思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『優しい地獄』

2024-04-11 17:38:20 | 日記
『優しい地獄』
イリナ・グリゴレ

ルーマニア出身の作家による
日本語エッセイ。

そう、邦訳じゃないのよ!
そしてめちゃくちゃ文章が詩的でうまいのよ!!

という褒め方は、作者が望むところではないと思うけれど、
読みながら風景が見える、素敵な文章がたくさんあります。

作者は84年ルーマニア生まれ。
当時のルーマニアは第二次対戦後に社会主義国家となったものの
実情はチャウシェスク独裁政権。
幼少時の国全体や、彼女をとりまく社会環境の閉塞感は
前半の大部分を占めています。

チャウシェスク大統領は1989年に革命で失脚。
クリスマスである12月25日の、裁判からのスピード処刑の様子が
ルーマニアではテレビで何度も放映されたそうで、
このエピソードも、繰り返しエッセイに登場します。

彼女の考え方は私と違う部分が多いと思ったのだけれど、
その違いがどこから来ているのか、
すごく考えさせてくれるエッセイでもありました。

現在は津軽地方に住みながら研究と育児をされているそうで、
後半の近況を綴るエッセイも興味深かった。

遠くて近いようで、近くて遠いような、不思議な人だな、と。
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『疫病と世界史』 マクロ寄生とミクロ寄生

2024-04-10 11:09:05 | 日記
『疫病と世界史』
ウィリアム・H・マクニール 訳:佐々木昭夫

マクニールといえば『世界史』ですが、
なぜか有名なそちらではなく
『疫病と世界史』を読んでみた。

中公文庫の上下巻で読みましたが、
執筆は1974年、初版が1975年だそうです。
60年前!

なにしろ1997年に加筆された「序」では
エイズについて補足されているのです。
なんで?と思ったら、
エイズという病気が固定されたのが1981年、
『疫病と世界史』初版の6年後。
歴史を感じる!!

初版からの歴史は感じますが、
世界史全体を概観する分には問題なし。

ところでマクニールの文章、難しいな…。
なかなかに読みにくいんですが、
訳の問題というより、構成の問題だと思う。
頭良すぎて話が前後してます先生!という感じ。
泣きながら頑張るしかない。

この本の主張は(自信ないけど)
人類史はミクロ寄生とマクロ寄生の影響下にある
ということなんじゃないかと。
自信ないけど。

ミクロ寄生は、本のタイトルからも分かるけれど
ウィルスとか感染症とかですね。
対してマクロ寄生は、政治・社会的な収奪や、
国家が個人に依存する(税とか)というもの。
要するに「戦争と略奪」による人的被害だな。

都市の人口減はミクロ寄生(感染症)が多いし、
田舎の人口減(時には無人になる)はマクロ寄生が多い。

ひとつのキーになるのが、
1279年から1356年に栄えたモンゴル帝国。
13世紀、モンゴル軍の西方侵略と共にペストが流行する。
14世紀はアジアからシルクロード経由でクリミア・ヨーロッパに
至ったのでは。とか。
民族や歴史の動き(マクロ)と共に、疫病(ミクロ)も動いている。

感染症の種類や感受性(ウィルスへの耐性の低さ)は
人口密度で異なるという話もおもしろい。
都市部の貧民街などで生まれ育った(生き残った)人間の方が
田舎ですくすく育った人間よりも抗体を多く持っているとも考えられる。

で、どうなるかと言いますと。
19世紀フランス陸軍では
スラム育ちで栄養失調気味な若者よりも、
田舎育ちで身体頑健健康そのものの農夫の方が
感染症で死亡する率が爆高だったそうです。
(生活密度高い場所といえば学校と兵営である)
ななななるほど〜。

って感じでマクロ&ミクロ寄生の知識と、
世界史の概論&ディテールが論じられていて
読み込むと結構楽しいのです。

「先生、これ、何の話でしたっけ?」
となって数ページ戻ることも多いけど…。

以下、雑学メモ

◇腸チフスのメアリー
雑学系の本によく出てくるな、この人

◇大航海時代の三大感染症
1450年〜1550年
・梅毒:シャルル8世がナポリ遠征後に傭兵現地解散!でバラ撒いて帰る
・発疹チフス
・イギリス発汗熱:1485年に突然現れ1551年に突然消える

