京都丹後鉄道・夕日ヶ浦木津温泉駅からすぐのところ、木津温泉(きつおんせん)は京都府内でももっとも古い温泉です。今から1250年ほど昔、天平の飢饉で疫病が発生したとき、日本各地に開湯伝説を残している行基が人々にこの地に湧くお湯に浸かるよう説き、そのおかげで疫病の難から救われたといい伝えられています。
ここからそう遠くない場所、海岸近くにある夕日ヶ浦温泉は、その眺望とカニで人気のため、大規模な旅館が数件立っているのに比べ、この木津温泉には旅館が4軒しかありません。ここはそのひとつの老舗です。松本清張が長期に投宿し、「Dの複合」を執筆したことでも知られています。
新館にある大浴場には澄明なお湯が掛け流されています。匂いも味も感じられない淡白な浴感だが、アルカリ泉らしいしっとりとした肌触りが感じられます。
源泉温度が高くないので、冬場の加温は致し方ないが、それ以外の時期は自然の状態の新鮮なお湯を楽しめます。この大浴場には露天もあって、手入れの行き届いた庭園を眺めながらの入浴は格別です。
しかし、この旅館の値打ちは旧館にある貸し切り湯にあります。「ごんすけの湯」は小さな浴室だが、清らかなタイル貼りの浴槽に、天井にはステンドグラスが配されている。前期昭和のモダンが溢れています。
湯口からはほぼ適温の清澄で滑らかなお湯が掛け流されているが、熱くなりすぎたときにはもうひとつの湯口から冷泉を足し入れることができます。冷泉はライオンの口から流れ出てきます。
「しずかの湯」はさらに小さくなっていて、タイル張りやステンドグラスは同様だが、浴槽に浅い部分があって、寝っ転がりながら浸かることができる。これは気持ちいですね。有名な温泉評論家が「日本一の貸し切り湯」だと評価したのは納得でした。
この旅館、浴室だけでなくロビーやピアノのある休憩室にも昭和初期のロマンティシズムが漂っています。鉄筋コンクリート造りの新館に比べ、旧館は床がギシギシ軋むなど古さは否めないが、逆に雰囲気が抜群。
加えて料理もいいですね。
なるほど、松本清張が落ち着きすぎて2ヶ月も滞在してしまった理由が見えてきました。
・場所:京都丹後鉄道・木津温泉駅
・泉質:単純泉 40.2℃
・訪問日:2010年5月30日
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます