晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮本輝 『優駿』

2010-04-20 | 日本人作家 ま
この小説が出版されたのが、1986(昭和61)年の秋、それから
数年後には空前の競馬ブームがやってきて、オグリキャップでしたか、
人気を牽引して、競馬場には親子連れやカップル、若い女性同士が
目立ち、それまでの競馬ファンにとっては「にわか」の急増で内心苦々
しく思っていたことでしょう。

そんな古参の競馬通たちはよく「ああ、そんなの素人の買い方だよ」と、
初心者に教えたりしますが、そもそもギャンブルで素人も玄人もないだ
ろう、長年やってるのか知らないけど、損得は差し引きでチャラかむしろ
マイナスだろ、というのが普段ギャンブルをしない者の考え。

文中でも「あくまで遊びの範疇で競馬は楽しむもの。負けを取り戻そうと
思ったその時点でおしまい」というセリフがあり、足元に落ちているハズレ
馬券を見ると、1着3着だったり、2着3着だったり、あるいは単賞でも
2着だったりといったのが多いのだそうで、まるで悪魔がイタズラでもして
いるかのよう。

北海道のトカイファームという、10頭ほどしかいない小さな牧場で、
牡馬が産まれます。それは、この牧場で飼われている、それなりの戦績
だった母馬に、冒険ともいえる良血統の父馬をかけ合わせたのです。
牧場の息子、博正はこの産まれた仔馬になみなみならぬ愛情を持ちます。
誕生の日、大阪から馬主の和具工業社長の平八郎と娘の久美子が北海道に
やって来て、娘は出産に立ち会います。

平八郎はこの仔馬を買うことになり、社長の秘書に名前を考えさせます。
この仔馬の名前は、スペイン語で「祈り」を意味する「オラシオン」に
決まります。

しかし、平八郎はオラシオンを娘の久美子に譲り、父はもう競馬から
身を引く考えとのこと。その話の裏には、平八郎のもとにかつての愛人
が訪ねてきて、ふたりの間には息子がいて、その息子が重い病気にかか
ってしまい、父親の腎臓を移植しなければ命はないと告げられます。
その話を平八郎は久美子に話し、久美子は口止めとしてオラシオンの
オーナーになりたいと申し出たのです。

トカイファームの息子博正の成長、和具平八郎と娘の久美子、久美子
の義弟にあたる誠、平八郎の秘書である多田、そして厩舎の調教師、
騎手といったさまざまな人間のドラマが、オラシオンという将来有望な馬
を中心に交錯し、美しいと形容するにふさわしい構成で、文体や描写は
臨場感溢れ、レース前のドキドキ感や、レース中の騎手の心境などは
手に汗握るくらい。

そもそも人間の都合で作られた競走馬という生き物ですが、その神秘
は人間が介入しているという事実を忘れさせるほど奥深く、けっして
計算どおりにはいかないもので、そこに面白さを見出すのですが、純粋
に馬を愛するために関わるもの、ビジネスと割り切って関わるものが
いて、その善悪は文中では結論付けてはいません。

コメント
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