晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

池波正太郎 『秘伝の声』

2017-10-09 | 日本人作家 あ
この作品はあとがきによると池波さんの晩年に書かれた
もので、「鬼平犯科帳」と「藤枝梅安」は(作者急逝に
より未完)でしたが、こちらは完了はしています。
ですが、この作品を新聞に連載を始める前に入院された
ようですね。

武蔵国、豊多摩郡、角筈村の名主、本郷庄左衛門宅に、
盗賊が押し込み、下男らは殺され、金は盗まれますが、
名主家族は縛られ脅されただけで無事でした。
じつはもう一人、この緊急事態から抜け出したものが
いたのです。

(雪丸)という少年で、名主が近所の成子と呼ばれる
坂で赤子を拾ってきた(みなしご)なのです。
雪丸はこの夜、台所の隅の小部屋で寝ていて、これに
は女中のふりをしていた盗賊の(引き込み役)も雪丸
のことを忘れていました。

さて、雪丸が向かった先は剣術の道場。(日影一念)
という老剣客。雑木林の中を逃げていた盗賊が日影
一念によって次々と打ち倒され、首領は捕えられま
す。

この日影一念は何年か前にふらっと角筈村に来て、
ここで道場を開きます。剣の流派は無く、教え子
は主に近所の農民の子。
この一件から、雪丸は道場に住み込みで剣の修業
をすることに。もうひとり、白根岩蔵という門人
がいます。

十年後、日影一念は亡くなります。亡くなる前、
一念は雪丸と岩蔵を枕元に呼びつけ、それぞれ
に脇差を与えます。そして巻物を出し「この巻物
は、遺体といっしょに埋めてくれ」と頼みます。
雪丸は名主を呼びに行って帰ってくると、そこに
岩蔵の姿はありません。しかも、巻物も無くなって
いたのです。

あれから数年、雪丸は一念の道場を継ぎます。
そのころ、名主宅の奉公人が「岩蔵を江戸で見かけ
た」と・・・

あれから岩蔵は(大久保八郎)と名を変え、諸方の
道場に顔を出し(道場破り)のようなことをやって
いました。先々で岩蔵は勝ちつづけ、あらためて
師である日影一念の偉大さを思い知るのです。

そして江戸に戻り、紹介で日暮里の金貸し、島田
九兵衛宅に住み、浅草元鳥越の牛堀九万之介道場
で修業することに。ある日、岩蔵こと大久保は、
老中、田沼意次の下屋敷で開催される剣術試合に
出場することに。ここで優秀な成績を収めれば、
江戸じゅうに名が知られることになります。が、
自分はいつまで変名で過ごさねばならないのか、
そして師の巻物を盗んで消えたことに(後ろめた
さ)があり、夜、巻物をひろげじっと見つめるの
です。

それから、岩蔵こと大久保八郎は、水野鉄斎と
いう江戸でも屈指の道場主に見込まれ、道場の
後継者になってほしいと頼まれます。
これに面白くないのが、門人の大身旗本の二男
三男らとそれの取り巻きたち。彼らの親は水野
道場の(スポンサー)で「いずれ剣の道で身を
立てさせてあげて・・・」ということだったの
ですが、いくら師匠の見込んだ人物とはいえ、
無名の浪人が後継とあっては彼らも黙ってはい
られず、大久保の身に危険が・・・

岩蔵はとうとう島田九兵衛に、自分は変名である
こと、そして師の巻物を盗んで出奔した過去を
告白します。そして雪丸に再会し、詫びて巻物を
返し・・・

巻物は日影一念の「秘伝の書」だと思った岩蔵
でしたが、そこには何が書かれていたのか・・・

ちなみに、ここまでが上巻での出来事。
下巻では、雪丸の出生の秘密やその他もろもろが
出てきますが、それを描いちゃったらもう全部の
内容を書いてしまうことになるのでおしまい。

田沼意次が老中の時代、そして牛堀九万之介が
出てきて、秋山小兵衛、そして三冬の名前も
チラッと出てきます。あと、田沼下屋敷での
試合の相手は、金子孫十郎の門人でした。
「剣客商売」ファンにとってはたまらないですね。


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