もしも私がただしいのならそれこそ
あなたもまた正しいことの証しだと
いさかいのあとで
自分にもあなたにも何ひとつ望まずに
そう思ったその時の気持ちは祈りに似ていた
あなたが米をといでくれるのなら
私は皿を洗おう
そんな面白くも可笑しくもないことで
一日が暮れてゆくのだとしても
人の思いにはかかわりなくいつの世にも
男と女に未来がありその未来から
私たちもまた生まれてきたのだ
もったいないことだと思わないか
花の木の影が地面に落ちて
子等は犬を追って林を駆けている
いさかいにもむつみあいにもある深い闇を
手さぐりで進むほかないのだが私の手は
いつもあなたの柔らかい下腹に触れていて
世界はそこからおぼろげに形を成してゆく
谷川俊太郎作詩