バスde温泉

バスで行く温泉旅日記

長湯温泉療養文化館 御前湯@長湯温泉

2019-11-17 23:27:29 | 温泉(大分県)

豊肥本線・豊後竹田駅から路線バスで40~50分ほどのところ。長湯温泉は奈良時代初期の『豊後国風土記』に記述が残り、江戸時代には岡藩主中川家の御茶屋が建設されるなど、歴史ある温泉です。


街の中央に流れる芹川に沿って旅館や共同場が点在するとともに、ところどころに飲泉所が整備されています。特に河原にある露天風呂の「ガニ湯」の周辺には、情緒ある和風旅館が建ち並ぶが、そこには歓楽的要素は一切ありません。


長湯温泉は何と言ってもその泉質に特徴があります。そこここに湧きだす源泉の炭酸濃度、湧出量、温度が際立っていることから「日本一の炭酸泉」と言われています。


この「長湯温泉療養文化館 御前湯」は、長湯の温泉街の中心から芹川沿いに少し下流に下ったところにある、竹田市営の入浴施設です。


ドイツ・バーデンバーデン州バード・クロツィンゲンと友好都市となるなど、ドイツ流の温泉保養地を目指そうとしている長湯を象徴し、この建物もドイツ風を意識したモダンな建物になっています。


玄関にある飲泉口をはじめ、必ずお湯の出口に飲泉用のコップが置いてあり、飲泉が主流の欧米の温泉文化を一部取り入れようとしています。


館内ももちろんドイツを意識した造りで、家族湯や広い休憩所などかなり充実しているが、畳敷きの休憩室など、日本の共同湯の雰囲気も残っており、意外に違和感はありません。


この日の男湯は1F。曲線を生かしたデザインの浴槽に褐色、というかオリーブ色のお湯が掛け流されています。サウナの近くには冷泉があって、こちらももちろん掛け流し。


舐めてみたらここでも強い金気臭。舐めてみたら金気臭とともに若干のエグ味とシュワ感があります。さすがの炭酸泉、それほど熱くないのに身体がほかほか温まってきます。


露天は芹川に沿ったバルコニーのところにあって、眺望も抜群ながら、お湯の質も文句ない。朝の光が降り注ぐ浴槽にじっくり身を沈めていると、時間が止まったような気がしてきます。

・場所:大野竹田バス・長湯温泉BS
・泉質1:マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩泉 45.8℃
・泉質2:マグネシウム・ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩泉 46.8℃
・泉質3:マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩泉 29.7℃
・訪問日:2010年1月26日


下ん湯@由布院温泉

2019-11-08 21:14:15 | 温泉(大分県)

JR久大本線・由布院駅から温泉街の方向に延びる「由布見通り」や「湯の坪街道」には、しゃれた雑貨屋やレストランが並び、周辺には各種の美術館が点在するなど、由布院は今や軽井沢と並ぶほどの人気の観光地です。


「湯の坪街道」の先にある金鱗湖は、周囲約400メートル、水深は約2メートルと、池と見紛う程のあまりにも小さいが湖。湖底から温泉と清水が湧き出す自然の産物で、温泉が成す透明な湖面が細かく波打ち、まさしく金鱗のような美しさを湛えています。


この金鱗湖周辺にもさまざまな観光施設が立地するようになってきているが、メジャーな観光地にもかかわらず、昔ながらの共同浴場が存在しています。


金鱗湖の畔に佇む茅葺屋根の小屋がこの「下ん湯」です。ここは地元の人たちが共同管理する浴場のひとつで、地元の人たちはすぐ近くの専用浴場を使い、ここは外来の客に一般開放しているもの。料金は200円を賽銭箱に入れる方式。


引き戸を開けて中に入ると、左右に衣服を置く棚と、その間に三畳ぐらいの広さの内湯。そしてその奥の湖に面したところに半露天風呂があります。至ってシンプルで、もちろん混浴です。


掛け流しのお湯は臭いもなく、澄明で肌触りもツルツルしている…クリアーな感じですね。温度ややや高めだが適温の域で、口に含むと僅かに苦みが感じられる。単純温泉なんだが芒硝泉のような感じがするのは錯覚かな?


以前にここを訪れた時は、確か露天から金鱗湖が見渡せる絶景があったはずだが、今は目の前の生垣が邪魔して眺望が得られません。生垣が成長しただけなのかもしれないが…


この温泉では、観光客が次々に見物に訪れておちおち浸かってられないが、以前に訪れた頃には僅かに羞恥心が残っていて落ち着かなかったけど、今や見るなら見ろ!っといった心境。人間、成長するもんですね。

・場所:久大本線・由布院駅
・泉質:単純温泉 63.1℃
・訪問日:2013年9月25日


山荘天水@天ヶ瀬温泉

2019-11-03 23:39:41 | 温泉(大分県)

JR九州の観光特急「ゆふいんの森」で久留米からは1時間足らず、大分からは1時間半のところ。大分県日田市、久大本線・天ケ瀬駅からすぐのところにある天ケ瀬温泉は、玖珠川沿いを中心に約20軒の旅館・民宿が営業しています。


かつては河川敷を掘ればどこでも温泉が湧いたというこの温泉、別府温泉・湯布院温泉と並ぶ大分の三大温泉のひとつとされるものの、別府・湯布院と比しては、観光客も少なく、湯治場の雰囲気が漂う実に静かで落ち着いた温泉です。


ここの温泉街から少し離れたところ、合楽川が玖珠川に交わる手前で、豪快に水しぶきを上げる桜滝のすぐ上の川面。ここに静かに構えている一軒宿がこの山荘天水です。


ここは黒川温泉にある黒川荘の姉妹館で、黒川荘と同様に、自然な形に造営された植栽をはじめとする庭園の空間構成が見事です。


黒光りする柱や梁が特徴的な館内には客室が19室。和モダンの広々とした造りになっています。夕食は部屋でいただくが、朝食はバーラウンジに用意されます。

この旅館の温泉は、宿泊者専用の内湯・露天湯が男女それぞれ1か所、立ち寄り入浴の可能な露天湯が男女それぞれ1ヶ所、それに5種類の貸切湯があります。


宿泊者専用の内湯は男湯が「竹さんすいの湯」、女湯は「ひびきの湯」と名づけられ、それぞれ少し離れた場所に設えられているが、どちらも合楽川の渓流に面して実にいい雰囲気になっています。


この内湯の脇に渓流沿いの露天湯があって、ここはせせらぎのミストを浴びながらゆったりと湯あみを楽しむことができます。


立ち寄り入浴のできる露天湯の名称は「滝観庵」。ここは文字通り桜滝を観ることができるという滝見湯です。ただ、お湯に浸かりながら眺めるというわけではなく、露天湯の横の展望所から見れるという程度。やや誇大表示かな。


5種類の貸切湯のうち、「きり湯」と「ひのき湯」はやや大きく、「やま湯」「かわ湯」は小ぶり。「かま湯」には大きな釜が設えられ、これがジャグジーにもなっています。


それぞれ渓流のすぐ傍という絶好のロケーション。せせらぎを聞きながらゆっくり温泉を楽しむことができますね。ただ、かま湯のジャグジーは強力すぎて、とても落ち着いて浸かれるもんではありません。


それぞれもちろん掛け流しのお湯ではあるが、泉質は実にマイルドな単純泉。澄明で無味無臭、肌触りがなめらかでシルクに包まれてるかのような優しい風合いです。


ここは絶好のロケーションを味わいながら、温泉とともに空気感を楽しむところ。清流と木立から浴びせられる「気」とともに、上質のリラックスを得られる温泉といえますね。

・場所:JR久大本線・天ヶ瀬駅
・泉質:単純硫黄泉 81.6℃
・訪問日:2011年9月25日


民宿 すみ家

2019-11-02 19:22:12 | 温泉(和歌山県)
JRきのくに線・紀伊田辺駅からバスで2時間ほど(龍神自動車)、JR新宮駅からは1時間ほど(熊野交通・奈良交通)。そして路線バスとしては日本一長距離の奈良交通・八木新宮特急バスで大和八木駅から5時間半!


