in a schale

シャーレにとじ込めたありふれた日常。

10/18 DIR EN GREY at 新木場STUDIO COAST

2008-10-19 18:17:37 | ライブレポート
“完全に潰してこい。意味わかるよな?完全に潰してこい!!”
ラスト1曲となったアンコール。頭を指差し、京がオーディエンスを煽る。


9/10のSHIBUYA-AXよりスタートした<TOUR08 THE ROSE TRIMS AGAIN>が全国を回り、再び東京へと帰って来た。

すっかり日が落ちるのも早くなり肌寒い季節になった今日この頃だが、会場である新木場STUDIO COAST前には、半袖のTシャツ姿で開場を今か今かと待ち侘びる人々で溢れていた。

もちろん中に入れば超満員。早くも会場は熱気と興奮に包まれていく。それに加え、私たちオーディエンスの頭上スレスレをクレーンカメラが通り過ぎていくものだから、今日のライブへの期待はさらに高まるばかりだ。確認できたクレーンは上手と下手にそれぞれ一台ずつとShinyaのドラムを捉えるものが一台。ライブ中もメンバーやオーディエンスを終始近い位置で撮り続けていたため、かなり迫力のある映像が記録されたのではないだろうか。


さて、緊張感漂うSEが流れ(「SA BIR」の原曲だと思われる)、メンバーが一人、また一人と姿を現す。SEが途切れ一瞬の静寂、そして「OBSCURE」の同期と共に再度歓声が上がり、追い打ちをかけるように京の低く深いシャウトが轟く。初っ端から会場は一つの生き物のように蠢きながらステージへと押し寄せる。続いて、リフを刻むギター陣にスポットライトが当たり「GRIEF」へ。既にぐちゃぐちゃなフロアは、火に油を注いだようにさらに勢いを増していく。
“俺はここにいる!”
感情のままに叫ぶ京に共鳴するかのように拳が上がり、そのテンションを維持したまま「AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS」へとなだれ込む。開始からわずか3曲だというのにこの激しさ。いつでも全力でぶつかっていく彼らの精神が形となって表れているようにも見える。

中盤に披露された『UROBOROS』からの一曲である「蜷局」は、シンプルな構成ながら雰囲気のある空間を創り出した。異国の神に祈りを捧げるような壮厳さも併せ持ち、それを黄金色の照明が美しく彩っていく。
「艶かしき安息、躊躇いに微笑み」でも教会の中にいるのかと錯覚するようなステンドグラスの映像がバックドロップに投影され、曲のイメージをじわじわと広げていく。曲後半にフェード・アウトするように照明が落とされる瞬間があるのだが、暗闇の中で星だけが輝きを放っている、そんな光景が浮かんだ。

しかし、その余韻に浸っていられるのもつかの間、いきなり恐怖のピアノが鳴り響く。そう、「AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS-UNPLUGGED-」だ。“叫び”よりも痛く深い声で感情を吐き出す京。それは「CONCEIVED SORROW」でも表れ、ラストのサビはシャウト混じりに歌い、演奏後のアカペラではマイクを通さず生の声を張り上げた。今の彼らの“核”はここにあるのではないか、そんなことをふと思わせる一場面であった。

「DOZING GREEN」~「audience KILLER LOOP」はディレイのかかった京の声で繋がれた。今までのようにただ単に声を伸ばすのではなく、言葉を発し、よりリアルに伝えてくる。

そして、「LIE BURIED WITH A VENGENCE」「THE DEEPER VILENESS」で再び加速度を高め、
“お前らの声を聞かせてくれ!”
との煽りに力の限りオーディエンスが応えた「CLEVER SLEAZOID」を挟み、本編は「REPETITION OF HATRED」で幕を下ろした。



EN.1ではアコースティックアレンジが施された「undecided」からスタート。若干ギターが堅い音のように感じたが、雰囲気は崩れることなく聴く者を引き込んでいく。
“ただ…ここにいたい。ただ…感じていたい。ただ…君の傍で…。深く…冷たい…凍てついた感情に…殺されたんだ…”
途切れ途切れに京が囁き、「悲劇は目蓋を下ろした優しき鬱」へと繋がっていく流れは素晴らしく、誰もがステージに目が釘付けとなってしまう。そして「GLASS SKIN」が意外にもこの位置に。まるで長い長い映画を観ていたような感覚に陥る、感動的な締め括りとなった。


鳴り止まないアンコールの声が響きEN.2へ。「凱歌、沈黙が眠る頃」では、ギターを縦に構え、タッピング奏法をキメるDieの男前度もさることながら、他のメンバーもこれでもかと暴れ狂う。
“まだイケるよな!”
「THE IIID EMPIRE」ではオーディエンスが一斉にジャンプし会場を揺らす。そして冒頭に書いた「羅刹国」へと繋がっていくのである。
“東京!そんなモンちゃうやろ!?おい後ろ!聞こえてるか!後ろー!後ろー!後ろーー!男!男ー!男ー!男ーー!おいくそったれ女!女!女ー!完全に潰してこい。意味わかるよな?完全に潰してこい!ラスト。ラスト!ラスト!ラストー!ラストー!ラストーーーー!!!”
メーターは振り切られ、まさに地獄絵図と化した会場はある意味で壮観。薫とDieは重なり合ってギターを掻き鳴らし、共にヘドバンをキメ、笑顔を見せる。Toshiyaの重低音が唸りを上げ、Shinyaが全身でドラムを叩き付ける。

鳴り止まない歓声。京が左胸を叩き、両手を広げて全身で受け止める。ピックやペットボトル、ドラムヘッドを投げ、清々しい顔で去って行くメンバー。こうして長いツアーは最高の余韻を残して幕を閉じるのであった。

…かと思いきや、会場は再び暗転し、暗闇に包まれる。
“え?何??”
どよめく会場に流れ出したのは『UROBOROS』に収録されているであろう一曲。ピアノベースのミドル・ナンバーで、辛い恋愛を歌っているように聴こえる歌詩が印象的な楽曲であった。

本来この日は『UROBOROS』の<LISTENING SESSION>として行われるはずだった。きっと彼らは、少しでもいいからいち早くファンに聴かせたいと、この約束を果たしたのだろう。予想だにしないサプライズで『UROBOROS』のカケラを手にした私たちは、誰もいなくなったステージへいつまでも拍手を贈るのであった。