること。
中でも最大の被害に遭ったのがユダヤ人だったのです。

この物語は、第2次大戦でドイツが敗戦したそのどさくさ
にまぎれてSS幹部たちは逃げおおせて、その後東西ドイツ
分断となり、逃亡先のエジプトや南米からその残党が指揮を
とり、西ドイツの政財界に潜り込み、ふたたび第3帝国樹立
の夢を叶えようとする「オデッサ」と、その組織の実体を
暴こうとし、さらに彼らの計画をストップさせようとする
ルポライター、という話。

ドイツ北部、ハンブルグに住むルポライター、ペーターは、
郊外に住む母の家から自宅に戻ろうとして、知り合いの警官
を見つけます。話を聞くと、ユダヤ人の老人が住まいで自殺
したということで、あまりネタにならないとペーターは思う
のですが、後日、知り合いの警官から連絡が入ります。
その老人が持っていた遺書のようなものがあり、それを警官
はペーターに託すというのです。

さっそくその遺書を読み始めるペーター。そこには、ナチス
ドイツがしでかした、あまりに残酷で恐ろしい出来事が仔細
に書かれていて、自殺した老人は収容所の数少ない生き残り
であり、なんと、その老人がいた収容所長でSS隊員を、
つい先日ハンブルグ市内で見かけたというのです。

しかし、自分にはどうすることもできないと悲観し、その
老人は自ら命を絶った、ということだったのです。

戦後、西ドイツで生まれ、西ドイツで教育を受けてきたペーター
にとって、ナチスの大罪は風化してはならないとは分かって
いても、思い出したくない、できれば触れたくないというの
が本音なのですが、この遺書を読み、ペーターはロシュマンと
いうSSの生き残りを捕まえて裁判にかけると決心します。
さっそく、知り合いの雑誌編集長にこの遺書を掲載してくれ
とお願いするのですが断わられ、警察に戦争犯罪人の捜査や
逮捕の詳しい方法を聞くも、彼らはみな乗り気ではありませ
ん。

そして、調査を続けていくうちに、ペーターはある組織と
コンタクトを取ることに、その組織とは、ユダヤ人で結成
された、ナチスの生き残りを探し出すという活動をしていて、
さっそくウィーンにあるオフィスに向かったペーターは、
そこで「オデッサ」の存在を聞かされ・・・

じっさいに起こった出来事を文中に紛れさせ、その他の創作
部分があたかも“本当なのではないか”と錯覚してしまう、
フォーサイスマジックが発揮されています。
まず、ペーターが老人の自殺現場に出くわすその日は1963
年11月22日。ペーターは運転中、カーラジオでアメリカ
大統領ケネディの暗殺を臨時ニュースで知ります。

中東戦争でイスラエルの(肩を持った)ケネディ大統領の暗殺、
西ドイツの当時の政権もイスラエルへの武器輸出を認めていて、
これが「オデッサ」との関わりをうまいこと絡ませています。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする