晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

笹沢左保 『花落ちる 智将・明智光秀』

2018-06-02 | 日本人作家 さ
笹沢左保さんの作品は何を隠そうこれが初めて。

まあそこまで大げさなカミングアウトでもありませんが、
「そろそろ読んでもいい頃」だなと思ったんですね、な
んとなく。

この作品は、本能寺の変、三日天下でおなじみの、明智
光秀の歴史小説。歴史の教科書に出てくる史実のみでこ
の人を評価すれば「主君を殺した裏切り者」となるので
しょうが、まずこの評価は戦国時代というバックグラウ
ンドを考慮に入れてではないということ。じゃあ信長は
裏切りをしなかったのか?この時代の武将は大なり小な
り裏切りでもしなければ生き残ることは困難。

いずれにせよ、起きてしまったことはどうしようもない
ので、本能寺の変から天下統一のバトンは秀吉に渡され、
その後アンカーの家康がゴールインしたのは、そうなる
ようになっていたのです。

信長をメインに描くと、どうしても光秀は「のちに謀反
を起こすヤツ」という描き方といいますか、その伏線を
人物に盛り込んでしまい、例えば「知恵は回るが、戦は
からきしダメ」といったような。
これは光秀が茶の湯や歌などにも通じていたことで彼に
「教養豊かな知識人=ひ弱なイメージ」を持たせようと
すればできます。
ですが、実際には優秀な武将で、丹波の攻略の最中にも
ほかの戦の援軍に出て行ったりもしていることから分か
るように、信長は武将としての光秀をけっこう頼りにし
ていました。

そしてなにより、信長の部下としての最大の功績はとい
えば、将軍足利義昭とのセッティング。まあこれが彼を
「智将」と呼ぶにふさわしい部分かなと。

この小説は、明智光秀ともうひとり、名倉助四郎という
人物を中心に書かれています。
架空の人物で、設定は、もともと光秀に恨みを持つ敵方
で、僧に化けて光秀に近づきます。すると光秀は、別に
おれのこと殺してもいいよ、抵抗もしないよと言います。
助四郎はこれで復讐心が消え、光秀に仕えることに。

光秀は助四郎を側に置くようにして、ふたりだけになる
と、心の内を話します。

本能寺の変の数年前、佐久間信盛、林道勝というふたり
の信長の家臣が追放されます。佐久間信盛に関しては、
いくら信長の父親時代からの家臣とはいえ、あまりにも
「使えない」ということだったのですが、林道勝は、こ
ちらは信長の父信秀が二十年以上前に亡くなった時に家
督争いで道勝は信長の弟を推挙したのが許せんという、
急に思い出したから。気まぐれ、思いつき。
これは部下からしたら、たまったものではありません。
韓国の財閥のナッツ姫だの水ぶっかけだのと同レベル。

さらにちょうどこの頃、足利義昭は、信長のおかげで、
将軍位に返り咲けたというのに、他の武将に信長討伐の
手紙をせっせと送っていて、これにキレた信長はもはや
用無しとばかりに義昭をポイ捨てします。
ここで問題が。義昭との会談開催の尽力者は光秀。しか
し、もう信長にとって足利将軍という権威は用済み。
こうなると次に追放されるのは・・・

ここで信長の人物像。この小説では「信長は(変人)で、
変人というのは自意識過剰タイプ。ただ陰性の変人は殻
の中にこもって自己満足させてるだけだから問題ないが、
信長は陽性の変人で、自己過信、自己中心、自己顕示、
つまりエゴイスト」と、後世の評価では非常に革新的な
やり方で(建設のための破壊)だというが、それは結果
の判断にすぎない、と。
先人が用いた流儀は踏襲したくないので、他人の力を頼
りにしない。誰にも頼らないということは誰も信じない。
自分以外の他人は敵と認定して殺すか従わせるかの二択。

馳星周さんの小説で登場人物が「狂った世の中で、一番
狂ってるやつが一番マトモ」というのがとても印象に残
っていますが、まあ戦国時代はどう考えても狂った時代
で、その中で一等賞になろうという人は狂気が無かった
ら無理だったでしょう。
そう考えると、彼のやった「悪魔の所業」として有名な
比叡山焼き討ちや、荒木村重の家臣たちの女房子どもら
五百人以上を焼き殺したことも納得できなくもないので
すが、いずれは天下人になる人がこれでは遅かれ早かれ
しっぺ返しが来るわけで、これが本能寺の変だったので
しょう。

こんな状況で、光秀の心中に芽生えてきたものとは自分
が天下を取ってやるという欲だったのでしょうか。

本能寺の変があってのち、当然ですが「主君の仇」にな
り、信長の家臣たちは光秀討伐に向かいます。いちおう
光秀にも勝算のプランというものはあったのですが、そ
のすべてが裏目裏目に出てしまいます。
光秀は助四郎にある命令を出します。それは「もう帰っ
てこなくてよい」というものだったのですが、はたして
助四郎は・・・

会社の業績が良ければ、周りはトップを「カリスマ社長」
などと褒めそやします。スポーツでもそうですね。
ですがふたを開けてみたらセクハラパワハラ何でもアリ
というのはよくあること。
信長も、なまじ戦の能力が優れていたばかりに天下取り
の一歩手前まで行きましたが、では彼が幕府を開いたら
その後どうなっていたのか。

過去は振り返らないという未来志向もけっこうですが、
過去から何も学ばない人はかえって未来に盲目なのです。
コメント
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