和歌山県田辺市本宮町にある川湯温泉は熊野川の支流・大塔川の川べりに中規模・小規模の旅館や共同浴場が軒を連ねています。


ここは河原を掘ると温泉がポコポコと湧いてくるという、関西ではおそらくここだけの珍しい温泉で、エメラルド色の大塔川で温泉浴を兼ねて水遊びを楽しむこともできます。


世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に位置付けられた熊野古道一帯に位置し、熊野本宮大社や、最古の温泉のひとつの湯峰温泉にもほど近いため、熊野観光の拠点にもなっています。


川湯では亀屋旅館に何度か宿泊しているが、今回初めて、今年の3月に脱サラ夫妻がそれまでのオーナーから引き継いだというこちらの民宿にお世話になることにしました。


建物の1階は倉庫と自販機があるだけで、玄関は階段を上がった2階。引き戸を開けると民宿のエントランスです。こうした構造には理由があります。


というのも、台風や集中豪雨があれば目の前の大塔川が溢れ、この並びの各旅館がたびたび浸水被害を受けているからです。昨年(2018年)には隣の亀屋旅館の文化財に指定されている母屋が大被害を受けました。


なのでこの旅館の1階は、水に浸かることを前提にして、車と自販機以外は何も置いていないのでしょう。


案内された部屋はさらに階段を上がった3階で、大塔川を見渡せる角部屋です。広さは8畳ぐらいかな?既に布団が敷かれており、トイレは共同です。


この民宿のお風呂は2階にあります。家庭の風呂にしては大きめだが旅館にしては狭い殺風景なお風呂だが、浴室の扉を開けると芳しい温泉の匂いが漂い、浴槽には源泉そのままのお湯が掛け流されています。


浴槽には黒御影石が貼られているので黒く見えるが、実は澄明のお湯は、ほんの少しヌルっとしているものの淡麗で素直な湯質です。こういったお湯の感覚を楽しむには河原のお風呂より内湯のほうが向いています。


こちらの食事は2階の食堂に用意されます。山の中なのに実に新鮮なお刺身が印象的でした。

建物は古いが、Wi-Fiやクレジットカード決済など、現在では必須のサービスがしっかり整備されているのがいい。急激に増加してきた外国人観光客にも対応されているようです。


旅館を引き継いでまだ半年そこそこなので、多少の突っ込みどころもあるが、これから徐々に改善されていくのでしょう。これからに期待のお宿です。

・場所:奈良交通、熊野交通、龍神自動車・かめや前BS
・泉質:ナトリウム・炭酸水素塩・塩化物泉 63℃
・訪問日:2019年10月27日

界 加賀(旧:白銀屋)@山代温泉

2019-10-31 08:12:44 | 温泉(石川県)

加賀温泉駅からバスで20分ほどのところ、北陸で最大級の温泉・山代温泉です。北陸の温泉街で特徴的なのが、町の中心の「へそ」に当たる所に「総湯」と称する立派な共同湯があるのだが、この山代でも然り。


この総湯の目の前にある「界 加賀」は、経営不振に陥ったリゾート施設や旅館の再生で知られる星野リゾートが運営する宿で、以前は「白銀屋」という屋号で商っていた創業1624年というかなりの老舗。


加賀藩主・前田利常公や北大路魯山人といった歴史を彩った人物にも所縁があり、本館建物は有形文化財にも登録されている格式高いお宿です。


今回、ちょっと贅沢にこのお宿に泊まることに。チェックインを済ませて部屋に案内されました。玄関やラウンジや老舗ならではの風格とともに和風モダンなデザイン性が満ち溢れていますね。


この旅館では「デザイナーズ加賀モダン」と称する加賀建築の伝統色(紅殻、群青)と板張りの調和したスタイリッシュな新館客室と、「魯山人クラシック」と称する純和風の本館客室の2種類。当然本館の方を予約しています。せっかくの老舗旅館なんやからね。


しかし案内された2階のお部屋は清潔で広いものの、リニューアルの手が入っていて、老舗旅館の趣が希薄で、しかもお庭が見えないのが残念なところ。


それでも、客室の向かいにある、元はダイニングで今は立礼の茶室になっている「紅有也」なるお部屋でウェルカムドリンク的なお薄とお菓子がいただけるのはうれしいですね。


さすがは星のリゾート、料理は味だけでなく見せる工夫も凝らされています。

お風呂は二種類。本館にあるのは「吉祥の湯」。男女入替制で22:00までは女湯、翌11:30までは男湯となります。歴史ある建物の昔ながらのお風呂だけあって、脱衣所も浴室も、宿の規模からすれば狭いですね。湯槽には澄明で無味無臭のお湯が掛け流されています。


少しトロンとした浴感で、古代檜の一枚板による質感とともに、しっとりとした感覚を味わうことができます。これはいわゆる美肌の湯かな?


