約25年前、入社1年経った私の開発の仕事に、派遣社員の方が就いた。
当時私が28歳程度。
チームとしては2人の増員ということで、50歳近い方が別の仕事に1人。私の仕事には私より若い人が1人就いた。
当時私の開発製品は、親会社の開発した新構造のステッピングモータを、市場の要求に適応して、量産できるようにするということだった。
問題はロットごとに、つまり組み立てるたびに変わるモータ特性だった。
物によって、トルク特性が変わるし、回転時の騒音も変わる。
これが保証できないと、量産できない。
私が着目した問題は2つ。
・回転時の騒音は、同じパルスを与えても回転角が均一ではないから起こると仮定。回転角を正確に測る必要がある。
・トルクが出ないのは、コギングトルクが大きすぎるからと仮定。永久磁石の表面着磁磁界が、モータヨークで短絡して固着してしまう。
導かれた仮説は、
・特性のばらつきは、厳しすぎる部品精度であり、磁気回路の抵抗を上げて損失を増やすことにより、回転精度を上げて騒音を減らすことができる。
部品精度を上げるのではなく、部品精度を下げることによって回転精度を上げる。通常の考え方とは逆の発想で問題を解決した。
逆の発想といえば聞こえがいいが、加工現場との交渉でこれ以上の加工精度向上は無理だし、加工精度を上げれば部品単価も上がる。開発日程も間に合わない。結局はそうするしかなかったのが現実だった。
実際にそうしたところ、モータ特性は向上して量産に目処をつけることができた。
モータが非常に小さいことと、トルクが小さいため、回転角を正確に測る事は難しかった。少しの負荷で回転角は変わる。
そこで会議室にあったOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)で、プーリにピンを刺して回転を影として拡大した。
モータにステップパルスを与えて回転させ、壁に貼った模造紙にピンの位置をペンで打っていった。
結果、
・回転精度が良く、騒音が少なく、トルク特性も高いモータは、回転角の精度が高い
・回転精度が悪く、騒音が大きく、トルク特性が低いモータは、回転角の精度が低い
ことが定量的に確認できた。
モータヨークは純鉄で磁気抵抗が低い。
ピンセットでつついたら簡単に変形するぐらい柔らかい。
ところがこの部品は、数百万円の金型で粉末焼結冶金という手法で作られており、簡単に設計変更できない。
私はこのモータヨークを仮説とともにニッパで切り落として組んだところ、回転精度も上がり、トルクも上がり、騒音も減った上に、ロットごとの特性変化も減った。
結局この形状で量産することになった。
これらの検証作業や加工工場との交渉、図面作成、騒音測定、工場加工区調整、営業活動、広報活動、内部進捗管理、開発日程管理、データベースシステム導入、電磁場解析シミュレーション、2次元CADから3次元CADへの変更、組合活動を1人でやっていて、まぁ、その作業を分担するために派遣の人があてがわれていたのだけれど、簡単に伝授できることはなかった。
上記OHPの拡大作業に付き合ってもらったり、図面の改良、モータの試作などやることはたくさんあったが、直感でやっていた作業が多かったので簡単に伝授できないし指示もできない。
それでもよくやってくれていたなと思うのは、私のメンタル面のサポートはしてもらった。これは助かったと思う。
とはいえ、その仕事は1年半で辞めた。
30代現役社員が5人ほどで引き継いだが、引き継げなかった。
当然といえば当然か。
あまりに革新的な仕事をしすぎていたのだ。
結局20年ほど正社員としての開発業務を続けたが、辞めて自営したがそれはうまくいかなかった。
生活のために派遣を始めたが、大きな疑問にぶち当たることにある。
派遣の待遇がおかしい。
正社員時代から、派遣の人のほうがよっぽどまともに仕事をしているという例はたくさんあった。
なぜこの人たちを正式に雇わないのか?
無駄に会社に巣食う永続雇用の正社員より、よっぽどストイックに学んでいる。
人マネジメントの違い?
教育担当の委員となって、CAD研修の全員メールを送ったところ、まっさきに知り合いの派遣の方から連絡があった。
教育予算についてマネージャーに確認しに行ったところ、
「派遣は道具だ」
と驚きの答えが帰ってきた。
人材教育費用を捻出するに値しないということ。
いやね、結局率先してやる気のある人が研修受けたほうがいいのよ。
のんべんダラダラと過ごしている人に発破かけて無理やり研修なんかさせて勉強やらせたって無駄。
そんなのは大学の授業を見ればわかる。
本当に能力があるんだったら、派遣なんて枠に抑えないで正式に雇用すればいいのよ。
何が悪いの?
現在の結論は、派遣法に制定されている雇用概念と、現場での差別概念が完全乖離しているという事実。
この辺り、説明が難しいので、別途まとめようと思う。