晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮部みゆき 『誰か』

2010-04-15 | 日本人作家 ま
はじめの1ページ目の情景描写で、すでに読者の心をつかん
でしまうというのは、そんじょそこらの小説では到底できない
技術なのですが、そこを宮部みゆき作品はサラリとこなす、
そんな印象を強く持ちます。

もちろん、それがいわゆる人気作家であったり実力作家の
必須条件かというとそうでもなく、名作と呼ばれるなかには、
100ページくらいまで読み進んで、ようやくエンジンが暖まっ
てきた、そんな感じの作品もあって、こういった立ち上がりの
遅い作品は、強いわけではないけれど、でも負けない。そんな
潜在能力(ポテンシャル)の高さを読み終わり頃に見せつけ
られる。サッカーでいうところのドイツ代表みたいな。強烈な
スター不在でも、最後に勝つのはドイツ。

あるサラリーマンが、住宅地の大型マンションの近くにある
立看板(タテカン)の前でたたずんでいます。
半月ほど前の八月十五日の昼過ぎ、男性が自転車に撥ねられ、
当たりどころがわるく男性は死亡。自転車に乗っっていた人物
は少年であったとの目撃情報もありましたが、いまだ見つからず。
そして、タテカンには「自転車による死亡事故が発生、情報をお
寄せください」とあり、管轄警察署の電話が書かれています。

死亡した男性は梶田という職業運転手で、ある大手企業の社長
の非常勤運転手をしており、その社長の娘婿が、事故現場にたた
ずんでいたサラリーマンの杉村三郎。
梶田氏死亡を聞いた三郎は、面識はあまりなかったものの、葬儀に
参列します。後日、会長から梶田氏のふたりの娘に会ってくれと話
があり、ふたりの娘から亡き父の本を書きたいという相談を受けます。

ここから、三郎は梶田氏の人生をたどってゆくのですが、思いも
よらぬ過去があったことを知り・・・

事故現場は、梶田氏には縁のない場所。ではなぜそこに梶田氏が
いたのか。本を書くことに、妹はやる気があるのですが姉は消極的。
それには妹の知らない姉の思い出したくない記憶が・・・

ミステリーらしいミステリーといった構成ではなく、梶田氏を撥ねた
犯人が見つかったとしても、その犯人探しが物語の終着ではなく、
ここからまた新たな謎が三郎の前にあらわれます。

三郎の妻、菜穂子とひとり娘の桃子、さらに菜穂子の父つまり三郎の
舅である今田コンツェルン社長の今田嘉親、三郎の勤務する今田コン
ツェルンの同僚たちと、作品ににぎやかさを添える脇役のキャラクター
がきちんと描かれ、ムダのない配役というか、ここも宮部みゆき作品の
特筆すべき「面白さ」の妙味(スパイス、隠し味)でしょう。

コメント
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