ガーシーには嫌悪感が先に立つほどだった私ですが、ガーシーのおかげで救われたという人もいたのですね。
また彼は家族思いで、母や妹には今でも慕われているようです。
ガーシーについて、好奇心がわきました。
ガーシーはどのように育ったのでしょうか。
彼なりの正義とはいったいどういうものなのでしょうか。
そこで、ガーシーの自伝的な本があるというので読んでみました。
ガーシー(東谷義和)『死なばもろとも』(幻冬舎、2022.07)
かいつまんで読んでみたいと思います。
(目次)
□序章 ジョーカー誕生
■第1章 逃亡者
□第2章 しゃべりだけで成り上がる
□第3章 芸能界への扉
□第4章 アテンダーという裏稼業
□第5章 酒と女とカネと反社
□第6章 死なばもろとも
□第7章 社会の不満が生んだ怪物
第1章 逃亡者
□ポケットの中で握り締めた110円のジャリ銭
□ギャンブル依存症がハマる「カネの底なし沼」
□やめたくてもやめられない 俺を破滅させた博打
□一晩1000万円が動く裏カジノが主戦場
□YouTuberのヒカルのギャラ
□ギャンブルで自殺した俺のオヤジ
□雪山で大酒を飲んで死ぬつもりだった
□下4ケタ「1234」
□PCR検査へ急げ
■1泊500円のゲストハウスを泊まり歩く
■日当3000円の日雇い労働で糊口をしのぐ
■暴露系 YouTuber ガーシーの誕生
1泊500円のゲストハウスを泊まり歩く
日本にいたときは「いつ警察に逮捕されるかもわからん」「誰が追いこみをかけてきて、さらわれるかもわからん」と、背筋が凍るほどの強迫観念に駆られていた。海外に出た瞬間、気分はすこしラクになった。iPhoneのSIMカードは抜いているから、 いきなり電話がかかってくる心配もあらへん。通信環境に気を遣ってさえいれば、GPSによって居場所を探知される心配もない。
けど、日本から脱出したからって、そこが安全圏とは限らん。世界中どこの国におろうが、闇社会の番人は地の果てまで追いかけてくる。そいつらが俺の居場所までたどり着けんかったとしても、海外で普通に死ぬこともありうると覚悟しとった。カネもない。住居もない。仕事もない。このまずい状態から脱却できなけりゃ自滅するだけのことや。
出国前、親戚から10万円は貸してもらえた。フライトチケット代を引いた数万円を握り締め、ちょっとずつ崩して小刻みに使いながら、まずは当座の日々を送った。星 付きのホテルなんて偉そうに泊まっとったら、1泊で3万円、4万円と消えてあっと いう間にキャッシュが底をついてまう。ゲストハウスみたいなどうしようもない木賃 宿を探して、その地域で一番安い宿に泊まった。
1泊2000~3000円どころやない。一番安かったドヤは、日本円で1泊500円や。シャワーはお湯なんて出なくて、汚れた水しか出ぇへん。トイレも個室やなくて、汚い共同トイレやった。そこにはカネがなさそうな外国人のバックパッカーしかおらず、うらぶれた感じで雰囲気も相当ヤバかった。
そこで暮らしながら、不思議なことに俺はすこしワクワクしとったんや。20代のころ、インドネシアのバリに3カ月滞在したことがある。ゴージャスなコンドミニアムになんて泊まれるわけもなく、1泊500円もしないような汚い宿を泊まり歩きながら、気ままな旅やった。
「とりあえず誰かと友だちになれば、今日は生きていけるやろ」
そう思いながら、そのへんでフラフラしている外国人に話しかけて友だちになり、メシをおごってもらったりしたもんや。
せやけど自由気ままだった若いころとは違って、俺は50歳の逃亡者や。観光客気分でレストランに出かけ、美味いモンを食べることなんてできん。近くのスーパーマーケットに出かけて、できるだけ腹持ちするコンビーフの缶詰なんかを買ってくる。それをちょっとずつ分けて食べ、なんとかその日の空腹をしのいだ。
俺があまりに貧乏やから、不憫に思ったのやろう。共同部屋にいた外国人が、自分のメシを分けてくれたこともある。人間、困ったときはお互い様や。外国人としゃべれば、英語力も上がる。人間、失うもんがなくなったらある意味強い。物事をネガティブにとらえればキリがない。どうせ俺には何にもない。カネも人も信用もすべてなくなってしもうた。無理やりにでもポジティブに考え、生きていくほかないんや。
日当3000円の日雇い労働で糊口をしのぐ
海外へ逃亡した当初は、まさか今のように YouTuberとして独り立ちできるとは思ってへんかった。海外で商売をやるにしても、初期資金はどうしたって必要や。もともとやってたアパレル業をやるにせよ、中古車販売業なり飲食業なりをやるにせよ、頭金を貯めなアカン。
いずれにせよ、何でもいいから仕事を始め日銭を稼がなどうしようもなかった。にしろ出国時に手元にあったキャッシュは、110円のジャリ銭と親戚から借りた10万円だけやったわけや。呑気に生きていたらまた一文無しに逆戻りや。