◇新世界(アメリカ)の疫病被害の大きさ
スペイン人がインディオに一方的に疫病を伝染させたという構図。
旧世界(ユーラシア・アフリカ)の生態的複雑さの差であろう、と。
14世紀までにあちこちと交流して疫病&抗体を育てまくった旧世界と、
独立した存在(温室育ち)だったインディオでは
未知のウィルスへの耐性に大きな差があったようです。

◇南アメリカ・カヤポ族の滅亡
記録に残っている感染症被害の事例。
1903年、6000人〜8000人集落だったカヤポ族に
外部から宣教師が一人加わる。
あっという間に未知の感染症が部族を席巻。
1918年、カヤポ族は500人に。
1927年、27人。
1950年、カヤポ族の消滅が記録される。

◇フランス軍、種痘を発見するのは早いが導入は遅い
そういうとこあるよね、フランス。
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『ワセダ三畳青春記』 共感しないけど共感しちゃう3畳エッセイ!

2024-04-05 17:23:50 | 日記
『ワセダ三畳青春記』
高野秀行

毎度おなじみ辺境探検家・高野さんの
若かりし時代を描いたエッセイ。

早稲田大学探検部所属時代から11年間(!)住んだ
野々村荘の思い出です。
家賃12000円の三畳間(後半は4畳半に出世)の密度高い日々。
昭和かよ!
と思ったら意外と平成だった。
それどころか自分の学生時代と近くてびっくりしました。
他人事じゃねえ!!
(私は5畳半あったけどね!)

探検部の溜まり場になって、先輩を見送り、後輩と仲良くなり、
ついでに大家のおばあちゃんや先住民との人間関係もあり、、、
という下宿の日々から一転。
後半、野々村荘に沈殿しすぎてやばくなる流れがすごい。
本当にストーリーテラーだなあ〜。

恋人と一緒にいる時間と、
野々村荘でひとり自由に暮らす時間を天秤にかけた末、
マザコンならぬ野々村コンプレックスに依存してるかも、と。
共感しないけど共感できる!という不思議な感情が味わえます笑。

オードリーファンのむつみ荘巡礼ではないが、
今度早稲田に行ったら野々村荘を探したいと思います。
ついでに早稲弁(唐揚げの量がやばい弁当)を食べたい。
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『トータル・リコール』 ディック、ただの天才かよ、の短編集

2024-04-01 19:08:46 | 日記
『トータル・リコール』

フィリップ・K・ディック
大森望 浅倉久志 深町眞理子

ハリウッド映画で有名なヤツ(観てない)の
原作SF。
よし、読んでおこう!
というヤツです。

とにかく有名映画の原作として有名すぎる
「トータル・リコール」と「マイノリティ・リポート」。
加えてサスペンス系SFの短編を大森望がセレクトした
「ディック短編傑作選」です。

どれもこれも、近未来SFの設定が秀逸な上に
人間心理が深い…。
ディックすごいな…。

収録作は以下10編

「トータル・リコール」
あんなに有名な映画の原作、こんなに短いの?!とびっくり。

「出口はどこかへの入口」
AIのくじ引きに当たった営業マンの話。
50年代に書かれたロボの接客、令和みがある〜。

「地球防衛軍」
人類は地下に逼塞しながら、米ソ核戦争をロボットが地上で
代理戦争している世界。
設定が怖いんですけど、ラストは良い。

「訪問者」
こちらも放射能に汚染された未来の話。
進化していないオリジナル状態の人間はレアキャラだけど
最弱でもある。アンビバレント。

「世界をわが手に」
箱庭的な感じで、ガラス玉の中に宇宙をつくる。
ラストは皮肉が効いてますね。

「ミスター・スペースシップ」
宇宙船の管理システムに、人の脳みそ使おうぜ!
というどうかしてるぜ系な設定なのに、
なんというか、「ありそう…」と思える。怖い。

「非(ナル)O」
超人類。意外と弱い。

「フード・メーカー」
フードは「頭環」。テレパスを防ぐらしい。
食べ物をつくる人ではない。

「吊されたよそ者」
タイトル通り、よそ者が吊るされてる〜。
『寄生獣』を彷彿とさせる。

「マイノリティ・リポート」
あんなに有名な映画の原作、こんなに短いの?!
と、再びびっくり。
ディック、天才かよ。天才だね。
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