山代温泉の湯宿の特徴として、かなり昔からに松ノ木をくりぬいた配湯管で総湯から湯をひいた「内湯」があったことです。総湯をぐるりと囲むように老舗旅館が建ち並んでいるのは、当時、遠くにまで配湯できかった名残なんですね。


界加賀は、その貴重な源泉を引く「湯の曲輪」と呼ばれる数少ない湯宿です。宿の規模が大きくないので湯槽も小さく、そのため貴重な源泉を掛け流すことができるようです。


新館にある「大浴場 尚武の湯」にはやや広めの内湯とともに、苔むした壷庭付きの露天湯があります。こちらは15:00~22:00が男湯、22:00~翌11:30が女湯になります。こちらは新しい施設だけに吉祥の湯より広くて開放的だが、しっとり感は薄いような気がします。


全体に女性に好まれるようなイメージ創りを実践している「界」では、利用客も女性が大多数。なので温泉も女性優先のようですね。でもまあ狭い男湯でも混雑することは無いので仕方ないか。

・場所:加賀温泉バス・山代温泉BS
・泉質:低張性・弱アルカリ性高温泉 64.3度
・訪問日:2014年1月19日


古総湯@山代温泉

2019-10-30 09:56:56 | 温泉(石川県)
大袈裟な言い方かもしれないが、温泉は生命を育むための地球が生み出した恵みです。この日本は温泉に恵まれた故、古来よりそこに生命が宿るとともに、動物や人が集まり、その源泉を中心に街を形成し、そして独自の温泉文化を創り出してきました。


関西から特急サンダーバードで約2時間、そして加賀温泉駅からさらに路線バスで30分ほどのところ。1300年の歴史を誇る山代温泉は、加賀温泉郷の一角を占め、和倉、山中、片山津と並ぶ県下有数の温泉です。


ここでは温泉街の真ん中に総湯と呼ばれる共同浴場が建ち、それを中心にして旅館や商店が立ち並ぶ「湯の曲輪」という街並みが形成されてきた様を目の当たりにすることができます。


そしてここでは、多くの文人墨客を集める独自の文化を育んできました。大きな旅館が立ち並ぶなか、ところどころ雰囲気のいいお店や、和装のきれいどころの女性がそぞろ歩くなど、しっとりとした温泉情緒に満ち溢れています。


この山代温泉では、バブル崩壊以降の不況や世の中のニーズの変化によって、宿泊客が急減し、最盛期には50軒以上を数えた宿泊施設はほぼ半減してしまいました。そこで、歓楽温泉のイメージを脱却し、総湯を核として歴史的価値を重点に置いた振興を施そうとしています。


その序章が伝統的な造りの建屋に茶店や加賀特産品のショップを配した交流スペース「はづちを楽堂」の整備。次に老朽化した旧総湯の移設。


そして最終章として、旧総湯があった位置に明治代の総湯を復元し、外観や内装だけでなく、入浴しながら温泉の歴史や文化が楽しめる「体験型温泉博物館」として2009年にオープンしたのがこの「古総湯」です。


木造2層の建物は、上層が釉薬瓦葺き、下層がこけら葺きの、金閣寺のようなシルエットで、ところどころにステンドグラスの色彩が施された白木の美しい華やかな造り。新しくて綺麗ではあるが、風格を得るにはこれから数年はかかるでしょう。


オープンと同時、早朝6時過ぎに訪問。あわただしく雪かきをしていた係の女性に入浴したい旨を伝えると、丁寧にも入り口まで案内し、さらに浴場についての説明とともに、脱衣籠を貸してくれたり、靴下が濡れないよう気遣ってくれたり…かなり親切。


しかもこの日の一番湯なので特典のお札をくださったり…意外なプレゼントはうれしいですね。


浴場には独立した脱衣室はなく、湯槽の脇に脱衣棚が設けられているプリミティブなスタイル。これは別府温泉の共同湯でもこんなのでした。荷物棚は鍵が無いので貴重品がある場合は浴場に入る前に、入り口近くの貴重品ロッカーに預けておく必要があります。