日本の建設現場で働く解体工や肉体労働者の顔を眺めてみると、親方や現場監督以外は多国籍軍や。インド人やイラン人、ベトナム人など、いろんな国籍の肉体労働者が元気に仕事をしておる。
海外も日本と同じや。ネットで調べてみると、ドバイでも日雇いの仕事なんていくらでもあった。労働ビザを取得して出国してきたわけやないから、仕事をしているのが見つかったら国外追放や。そんな法律論なんて脇に置いて、「今日すぐに働けるか。 よっしゃ。今から来い」と言ってくれる現場がそこらじゅうにあるもんや。
大食堂の厨房なんて、皿を何百枚洗っても洗っても、次から次へと食器が運びこまれてくる。立ち通しでひたすら皿を洗う仕事なんて、誰だってやりたがらへん。その仕事を俺がやればええんや。
建設現場の日雇い仕事は、すこしだけ緊張した。昔の山谷みたいに、日雇い仕事を求めるオッサンを車に乗せて、どこだかわからない現場にブオーッと連れて行かれるんや。変な車が迎えに来て、事情を抱えた各国の仲間たちと乗りこんだときには「俺、 もしかして今さらわれてねえか。このまま殺されるんちゃうか」とドキドキした。車から降ろされると、そこは肉体労働の現場やった。
日本とは物価が違うから、1日12時間働いても日本円で3000円程度しかもらえない。それでも満足やった。1日3000円あれば、500円のゲストハウスに泊まってメシが食える。とりあえず生きてはいける。
せやけど、そんなふうに真面目に仕事しながらすこしずつ借金を弁済しようにも、金額が金額や。日当3000円じゃ、毎日休まず働きまくったところで、とても借金弁済するどころやない。
体じゅう汗とホコリと垢まみれになって働きながら、この状況から脱出せなどうしようもないと思った。
暴露系 YouTuber ガーシーの誕生
日本からもってきた10万円はとうに尽きていた。 日雇い仕事も、いつまで続くかわからん。第一、俺はもう50歳や。体を使うキツイ仕事に、どこまで耐えられるかもわからへん。朝から晩まで皿を洗ってたら腰も痛いしヘトヘトや。
そんな先の見えない状況の中、人づてに暴露本の出版オファーが来た。「暴露本出したらこれくらいのオカネになりますよ。やりましょうよ」とその人は言ってくれた。
でも俺はまだタレント連中のことを友だちだと思っていたし、アテンダーとして墓場までもっていくと決めたことを世に出すのは違うと考えて断った。
そのまままったく状況が改善されず年末年始を迎えた。俺は久しぶりにタレントたちに連絡をした。そしたら返ってきたヤツが数人やった。あとはもう返ってこんかって「やっぱ俺のことはもう関わってはいけない人間だと思われてるんやな」と確信した。そう思ったときに、「もうええわ」と俺の中で何かがプツリと切れた。
俺はコイツらがさんざん困ったときに警察事であろうがヤクザ事であろうが全部間に入ってきた。たしかに俺は悪いことした。けど、助けてまでは言わんけど「大丈夫?」のひと言くらいは人として言えるやろ。
それも言う気ないねんなら「もうええわ、コイツら友だちでも何でもないわ」と思ったんや。
「俺の頭の中には、世間の人が誰も知らん芸能界の闇が詰まっとる。これをカネにしたらええやん」
異国の地で日雇いの仕事をしながら心も体も限界に近づいていた。手持ちのカネも残りわずかや。
「東谷義和のガーシーch」を初めて収録した当時、俺はバイト先の日本料理店の寮に住んでいた。モロッコ人と相部屋や。
初期の俺のチャンネルは、まるでアジトに潜伏しているような怪しい雰囲気が漂っておる。脂汗で黒い肌はテカテカに光っていた。あれは演出やない。リアリティショーどころか、逃亡者のリアリティそのものやったんや。
ここから第二の人生が始まる。手のひら返した連中を全員めくったる。
俺は YouTubeの録画ボタンを押した。そんな俺を見てモロッコ人がニヤニヤしていた。
「しーっ、お前しゃべんなよ。Don't speaking! 絶対しゃべんなよ!」
モロッコ人の同居人は、俺が日本語で何をしゃべっているのか、てんで意味がわからない。スニッカーズをかじりながら、そいつは動画を収録している俺の様子を物珍しそうに眺めていた。この動画が芸能界に爆弾を落とし、日本中を騒然とさせているとも知らずに――。
(このシリーズおわり)
【解説】
人づてに暴露本の出版オファーが来た。「暴露本出したらこれくらいのオカネになりますよ。やりましょうよ」とその人は言ってくれた。
でも俺はまだタレント連中のことを友だちだと思っていたし、アテンダーとして墓場までもっていくと決めたことを世に出すのは違うと考えて断った。
最初はそう言って、友達の秘密を暴露することを良しとしなかったガーシーですが、結局はいろいろ言い訳をしながら、カネのために、「ガーシーch」をはじめ、友人、知り合いの秘密を暴露します。
そんな動画に多くの人々が惹きつけられたのが、日本人として情けない気がします。
私は、一切見ていません。
獅子風蓮