名古屋駅の東側、名駅3丁目~那古野界隈は戦災を免れたため、木造2階~3階建の町屋や蔵造りの建物が残っていて、多くが飲食店などに改装され当時の姿をとどめています。そんな建物のひとつが、桜通のジュンク堂書店の角を北へ入り、名駅3丁目北の交差点東にある「そら豆」で、戦前の銭湯の外観(旧三越湯)を残したまま居酒屋として営業しています。
建物は昭和6年(1931)築の木造総2階建ですが、換気用の高窓の上に庇があるため軒が3重になり、ちょっと見は3階建です。外観は昔ながらの銭湯に良く見られる近代和風で、正面中央の入母屋造の立派な玄関(沓脱)と、西端に飛び出している洋風意匠の煙突の様な構造物(トイレ)が特徴的です。
昔ながらの銭湯の風情をそのまま残した外観や、銭湯特有の天井の高い広い空間は、まさに居酒屋にはうってつけ、これぞ近代建築再利用の最も幸せな形のひとつと言えるのではないでしょうか。
(なかなかの人気店なので、予約してからの来店がおすすめです。店舗情報はこちら→山海百味 そら豆)
◆そら豆(旧三越湯)/名古屋市中村区名駅3
竣工:昭和6年(1931)
設計/施工:大工棟梁 繫野新七、鳶頭 井戸田重信
構造:木造2階建、切妻造・桟瓦葺
撮影:2015/04/26
■建物北側正面
■入母屋造の堂々たる玄関~腰のタイルがモダンで良い味です
■端のトイレはモルタル塗石張り風の目地切で、頂部に紋様を巡らす洋風意匠
そら豆のある界隈には戦前築と思しき町屋が点在しており、飲み屋などに改装されている建物が目につきます。
名駅の高層ビル群から徒歩5分の所に、こんな昭和の隠れ里的風景が・・・いつまでも残ってほしいなあ~
昭和の香りのするこの建物を愛する社長が、どうしてもこの建物でお店を開きたいという熱い思いが通じて、三越湯さんを譲り受けることが出来ました。
再開発の進む名駅エリアで、この先もずっと変わらず守り続けていけたらと、思っております。
社長さんのおかげで、昭和の銭湯が幸せな余生を送ることができました。
いち近代建築ファンとして、お礼申し上げます。
古い建物にはその時代を過ごした人々の記憶が染みついています。
建て替えるのではなく、そら豆さんのように当時の姿を残したまま再活用されるのが、建物にとっては一番幸せです。
これからも末永く、たくさんの人の記憶に残るお店でいてください。