浴場の真ん中に凝灰岩でできた長方形の湯槽がひとつ、その手前に白いタイルで囲われたかけ湯枡に源泉が投入され、そこから湯槽に流れ込むようになっています。源泉だけに、このかけ湯枡は熱すぎて使えません。


また、お湯や水のカランは無く、ましてや混合水栓のシャワーなんかもありません。ここはあくまでも古の湯浴みを体感するところ、なのでシャンプーや石鹸は禁止です。


お湯はやや熱めなのは一番湯だからかな?澄明で匂いも味も感じない淡白なお湯です。山代温泉新1号源泉は源泉のところでいったんタンクに貯められてるので、若干の劣化があるようです。源泉の足湯では濃厚なお湯だったんやが…


ゆったりお湯を味わった後は、上階の休憩室でほっこりすることができます。無料のお茶をいただきながら、総湯の周りの風景を楽しむことができるかと…残念ながらこの時間はまだ真っ暗でした。


山代の起爆剤となろうこの温泉、あと数年たって風格が備わってくれば、道後の温泉にも負けない名所になるかもしれませんね。

・場所:加賀温泉バス・山代温泉BS
・泉質:ナトリウム・カルシウム‐硫酸塩泉 低張性・弱アルカリ性高温泉 64.3度
・訪問日:2014年1月19日

汀邸 遠音近音(オチコチ)@鞆の浦温泉

2019-10-22 18:15:18 | 温泉(広島県)
山陽本線・福山駅からトモテツバスで約30分、終点の鞆港BSでバスを降りると、そのあたりは雁木のある古い港と江戸時代の面影を残す建物が点在する鞆の浦です。


鞆の浦は、沿岸航海が主流の時代には、潮流が変わるこの鞆の浦が瀬戸内海を横断する舟の拠点で、鞆港が潮待ちの港として賑わいました。


そのため、ここには古い町並みが残り、1992年には都市景観100選に、2007年には美しい日本の歴史的風土100選に、2017年には「福山市鞆町伝統的建造物群保存地区」の名称で重要伝統的建造物群保存地区として選定されました。


宮崎駿がここに滞在して「崖の上のポニョ」の着想を得たというのは有名な話だが、宮城道雄が光を失う前、目に焼き付いていた海の情景がこの鞆の浦で、そのイメージから生まれたのが箏曲『春の海』だったのはあまり知られていません。


今回、この鞆の浦の、仙人も酔ってしまうほど美しいことから名づけられた仙酔島や、島内に弁天堂が建てられている弁天島を真正面に望む旅館に宿泊することにしました。


トモテツバスの終着点のあるバス通りから狭い路地に入り込んだところ、文人墨客に愛された「遠音近音」の前身、「宿屋籠藤」の木造本瓦葦べんがら塗りの建築物を再生したエントランスが現れます。


エントランスからは庭園を横切る渡り廊下を抜け、本館に入ります。本館にはレセプションとともに海の見えるロビーラウンジがあり、そこでお茶とお菓子をいただきながらチェックインを済ませます。


全室が部屋付き温泉露天風呂を備えるこのお宿、その中でも最上級のアッパースイートルームが今夜のお部屋です。


シーサイドデッキを含めて80㎡を越す広さを持つこの客室には、リビング、ベッドルーム、そしてウッドデッキには仙酔島が一望の露天風呂が備えられています。


リビングには大画面のTVとロッキングチェア、重たそうな大テーブルが据えられ、天井からは多数の照明器具がぶら下がっています。化粧室にはフェラガモ社製のアメニティが用意され、質感を高めています。


部屋付き露天風呂にはスライド式の鎧戸があり、これを開けると鞆の海と島々、行き交う船を眺めることができます。浴槽には澄明のお湯が満たされ、自動で適温に保たれています。


これとは別に、最上階にふたつの貸切専用の大浴場があります。ここも仙酔島を見渡せる眺望を持ち、のびのびと足を伸ばして入浴を楽しむことができます。ふたつの浴場を男女別としていないところが贅沢ですね。


泉質は放射能を含む単純線で、味も匂いもない淡白なお湯。しっとりとした浴感があり肌にも優しそうです。冷鉱線なので加温は必須。なので、放射能泉としての効能は期待できません。


こちらの料理は独自な発想でモダンな日本料理の姿を見せてくれます。

この旅館ではユニークなサービスがあります。各客室に手挽きのコーヒーミルと豆が置いてあり、挽きたてのコーヒーを味わうことができるのです。

コーヒーは深いコクが特徴の「潮待ちの港ブレンド」なるオリジナルブレンドで、また、抽出した残りかすを部屋に置いておくと芳香が漂うだけでなく、消臭効果を得られるという副産物もあります。


朝、東の空が赤みを帯びてきたころに起きだし、海の景色を眺めることにしました。さざ波を打つ海面と島並みに徐々に色彩が加わってくるとともに、時折、漁に出る漁船がエンジン音を響かせる…


モーニングコーヒーを飲みながら、またはお湯に浸かりながらこの長閑な情景を眺めることができるのは、最高の贅沢かもしれません。

「guntû」@瀬戸内海

2019-10-19 10:29:49 | 乗り物(船舶)
「guntû(ガンツウ)」は、「せとうちに浮かぶ小さな宿」をコンセプトに、中四国の瀬戸内海沿岸における景勝地を錨泊しながら周遊する宿泊型の客船です。尾道市にあるベラビスタマリーナを母港として2017年10月17日に就航しました。 


体は全長:81.2m・全幅:13.75m・総トン数:3,200t。船のデザインは建築家の堀部安嗣氏で、屋根瓦のある瀬戸内の風景に溶け込むような三角屋根と、海の色にあわせて変化するシルバーの船体が特徴です。


客室は4タイプで19部屋、乗客数は最大38名。世界遺産の宮島やモダンアートで知られる直島など、瀬戸内海を巡るさまざまな航路を2泊3日、または3泊4日をかけて10ノットの巡航速度で周遊します。


今回、妻殿と一生の思い出に残る旅を…ということで、この「guntû」に乗船してみることにしました。2019年秋のツアーがリリースされた半年前、清水の舞台から飛び降りる気持ちでなけなしの貯金をはたき、待望のこの日を迎えることができました。


今回、申し込んでいた航路は1泊目は宮島沖、2泊目は大三島沖に錨泊する2泊3日のプラン。2019年10月6日の出港です。


山陽新幹線・福山駅からお迎えの車でベラビスタマリーナに着くと、アテンダントの女性がエントランスで待っていてくださいました。専用のラウンジでチェックインの手続きとともに飲み物やお菓子のサービスがあります。


目の前のマリーナの奥に、建物が海の上に浮かんでいるようなユニークなデザインの「guntû」が佇んでいました。常石造船で建造中の巨大な貨物船と並ぶと「guntû」は小舟。それらの船影を眺めながらシャンパンは美味い。


乗船時間になると電動カートで桟橋へ。右舷から乗り込むと登場スタッフのお出迎えがあり、担当の案内で船室へ。私たちの部屋はスタンダードな「テラススイート」ながら、海に面したテラスやバスルーム、小さいながらもリビングもあります。


なお、最高級の部屋は操舵室の真上、船首の前方を独占するにある「ザ ガンツウスイート」で、その次が「グランドスイート」。どちらも露天風呂が付いていて、部屋もかなり広く取られているとのこと。


部屋に届けられていた荷物を整理していると、いつの間にか少しずつ桟橋から離れています。エンジン音も揺れもしないので全然気づきませんでした。港を出たところで長声一発!いざ出航です。


船内は3層になっていて、最上部のDECK3にはメインダイニング、寿司カウンター、カフェバー、ラウンジなど。中間のDECK2に最高級の「ザ ガンツウスイート」を含む客室、ジム、エステ、サウナ付き大浴場。そして下層のDECK1には乗船口とともに「テラススイート」が並んでいます。


また、DECK1の先端は操舵室があり、後部は寄港先での上陸時に使用するテンダーボート2隻を搭載するACTIVITY DECKとなっています。そしてその下は機関室・乗組員区画とのこと。


出港してから30分ほど、DECK3の左舷にある「縁側」に寝そべりながらシャンパンとカナッペをいただいていると、尾道水道に差し掛かりました。「guntû」の右舷に尾道市街が迫ってきて、こちらに手を振る人々の表情まで見えてきました。


