ロゴス古書

 年年歳歳 花相似たり
 歳歳年年 人同じからず 

机上の二冊の本

2009年06月01日 | 随想・日記

 

       古い話題で恐縮です。賞味期限が切れているかも知れない話です。

 「科学社会を通して宮沢賢治の世界をかいま見る」と題して 「イーハトーブ館企画展示 13 」(1999年7月1日~12月27日)が行われた事がある。

 企画監修  力丸光雄

 主   催  宮沢賢治イーハトーブ館

         宮沢賢治学会イーハトーブセンター

  この展示で気になっていた事があった。途中からの以下の記である。

 

【 『物理化学』・『科学書』

 物理化学(理論化学)は、19世紀終り近くに確立した化学の分野である。賢治作品に出てくるアレニウスやファント・ホッフなどもこの分野で大きな頁献があった(二人ともノーベル化学賞受賞)。

 賢治が読んだ『化学本論』は、日本で最初の本格的な物理化学の教科書であったといってよい。

 物理化学の基礎は、もちろん物理学である。賢治がいつも机上に置いていたという『物理学汎論 上・下』と『化学本論』は、当然重複するところがある。とくに、当時は原子の構造がわかりかけて来たところで、両書ともこの分野での最新の知識を載せている。】

 上記コピーでのなかの「賢治がいつも机上に置いていたという『物理学汎論 上・下』」という事の資料の出所は何からであったのかである。賢治実弟静六氏の「兄賢治の生涯」では、「兄の机の上にはいつも化学本論上下と、国訳法華経が載っていて、」とある。

 ところで「化学本論」は、上下二冊で出版された事はないのである。

 力丸氏は、日下部四郎太著「物理学汎論」を会場に展示されたのか如何かは解らないが、この本は確かに物理学(物理化学ではない)の「基礎」(?)を記した書ではあが、著者の意図は地球物理学を主眼にした内容のものである。日下部は「岩石の力学的研究」岩石の弾性に関する研究で学士院賞を受賞しているのであるが、氏のこの著書は数学的解説を主体とした「汎論」と言える内容であったのではなかろうか。

 昨年 賢治研究会の研究発表で、ある先生が「物理学汎論」上下二冊を発表の中でお話をされていた。出所をお聞きしましたなら、センターの「企画展示」での資料との事だった。

 力丸氏の論考でもう一つ述べておこう。

 力丸氏の「X への手紙」で

 『賢治が学生時代に講話を聞いた願教寺の島地大等師というのは、高名な仏教学者でもあったわけですが、彼のような大物をこの盛岡に置いたのは、隠し念仏に対するおさえだったらしいです。』

 と記されていますが、補者 島地大等 「佛教辞林」 には、「いあんじん 異安心」の項に「十刧秘事・御庫法門・地獄秘事」等の語句は見られるが、東北の隠し念仏については見当たらない。又 『「真宗大綱」 第五章 異安心論』にも、「仏光寺派・西山派や諸邪義」に付いて述べられているが、残念ながら隠し念仏には触れておられない。

 隠し念仏については、いろいろと書かれているのを拝見するが、賢治との関連での言は余程確かな記載は残念ながら少ないように思う。