獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

佐藤優『国家の罠』その25

2025-02-08 01:38:00 | 佐藤優

佐藤優氏を知るために、初期の著作を読んでみました。

まずは、この本です。

佐藤優『国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて』

ロシア外交、北方領土をめぐるスキャンダルとして政官界を震撼させた「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた―。外務省きっての情報のプロとして対ロ交渉の最前線を支えていた著者が、逮捕後の検察との息詰まる応酬を再現して「国策捜査」の真相を明かす。執筆活動を続けることの新たな決意を記す文庫版あとがきを加え刊行。

国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて
□序 章 「わが家」にて
□第1章 逮捕前夜
□第2章 田中眞紀子と鈴木宗男の闘い
 □「小泉内閣生みの母」
 □日露関係の経緯
 □外務省、冷戦後の潮流
 □「スクール」と「マフィア」
 □「ロシアスクール」内紛の構図
 □国益にいちばん害を与える外交官とは
 □戦闘開始
 □田中眞紀子はヒトラー、鈴木宗男はスターリン
 □外務省の組織崩壊
 □休戦協定の手土産
 □外務官僚の面従腹背
 □「9・11事件」で再始動
 □眞紀子外相の致命的な失言
 □警告
 □森・プーチン会談の舞台裏で
 □NGO出席問題の真相
 □モスクワの涙
 ■外交官生命の終わり
□第3章 作られた疑惑
□第4章 「国策捜査」開始
□第5章 「時代のけじめ」としての「国策捜査」
□第6章 獄中から保釈、そして裁判闘争へ
□あとがき
□文庫版あとがき――国内亡命者として
※文中に登場する人物の肩書きは、特に説明のないかぎり当時のものです。

 


外交官生命の終わり

2月20日の衆議院予算委員会で、共産党の佐々木憲昭議員が外務省の内部文書を暴露し、国後島のプレハブ建築「友好の家」の入札を巡って、鈴木氏からの不当な圧力があったのではないかと追及した。この瞬間から世論のみならず自民党の鈴木氏に対する風当たりも急速に強まった。
外務省員が政策に対する理解を求めるために与党の有力政治家に内部文書を渡すことはときどきある。しかし、「革命政党」である共産党に外務省から秘密文書が流れるというのは、別次元の問題だ。それは外務省内部の権力抗争に勝利するためには共産党と手を握ってもよいというところまで一部外交官のモラルが低下したということを意味していた。
田中眞紀子女史の失墜を図るためのさまざまな情報戦により、文書流出に対する抵抗感が薄れたのだろう。「トリックスター」の遺した思わぬ後遺症で、外務省の地下に封じ込められていた憤懣、嫉妬、怨念などどろどろしたものが全て吹き出してきたのである。
21日早朝、情報ブローカーから電話がかかってきた。
「支援委員会絡みで東京地検特捜部が動くよ。足寄(鈴木氏の出身地)のオッサンは塀の中に落ちるから、あなたは早くあのオッサンとは縁を切った方がいいよ」という話だった。

22日昼、私は今井正国際情報局長に呼ばれた。私から、「危ないと思う。そろそろ国際情報局から私が離れないと組織に迷惑がかかる」と報告した。
今井局長は、「僕もそう思う。ただし国際情報局に迷惑とかいう話ではなく、あなた個人が狙われ、危ない目に遭うことを僕は心配している。早く人事異動の希望を出した方がよいと思う」と言った。私は、中東の2カ国と中南米の1カ国を希望先として述べた。
午後4時過ぎに今井局長から私と課長が呼び出された。今井氏は、涙を流しながら私に伝えてきた。
「斎木(人事課長)のガードがいつになく堅かった。一足遅かった。官邸からの指示で、外交史料館に異動になる。5時に辞令が交付される。ひどい話だ。理不尽だ」
私は、「官邸の指示ならば仕方がないですね。ただし、これで終わりではないでしょ う」と淡々と答えた。
今井局長は、私が外交史料館に異動になり、私に対するバッシングが強まり、処分された後も私に人間としての温かさをもって接してきた数少ない幹部だった。5月に今井氏はイスラエル大使としてテルアビブに赴任した。
2003年10月8日に私が512日間の拘置所生活から保釈された直後、イスラエル関係者から連絡があった。その中で、「今井大使は、イスラエルの政治エリートからとても信頼されている。佐藤さんの播いた種は確実に育っている」という話を聞いた。私の外交官生命は、東京地検特捜部に逮捕された02年5月14日よりも少し早く終わっていた。私の理解では、それは官邸の指示に基づき私が外交史料館に異動になった2月22日だった。これは同時に外務省の鈴木宗男氏に対する訣別宣言であったし、私が追求してきた形での情報収集、調査・分析機能の強化に外務省が「ノー」という判断を下した日でもある。


