とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

湖上笛声

2013-01-27 23:12:07 | 日記
湖上笛声




 グスタフ・クリムト「アッター湖」(1900)


 治子の都合を聞き、ある日曜日笙子さんの絵を再び見に出かけました。治子と二人の孫娘と妻を乗せて車で美術館に出かけました。今度は賑やかに出かけましたので、美術館の坂本さんも喜んでくれました。小学生の孫たちは関心がないのではと思っていましたが、絵の不思議な力を感じたのか目を輝かせて見入っていました。治子は学生時代絵を描いていたことがあるのでどういう風に鑑賞するのかと私は興味を持っていました。すると、宍道湖の湖面だけを描いたある作品の前で立ち止まり、動かなくなりました。私も傍に立ち、この絵は湖面の色彩が鮮やかで春みたいな感じだね、と小声で言いました。すると、音が聞こえてくる、と呟きました。

 何の音が・・・。

 湖面から笛の音が聞こえてくるみたい。

 笛・・・。

 ええ、幽かな音色が・・・。

 ・・・。

 囁いているような、すすり泣いているような・・・。

 そうか。

 笛・・・、いや、笙子さんの声かも知れない。

 笙子さんの・・・。

 湖上笛声という日本画を見たことある。

 いや、ない。

 中国の不思議な話を絵にしたものだけど・・・。

 ない、ない。

 中国の画家も描いていると思う。

 さあ・・・。

 お父さん、湖笛という劇団を知ってる。

 湖笛、・・・ああ、知ってるよ。

 あの劇団の名前もその不思議な話から付けたみたい。

 そうか、知らなかった。

 私、大好きで何度も見に行ったわ。

 あ、そうか。

 松江に稽古場があって、何度も見学したわ。主催者は鈴木琢磨さん。

 えっ、知ってるのか。

 よく話をするけど、きさくなお方で感じがいいわ。最近、綺麗な女優さんが一緒に稽古していて、ちょっと邪魔なんだけどという感じ・・・。

 坂本郁子という方だよ。

 えっ、あの、いつだったか記者会見してた、仙女さんの何とかという・・・。お父さんどうして知ってるの。

 いや、私もテレビで・・・。

 あ、そう。じゃ、お父さんに紹介してあげるわ。

 だれを。

 だから、鈴木琢磨さんを。

 鈴木さん。

 そう、鈴木さん。娘にそう言われてどぎまぎしましたが、私は一緒に行くことを約束してしまいました。

 
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