「guntû」での食事は「お好きなものを、お好きなときに、お好きなだけ」がテーマ。メインダイニングは東京都原宿の老舗割烹「重よし」の佐藤憲三氏が監修で、瀬戸内の新鮮な食材をふんだんに使用し、手の込んだ料理を提供しています。


さらに炭焼き台が設けられ、選んだ魚介やお肉、野菜をグリルしてくれるほか、和食だけでなく洋食やスイーツも楽しめます。もちろんワインや日本酒などのストックも多彩です。


メインダイニングの一角には6席だけの小さな鮨カウンターがあり、2名の職人が待ち構えています。こちらは淡路島「瓦(のぶ)」の坂本瓦生氏の監修で、獲れたての海の幸をネタにしつつ、アイディアあふれる握りの姿を見せてくれます。


食後は前方のカフェバーでグラスを傾けます。スコッチやバーボン、ジャパニーズなどの各種ウイスキーやシェリー・ベルモットなどが用意されているほか、瀬戸内海をイメージしたオリジナルカクテルもいただけます。


気候が良ければ前方のデッキや左舷の縁側で過ごすことも可能。街の灯を眺めながら杯を重ねるのは気分も高まります。多少飲みすぎたところで、エレベーターで下に降りれば部屋にすぐ戻れるのもいいですね。


部屋に戻ればフルーツが用意されていました。この日は岡山のシャインマスカット。小型のワインセラーにはハーフの高級ワインなどがストックされているので、リビングでさらにグラスを傾けます。


「guntû」の素晴らしい料理の詳細は食べログで。

テラスの一角にバスルームがあり、もちろんオーシャンビュー。コックをひねればすぐに適温のお湯が出てくるし、質の高いアメニティーも充実しています。とても船の中とは思えません。


TVが設置されていないのもいいですね。せっかくの非日常を楽しむにはTVはむしろ害悪です。代わりにi-padがあって、音楽や映画を楽しむことができるが、使用が集中する時間帯ではWi-hiが不安定。これについては改善が必要だと思います。


「guntû」では様々なアクティビティー(船外活動)が用意されています。今回の航路の翌早朝、宮島の厳島神社周辺で早朝散歩を楽しみました。参加者はDECK1の乗船口に集合してライフジャケットを装着、「guntû」に2艇搭載されたテンダーボートに乗り込んで宮島に上陸します。


テンダーボートに乗り移るには「guntû」に設置されている桟橋を利用します。この桟橋が非常によく出来ていて、安全に乗り移れるだけでなく、水上飛行機も横付けできるとのこと。


「guntû」の朝食もメインダイニングで用意されます。和・洋のプリフィックスのメニューから選ぶことになるが、それ以外でも食材さえあれば希望を叶えてくれることも。
ビュッフェコーナーには瑞々しい野菜とともに多種類のドレッシング、ジュース、ヨーグルト、シリアル、チーズ、フルーツが取りそろえられています。


DECK3の最後尾は「和」をイメージしたカーペット敷きのラウンジとなっています。ここでは靴を脱いで座敷感覚で寛ぐことができるとともに、立礼による本格的なお茶席が設えられています。


ここでいただける茶菓子は奈良「樫舎(かしや)」の喜多誠一郎氏監修による本格的な和菓子です。和菓子職人が目の前で作ってくれる乾菓子や最中をお茶とともにいただくと、心穏やかにさせてくれます。


この「guntû」はディーゼルエンジンで発電し、モーターによってプロペラを回す電気推進です。潜水艦みたいですね。そのおかげで音も静かで振動も少ない。さらに船特有の重油の臭いも気になりません。


波穏やかな瀬戸内を滑るように進んでいるうち、遠くのほうにベラビスタマリーナが見えてきました。マリーナから水上飛行機が飛び立とうとしています。夢のような2泊3日も終わりに近づいてきました。スタッフが部屋に訪ねてきてチェックアウトと荷物発送の手続きをします。


揺れもなく静かに桟橋に接岸しました。いよいよ豪華な船旅のフィナーレです。桟橋には乗客を福山駅や広島空港に送るリムジンが待機しています。下船口には「guntû」の大多数のスタッフがお見送りに集まっていました。


乗客は方面ごとに順次呼び出され、リムジンが走り去っていきます。私たちの番が来てリムジンに乗り込みました。静かにリムジンが出発、操舵室の外にキャプテンが立ち、私たちを見送ってくださいました。


