晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

五味康佑 『薄桜記』

2019-12-22 | 日本人作家 か
あれは数年前でしたか、この作品がテレビドラマで放送することになったら、ネットの一部界隈で「パクリだ」と騒ぎ、よくは分かりませんが、タイトルが酷似といいますか(「記」が「鬼」)、時代も「記」のほうが古く昭和、「鬼」のほうは21世紀に入って。さらに内容も「記」のほうは元禄の赤穂義士関連、「鬼」のほうはゲームが原作で新選組だとか。

ま、この手の騒ぎは古今東西使い古されたネタといいますか、ボン・ジョヴィやエアロスミスを聴いた若い子が「B'zのパクリだ」と言ったとか、なんとかかんとか。
「無知は怖いね」というよりか、ネット、特にSNSのような不特定多数が閲覧できる場合はよく調べてから書き込みましょうね、ってことですか。

そんな与太話はさておき。

ここ最近は時代小説・歴史小説を読むのが優先といいますか、文庫の「あとがき」を読んだりしますと、名前は聞いたことがあるけどまだ未読の作品というのがゴロゴロありまして、その中でも特に「近いうちに読まなければ!」と興味を持ったのが、笹沢佐保さん、柴田錬三郎さん、そして五味康佑さん。

どうせ読むならこの人たちの代表作をはじめに読みたいと思っていても、まあなかなか書店にはおいていませんね、大きいところなら別でしょうが。オンラインショッピングとかフリマアプリで探そうかななんて考えていたところ、この『薄桜記』が鎮座してる(ように見えた)じゃありませんか。五味康佑さんの最初に読む作品としてはこれ以上ない出会い。

チャンバラ劇の有名キャラ「丹下左膳」と、『薄桜記』の登場人物「丹下典膳」は、名前こそ似てますが、(隻腕)という設定のほかはすべて別。典膳は隻眼ではありません。もっとも丹下左膳が世に出た(原作は小説)のがだいぶ先ですからモデルにしたことはしたんでしょうね。

時は元禄、江戸に一刀流の「堀内道場」があって、そこに「旗本随一の遣い手」と噂の丹下典膳という侍が通っていました。典膳は幕府の命により大坂に出張中。
この堀内道場には、越後新発田の出だという中山安兵衛という浪人もいます。ある日のこと、中山はただ今道場にはいない「丹下さん」のよからぬ噂話を耳にします。
それは、典膳の奥さんが旦那の単身赴任中に・・・

この「噂話」に端を発して典膳が隻腕の浪人剣士となるわけですが、ここは作品中の序盤の大見せ場なので割愛。

一方、堀内道場ではまったくパッとしない中山安兵衛ですが、例の「高田馬場の義理の叔父の助太刀」で一躍有名に。じつは安兵衛、越後時代に別流派で名手だったのです。
で、なんだかんだで播州赤穂藩・浅野家の家臣、堀部弥兵衛の家に入ることになって、名を「堀部安兵衛」とします。

この、まったく違う境遇のふたりが、どんなことがあったのか、いつの間にかふたりの間には友情が・・・

中山安兵衛は赤穂藩の人間ではなかったのに、運が悪かったのでしょうか、たまたま浅野家家臣に婿入りしたらすぐに例のアレ。
文中では、作者の視点による忠臣蔵分析があって、とても興味深かったですね。
そして、丹下典膳も、運命のいたずらといいましょうか、吉良上野介の身辺警護に・・・

まず、「史実に基づいて」書かれている作品は、大筋は正しいです。しかし、その当時の人々の会話や日常生活の部分はおおいに創作です。隻腕の浪人剣士と飲んだくれの十八人斬りの交流なんて時代小説や講談やチャンバラなどが好きな人からしたらそりゃもうタマラナイでしょうが、「んなの有り得ん」と避けていたらこの作品に出会えないと考えたらそれはとてももったいない話です。
まあ時期的にあれですが、サンタクロースが世界で一番「実在か架空・虚構で論じられてる」のではないでしょうか。
虚構は虚構として楽しむ。
やっぱりこれって人間が神さま(仏さまでもいいですが)から与えられた「特権」だと思うのです。

本作は文庫で700ページ弱。けっこうあります。ただ、久しぶりに読んでて「早くこの物語の結末までたどり着きたい、いやいやまだこの文中の世界観に浸っていたい」とふたつの思いに揺れ動かされました。

あれ、ひょっとして今年最後の投稿になりますかね。いやいや、まだ読んで投稿します。努力目標で。
コメント
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