北へふたり旅(71)
路地へ入ったところで、提灯を見つけた。
「やきとり」と書いてある。
カウンターに数人。その奥に空いているテーブル席が見える。
10人も入れば店は満席だ。
「レトロだね・・・どうする。此処でいい?」
「地元の人、御用達という雰囲気です。
いいわ。面白そう」
カラリとガラス戸を開ける。
「らっしゃい」。すかさず大将の声が飛んできた。
「テーブルいいですか?」。奥を指さす。
「指定席はありません。全席自由席です」。女将が笑顔をむける。
(打てば響くような対応で、じつに気持ちいいね)
(あなたは無愛想でしたからねぇ。大違いです)うふふと妻が笑う。
「え・・・そんなに無愛想だったか?。俺」
「男は背中で仕事する、を地でいっていました。
背中を向けて調理している姿を、素敵と言ったお客もたくさんいました。
あなたくらいです。背中で人気を稼いだのは。うふっ」
女将がメモを片手にやってきた。
「なににしましょう?。
内地からですね。お2人さまは」
「えっ、どこでわかりました。内地からだって」
「奥様に栃木のなまりがあります。
栃木から来た建設員のかたが、ついこの間まで呑みに来ていましたから」
駅に降りた時の光景を思い出した。
函館の街はいま、ホテルの建設が真っ盛り。
どの方向も工事用のシートに覆われたビルがある。
工事現場から絶え間なく、ドリルの音がひびいていたし、
資材を積んだトラックが頻繁に出入りしていた。
「尻上がりのイントネーション。それが栃木の人の特徴です。
旦那さんは違いますね。言葉の尻があがりませんから」
「おなじ北関東ですが、ぼくは群馬です」
「ぐんま・・・はて、ぐんまって何処でしたっけ?」
女将が首をかしげる。
群馬県がどこに有るのか知らないらしい。無理もない。
群馬・栃木・茨木、北関東の3県の知名度は低い。
日光の東照宮や、草津温泉はよく知られているが、それが栃木や群馬に
有ることを知っている人はすくない。
「とりあえず焼き鳥をください」
「豚にしますか。鳥にしますか?」
えっ。やき鳥だから、串に刺さっているのは鶏肉のはずだ。
しかし。道南ではやき鳥といえば、四角にカットされた豚肉の串焼きを指す。
「せっかくです。豚のやきとりにしてください。
お酒は地元の物をお願いします」
「はい」と女将がカウンターの向こうへ消えていく。
「このあたり一帯のやきとりは、鶏ではなく豚肉なの?」
妻が小声で聞いてくる。
「そうらしい。
あ・・・思いだした。
札幌には有名なハセストのやきとり弁当がある」
「はせすとのお弁当? 何それ?」
「ハセストに注文するけど食べる人いるー?」
お昼時になるとこんな会話が職場で飛び交う。
「ハセスト」は道南に展開するコンビニチェーンの「ハセガワストア」のこと。
このストアの名物が、ソウルフードのやきとり弁当。
やきとり弁当というものの、ご飯の上にずっしり豚肉がならんでいる。
甘からいタレに食欲がとまらないという。
(たしか関東にも有ったな。
やきとりが豚肉というご当地名物が・・・
何処だっけ・・・。埼玉県のどこかだったような気がするが・・・)
(72)へつづく
何処だっけ・・・。埼玉県のどこかだったような気がするが・・・)
(72)へつづく