この夢のような船の旅、気になるのはその料金です。部屋のグレードによって変わるが、基本的に1泊40万円~100万円(1室を2名利用の場合)。今回は2泊の航路なので、いちばん安いグレードの私たちは80万円の支払いです。


乗船中の食事や通常のサービスはすべて含まれているので、積まれているごく一部の高級ワインを飲んだり、ショップでの購入、エステの利用が無ければ追加料金はありません。


なのでこれを高いととるか安いととるかはその人の考え方次第でしょう。煌びやかな豪華さは無いが、新鮮な食材に囲まれて、スマートな空間で気の利いたサービスを受けることができるのなら、決して高くは無いでしょう。


穏やかな瀬戸内の洋上で過ごす極上の船旅。これは一生の思い出に残ることに違いありません。


みくりが池温泉@地獄谷温泉

2019-10-19 08:37:56 | 温泉(富山県)

立山黒部アルペンルートの最高峰、富山側からは富山地鉄、立山ケーブルカー、立山高原バスを乗りついでたどり着く室堂駅。ここは駅とされるようにトロリーバスの終着駅です。


トロリーバスは正式には無軌条電車ということで、一応鉄道の分類に入るんですね。なのでここは日本一高いところにある駅といえます。


室堂駅から10分ほど歩いたところ、みくりが池の傍の地獄谷を見下ろす位置に建っているのがみくりが池温泉です。「みくりが池温泉」というのは温泉名ではなく、この名称は旅館を含む温泉施設自体を指しています。


源泉は日本最高所の源泉地帯(標高2,300m)である地獄谷温泉で、ここからの引き湯。とはいえ、地獄谷温泉自体は火山性ガスの危険があるため温泉施設を設営できないので、ここが地獄谷温泉といっても間違いではないでしょう。


看板に記されているように、日本で最も標高の高い位置にある温泉とのこと。自然に湧き出している、いわゆる野湯ではもっと高い位置にあるところもあるだろうが、温泉旅館としては、ここの2410mがいちばん高いそうです。


浴槽には白く濁ったお湯が掛け流されています。よく見ると細かい気泡がいっぱい。これによって白く色づいているのでしょう。硫黄臭するこのお湯を舐めてみると酸っぱい、酸性のようです。雲仙のお湯とよく似ているかな。


外はガスっていて景色は見えないが、おそらく地獄谷が見渡せるのでしょうね。展望露天など、洒落た設備はないが、冬季には休業してしまう一種の山小屋なんだから当然といえば当然。こんな高地で上質の湯浴みを楽しめる…これこそ贅沢な温泉だといえるでしょう。

・場所:立山黒部貫光立山トンネルトロリーバス・室堂駅、立山高原バス・室堂BT
・泉質:単純硫黄泉 90度
・訪問日:2007年9月14日


名剣温泉旅館@名剣温泉

2019-10-17 01:14:01 | 温泉(富山県)

宇奈月から黒部峡谷鉄道のトロッコに揺られること1時間20分。終点の欅平駅を降り、黒部川の支流に沿って15分ほど歩いたところにある渓谷の一軒宿です。


日本秘湯を守る会の提灯が揺れているこの旅館は、黒部峡谷温泉郷を代表する名湯です。日本秘湯を守る会の会員旅館には「どこが秘湯やねん」っとツッコミたくなるような街中の旅館もあるが、ここは掛け値なし。紛れもない秘湯です。


帳場で荷物を預かってもらい、早速お風呂へ。ここでも山肌にへばり付いた、建築足場みたいな通路を通って待望の秘湯へ。葦簾に囲われているのがこの旅館の露天風呂です。


硫黄の臭いが実に芳しい露天風呂では、やや白濁したお湯が掛け流されています。源泉は上流の祖母谷温泉からの引湯で、ここに至るまでに湯温は約80℃まで下がっているものの、それでも熱いので加水は致し方ないところ。


お湯の色や匂い、横を流れる清流など、十津川の湯泉地温泉を想起する極上の温泉です。ここには宿泊者専用の内湯もあるとのこと。ぜひ宿泊してこの極上湯にふやける程に浸ってみたいと思いました。

・場所:黒部峡谷鉄道・欅平駅
・泉質:単純硫黄泉 98℃
・訪問日:2007年9月15日