緩和ケアで行こう

へなちょこ緩和ケアナース?!のネガティブ傾向な日記です。

かあちゃんと物語を作る

2009-11-21 14:02:01 | 患者さん

 中原さん(仮称)は、今、痛みと闘っています。
 自宅で過ごされている時には、人格が変わるほどの痛みに悩まされていましたが、入院して痛みは落ち着きました。
 そして、また、痛みが中原さんを襲い、その都度、鎮痛剤を調節して、何とか乗り越えてきました。

 今日は、中原さんとその中原さんの奥様のお話。

 私は、奥様を「中原かあちゃん」と呼ばせていただいています☆

 
 中原さんは、もと任侠の世界でいらっしゃった方。ケアの合間に、それはそれはたくさんのお話をさせていただきました。
 その中で、ふと、中原さんが私におっしゃったこと。
 
 「うちのかあちゃんと付き合ってみたら?面白いで。」

 付き合うとは、患者さんのご家族と看護師という関係の枠を取っ払って、お話してみたら?と中原さんがおっしゃっているのだと、私は理解しました。

 おそらく、中原さんのケアをさせていただくってことは、ご家族のケアをさせていただくことももれなくついてくるってことで…。
 中原かあちゃんと「仲良し?」になるのは時間の問題だろうなぁ、とも思っておりました。


 中原さんからは、中原かあちゃんのお話もたくさん聴いてました。それは、かあちゃんがどんな人かという説明だけじゃなくて、中原さんがかあちゃんのことを、ご家族のことをどれだけ大切にしているか、という中原さんのお気持ちも込められていました。

 中原さん曰く、かあちゃんは、怒ったら自分より手が早い…(=殴るってことね)って。
 耳にした時には、「ひょえーーーーっ」と思いましたが、それは昔、昔のお話。
 
 

 中原かあちゃんとは、中原さんのケアのこと、ご家族の問題のことなどなど、たくさんお話をしてきました。

 看護師がご家族からケアを目的としてお話をするって、どんな場面を想像されるでしょうか。
 面談室ってな場所で、真剣に…?
 いえいえ、最近のスタイルは、デイルームで「茶をしばきながら」。

 中原かあちゃんはコーヒーが好きなので、私がコーヒーを入れて。私は仕事でばたばたして喉が渇いているので、冷たいお茶を入れて。
 あ、私、さぼっているわけじゃないんですよ。きちんとケアをしてます。
 あ、でも、お茶をぐびっと飲ませていただいています。ぷは。

 ケアのことで真剣な話をするのが目的ですが、いつも、その切り口からお話しするわけじゃありません。
 中原かあちゃんの「興味のある」お話を聴いてからってこともあります。その時間に30分以上も費やすこともあって…。
 楽しいんだけど、業務のことを考えると、「んあーーーーっ」なんです。
 いやいや、これも必要な時間。大切な時間。


 おかげさんで、中原かあちゃんとは自分で言うのもなんですが、いいやりとりをさせていただていると思います。
 中原かあちゃんは、ご自分の畑で野菜も作りますし、手料理の達人です。
 んで、「ぽんさん、漬物もってきたで。帰って食べや。」「玉ねぎ、持ってきたで。みんな、うちの作る玉ねぎは甘い、ってゆうてくれるんよ。」

 私は、ありがたーく頂戴しています。もらった玉ねぎで玉ねぎ料理を作って、お返ししてっと(手料理の達人に料理で返そうとは、えらい度胸さねー。)。


 勿論、当院では、患者さんからのお礼というのはお断りしています。
 でも、こういうのは、病院が禁止している「お礼」とはまた違うと思っています。
 お互いの、気持ちのやり取りだと思っています。


 閑話休題。


 中原さんは、病気のために、さまざまなものを失いつつも、日々、自分なりに目標をもって、必死に、生きていらっしゃいます。
 必死に生きているときもありますが、日々の流れにのって穏やかに過ごされているときもあります。

 中原かあちゃんと私のやり取りを、中原さんは目を細めて見守ってくれています。看護師は、患者さんが苦しい時だけにそばにいる存在ではありません。ここぞという時には、本領を発揮しないといけません。
 けれど、患者さんが穏やかに過ごされているときにだって、患者さんを含め、ご家族とのやり取りを重ねていくことが、本当のケアだと思います。

 

 柳田邦男氏は、講演でおっしゃっていました。
 
 「死を受け容れるには、物語を作って脈絡のあるものにするしかない。」

 
 この言葉を耳にする以前から、私と中原かあちゃんのやりとりは始まっていたのですが、この言葉を耳にして、「ああ、そうなのか」と思いました。


 私、中原かあちゃんと物語を作ってる、と。
 勿論、患者さんともね。


 残念ながら、来るべき時はやって来ます。
 
 このやりとりの積み重ねが、少しでも患者さとご家族の安心となり、つらく思うときがやってきても、なんとか持ちこたえることができるものになってくれることを思って止みません。
 


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