とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

出会い

2013-01-12 22:38:52 | 日記
出会い




 マリー・ローランサン 「アルルキーヌ(女道化師)」(1940年 マリー・ローランサン美術館蔵)
 淡彩の優しげな女性像を多作した画家。表情がよく似ていて区別がつきにくいが、この絵はその点はっきりとした個性を感じさせる。そういう点で私の好きな作品の一つである。

 珍しく冴子さんが私の家に来て、例の郁子さんに会いたいとか言い出した演劇青年のことを話し始めました。妻はお茶を運んで奥の部屋に戻っていきました。

 えっ、貴女の家で二人は初めて会ったんですか。

 坂本さんから二人の仲をとりもってくれと言われて・・・。

 坂本さんは同席したのですか。

 お見合いじゃないからとか言って・・・。

 来なかったんですか。

 ええ。

 ま、それもそうですね。

 ということで、私もどうしていいか分かりませんので、表座敷に通してお茶を出して、それからまもなく席を外しました。

 二人だけで・・・。

 そうです。

 それが自然でいいですね。・・・それで、二人はどうなったんですか。

 郁子さんから後で聞いたんですが、その青年は鈴木琢磨とか言って、地元の湖笛という劇団の代表者をしてて、郁子さんが以前入っていた劇団の公演は何度か見ていたそうです。ですから、スタッフの郁子さんの名前は知っていたとか・・・。

 分かりました。それで、仙女さんのリハを見に来たのですね。

 そうらしいです。それで、本人の絵を見たり、仕事ぶりを見ていて、心がときめいたとか・・・。

 ほほう、ときめいた・・・、郁子さんがそういう言い方をしたのですね。

 いやいや、ごめんなさい。そういう言葉じゃなかったんですが・・・、要するに恋心という・・・。

 冴子さん、母親代わりの身としては心穏やかではないでしょうね。

 畝本さん、当たり前ですよ。ですから、こうして来たんじゃないですか。

 で、坂本さんは父親だとはっきり仰ったわけですが、その鈴木という青年は仙女さんが母親だということは知っているんですか。

 いや、分からないと思います。

 しかし、いずれは分かることですが、あの大女優が母親だと知ったらその青年は身を引くことはないでしょうね。

 そんなことはないと思います。いや、私にはそういう気がします。

 将来的には劇団湖笛のスタッフとして働くことを期待しているんじゃないですか、その青年。

 郁子さんの話からはそこまで読み取ることはでませんが、結ばれればいずれは自然にそうなるような・・・。

 ところで、古賀さんにこのことは・・・、いや、その前に仙女さんには相談をするつもりですか。

 畝本さん、一回会っただけでそこまで話を進展させては・・・。

 ああ、そうですね。私はせっかちなもので・・・どうもすみません。・・・私たちは見守っていくしか・・・。

 私もそれがいいと思います。・・・冴子さんは母親のような柔和な表情になりました。私もその顔を見ていて心が和んでいくようなぬくもりを感じました。

 
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