小泉政権の誕生により、日本国家は確実に変貌した。私はこれまで、私自身が見聞きしたことを中心にその変貌をたどってきた。この章のまとめとして外交政策、外務省を巡る政官関係に絞って、その意義を簡潔に整理してみたい。

第一は、外交潮流の変化である。
「トリックスター」田中眞紀子女史が外相をつとめた9ヶ月の間に、冷戦後存在した三つの外交潮流は一つに、すなわち「親米主義」に整理された。
田中女史の鈴木宗男氏、東郷氏、私に対する敵愾心から、まず「地政学論」が葬り去られた。それにより「ロシアスクール」が幹部から排除された。次に田中女史の失脚 により、「アジア主義」が後退した。「チャイナスクール」の影響力も限定的になった。
そして、「親米主義」が唯一の路線として残った。9・11同時多発テロ事件後の国際秩序を「ポスト冷戦後」、つまり冷戦、冷戦後とも時代を異にする新しい枠組みで提える傾向があるが、日本は「ポスト冷戦後」の国際政治に限りなく「冷戦の論理」に近い外交理念で対処することになった。

第二は、ポピュリズム現象によるナショナリズムの昂揚だ。
田中女史が国民の潜在意識に働きかけ、国民の大多数が「何かに対して怒っている状 態」が続くようになった。怒りの対象は100パーセント悪く、それを攻撃する世論は100パーセント正しいという二項図式が確立した。ある時は怒りの対象が鈴木宗男氏であり、ある時は「軟弱な」対露外交、対北朝鮮外交である。
このような状況で、日本人の排外主義的ナショナリズムが急速に強まった。私が見るところ、ナショナリズムには二つの特徴がある。第一は、「より過激な主張が正しい」という特徴で、もう一つは「自国・自国民が他国・他民族から受けた痛みはいつまでも覚えているが、他国・他国民に対して与えた痛みは忘れてしまう」という非対称的な認識構造である。ナショナリズムが行きすぎると国益を毀損することになる。私には、現在の日本が危険なナショナリズム・スパイラルに入りつつあるように思える。

第三に、官僚支配の強化である。外務省を巡る政官関係も根本的に変化した。小泉政権による官邸への権力集中は、国会の中央官庁に与える影響力を弱め、結果として外務官僚の力が相対的に強くなった。ただし、鈴木宗男氏のような外交に通暁した政治家と切磋琢磨することがなくなったので、官僚の絶対的力は落ちた。
外務官僚は、田中女史、鈴木氏に対する攻撃の過程で、内部文書のリークなど「禁じ 手」破りに慣れてしまい、組織としての統制力がなくなった。組織内部では疑心暗鬼が強まり、チームとして困難な仕事に取り組む気概が薄くなった。
ある意味で、現在の外務省は、「水槽」の中で熱帯魚(外務官僚)たちが、伸び伸びと暮らすことのできる実に居心地の良い世界である。熱帯魚たちは「水槽」の中でその美しさを競い合う。そこでは、美談もあれば人間ドラマもあり、深刻な抗争もある。しかし、所詮は「水槽」の中の世界に限られた話だ。
現実の国際政治は「水槽」の外側、大きな海で行われている。この海に飛び出していく勇気を果たして熱帯魚たちはもつことができるであろうか。熱帯魚を追い立てる力は、「水槽」の内側からは出てこない。国民の利害を体現する外交を実現するためには、政治家の外務官僚に対する圧力は不可欠と今も私は考えている。

 


解説
今井局長は、「僕もそう思う。ただし国際情報局に迷惑とかいう話ではなく、あなた個人が狙われ、危ない目に遭うことを僕は心配している。早く人事異動の希望を出した方がよいと思う」と言った。私は、中東の2カ国と中南米の1カ国を希望先として述べた。

ここは重要です。
佐藤氏は、この時点では「海外に逃げる」ことを考えていたのですね。
残念ながらその希望はかなわず検察に逮捕されるわけですが、逮捕前にはかなり追い詰められた精神状態だったことがうかがわれます。

 

獅子風蓮



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