このたび、村木厚子さんの著書『私は負けない-「郵便不正事件」はこうして作られた』を読み、検察のひどいやり方に激しい憤りを感じました。
是非、広く読んでほしい内容だと思い、著書の一部を紹介したいと思います。
(目次)
□はじめに
第一部
□第1章 まさかの逮捕と20日間の取り調べ
□第2章 164日間の勾留
■第3章 裁判で明らかにされた真相
□第4章 無罪判決、そして……
□終 章 信じられる司法制度を作るために
第二部
・第1章 支え合って進もう
◎夫・村木太郎インタビュー
・第2章 ウソの調書はこうして作られた
◎上村勉×村木厚子対談(進行…江川紹子)
・第3章 一人の無辜を罰するなかれ
◎周防正行監督インタビュー
・おわりに
調書と食い違う証言
2月、3月に集中して証人尋問が行われるので、裁判所の近くにウィークリーマンションを借りました。膨大な資料を持って往復するのは大変なので、荷物置き場兼滞在場所です。ゴミ出しや買い物などは大変ですが、それでもホテルよりリラックスできました。
証人尋問は2月2日の第2回公判から始まりました。まず、検察側証人として、3日連続で、凜の会の幹部二人に対する尋問がありました。いずれの証人も、基本的には検察側のストーリーに沿う証言をしましたが、調書の内容と食い違ったり、検察側の主尋問と弁護側の反対尋問で言うことが変わったり、曖昧な言い方も多くありました。取り調べの時に、意に沿わない供述をすると、検事が声を荒らげたり、机を叩いたりして、事実を押しつける場面があったことも明らかになりました。
倉沢さんは、私には2回会ったと述べました。調書では4回会ったと言っていたのですが、そのうち最初に私に挨拶に来たという点(事件の「入口」)と、最後に私から証明書を受け取ったという場面(事件の「出口」)だけ証言を維持し、後は「(供述調書は)事実と違う」といって否定しました。
調書では最初の挨拶の時に私が言ったことになっているセリフも、実は上村さんの前任の係長のものであり、私とはほとんど会話をしていないと述べるなど、調書の内容とはずいぶん異なる証言でした。検察側のストーリー通りの調書にサインしたのは、取り調べ検事から、厚労省の関係者はみな認めていると言われ、さらに「新たに裁判員裁判が導入されたので、平易な調書が必要だ」と説得されたから、と言うのです。もちろん、この裁判は裁判員裁判対象事件ではありません。
白井検事が供述調書を読み上げて尋問しても、「署名はしたけれど、事実とは違います」という証言が続きました。たまりかねたのか、白井検事が「取り調べで暴力をふるわれたり、脅かされたことはありましたか?」と聞く場面もありました。
その時の白井検事と倉沢さんのやりとりは、とても興味深いものでした。
倉沢「暴力はありませんが、何回かテーブルを叩かれたことはありました」
白井「どんな時にテーブルを叩かれたのですか」
倉沢「同じ内容で間違った返事をしたときです。つまり、最初の質問でそのとおりです、と言って、後で、いやそれは違います、と言い直したときとかです」
検察の見立てに合う供述が「答え」であり、それに合わない内容は、それが事実であったとしても、「間違い」という取り調べだったのでしょう。
また、弘中弁護士の反対尋問に対し、倉沢さんは最初、裁判の前に検察官と事前の打ち合わせを行ったことを隠していて、その点を指摘されると、「打ち合わせ自体がいけないことだと記憶していた(ので隠した)」と弁明しました。打ち合わせをしたことをやましく感じるような状況があったのでしょうか。ご自分の裁判のこともあり、事件の「入口」と「出口」の部分について、検察から「これだけはちゃんと言うように」と事前に強く指示されて、断れなかったのかもしれません。見たところ、いかにも人のよさそうな、ちょっと頼りない雰囲気のおじいさんで、公判でも、言うことがどんどん変わってしまいます。そういう人の、はっきりしない話を使って事件を作り上げ、私を逮捕・起訴したか……と思うと、検察に対する怒りがさらに高まりました。
しかも、ようやく維持された「出口」についての倉沢証言は、明らかに客観的事実と矛盾するものでした。彼は、調書でも法廷でも、証明書を受け取ったとする時の状況を説明しています。それによると、自席にいた私の正面に、机をはさむ形で倉沢氏が立ち、まるで表彰状を授与する時のように、双方が両手で証明書を受け渡したそうです。
ところが、当時の私の机の前には、人の背丈より少し低いくらいの衝立があり、その向こうには奥行き30センチほどのスチール製キャビネットが置いてありました。とても、机をはさんで私と向き合う位置に人が立つことはできません。
にもかかわらず、このような証言がなされたのは、検察側が厚労省内の実況見分もやらず、私の執務環境をまったく知らなかったためでした。偽造した証明書を依頼者に渡す、つまりまさに犯罪が行われたと自らが主張する現場を確かめることさえ、検察側はやっていなかったのです。ストーリーに沿った供述調書を作成し、それと同趣旨の法廷証言さえ得られればよく、客観的な事実をいかに軽視していたかが、この一事からもよく分かりました。
一方の弁護団は、現場の調査を行い、写真や見取り図をつけた調査報告書を作成し、検察側の主張が客観的事実と矛盾することを裏付ける証拠として提出しました。
証人尋問は、もっぱら弁護士が質問する、私はやりとりをただ聞いているだけです。それでも、その内容に嘘や矛盾はないかと集中して聞くので、かなりくたびれます。三日連続の裁判が終わった時には、頭が痛く、家に帰って量ってみたら体重も減っていました。
【解説】
このような証言がなされたのは、検察側が厚労省内の実況見分もやらず、私の執務環境をまったく知らなかったためでした。偽造した証明書を依頼者に渡す、つまりまさに犯罪が行われたと自らが主張する現場を確かめることさえ、検察側はやっていなかったのです。ストーリーに沿った供述調書を作成し、それと同趣旨の法廷証言さえ得られればよく、客観的な事実をいかに軽視していたかが、この一事からもよく分かりました。
キムタク主演の「ヒーロー」なら、検事みずから現場に向かうのにな。
現実の検察官なんてこんなものなのでしょう。
がっかりです。
獅子風蓮