晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

山本一力 『蒼龍』

2012-02-18 | 日本人作家 や
この『蒼龍』は、単行本として発売されたのは遅い(前に2作)
ですが、この表題作がオール読物新人賞を受賞して、晴れてデ
ビューということで、厳密にいえば「世に出た」最初の作品は、
この『蒼龍』ということになります(文芸誌に掲載されたはず)。

で、先日読んだ「大川わたり」は、『蒼龍』よりも前に新人賞
に応募して落選した原稿を修正したということで、書かれたのは
『蒼龍』よりも前、ということになりますけど。

それはさておき、莫大な借金を背負って、もうどうにもならなく
なり、作家になって返済してやろうと書かれた『蒼龍』ですが、
選評にも本人あとがきにもありましたが、まさに「勢いにまかせ
て書いた」、ジャンルは違いますが、オール読物推理小説新人賞
を受賞した石田衣良の「池袋ウエストゲートパーク」に通じる
パワーみたいなものが感じられます。

表題作のほか4作が収められていて、どれも江戸時代が舞台と
なっていて、「のぼりうなぎ」は指物大工が呉服屋の手代に
今流でいうとヘッドハントされて、呉服屋内の汚職といいます
か、腐敗を正そうと頑張る、という作品で、このアイデアは
のちに「大川わたり」に受け継がれていますね。

「節分かれ」は、江戸深川の酒問屋が、さまざまな難題を乗り
超えていく親子2代の話で、商売とは何か、というメッセージ
を親から子へ、という構図は、まさに「あかね空」。

「菜の花かんざし」は、山本一力作品では初めて読んだ、武士
が主人公の作品。武士といっても戦国時代のバリバリの武将で
はなく、江戸時代の藩おかかえの剣法指南で、身内の不始末で
お家断絶されそうになる、という話で、武家社会の理不尽さが
悲しく切なく描かれています。

一方「長い串」も、武家社会システムの弊害といいますか、まあ
これも理不尽なことが描かれていますが、しかし武士もなかなか
捨てたもんじゃない、というほっとする話。

そして『蒼龍』ですが、借金で首の回らなくなった大工の弦太郎
と妻のおしのが、ある日見かけた、大店の茶碗と湯のみのデザイン
コンテストに応募し、初年は最終候補まで残りますが落選、翌年も
応募しますが落選、周りの人たちも夫婦の頑張りを応援して、また
デザインをして・・・という、まるで作者自身の話。
これが「まさに新人賞を彷彿とさせる」とアイデアが評価されての
受賞となったわけですが、この人の作品を読むたびに、タイムマシン
が出来たあかつきには、ぜひ江戸時代の深川に行ってみたいなあと
感じるくらい、情景や市井の人々の描写が美しいです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする