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[映画] リンカーン アメリカの国生み神話 良かった ★★★★★

2013-04-20 11:10:41 | 映画

この映画はアメリカ合衆国の国生み神話です!

 最初にネタバレ超意外なことにゲティスバーグの演説は出て来ません。アメリカ人や我々聴衆にとってあまりにも知られすぎているからでしょうか?代わりに詳細に描かれるのは、私人リンカーンの日常と大統領リンカーンの日常ですそして大統領の日常として克明に描かれるのは議会工作と、政治的駆け引きそして強力なリーダーシップです。

 この映画を見て改めて思うのは、アメリカという国は我々の国日本と成り立ちが違うということなのです。日本を始めとした殆どの国は、まず昔から人がいて、いつの間にかに村がができ、国ができてきたわけです。住民にとって自分がなぜその集団に属するかということは自明すぎて考えたこともありません、我々日本人が普段自分が日本人であることを意識しない空気のような存在で感じていることの理由もそこにあるわけです。その集団に近代国家の概念が明治維新とともにやってきたわけです。つまり自然発生集団に国が後からやってきたわけですね。

 それに対してアメリカ合衆国は(便宜上ネイティブアメリカの方たちは除きますが)その大多数が移民や奴隷として連れて来られた人たちから構成されています。彼らの紐帯となるもの。つまり絆はなんでしょう?平たく言えば制度や法律ですアメリカという新天地の枠組みに憧れてやってきた人たち、不本意ながら奴隷として連れて来られた人々。そんな思いも出身国も立場もバラバラな人達がイギリスから課せられた不当な税金が理由とはいえ、独立戦争という苦難の末勝ち取った国がアメリカ合衆国なのです。そして誕生した新生アメリカ国民を繋ぎ止める事ができたのは、民主主義という理念であり法律だったわけです。つまりここでは国という制度そのものが最初に存在しそれによってアメリカという集団ができたといえるのです。

 こう思って映画全体を俯瞰してみると憲法13条の修正で丁々発止の鍔迫り合いが急に意味を帯びてくるのではないでしょうか?タダの下らん政争描写ではないのです。だからこそ奴隷として連れて来られた人々を国家のメンバーとするかどうかは、これもう大問題なわけなんです。誕生して間もないアメリカ合衆国が世界最初の民主主義国として進む方向を模索した時奴隷制度という避けては通れない問題に直面し、苦しみながらそれを乗り越えたお話、それが本作品なのです。アメリカの国民にとってはだからこそ国生み神話になるのです。ここで舵取りを間違えていたら今のアメリカはなかったし、ひょっとして分裂したままだったかもしれないわけなんです。アメリカ人が選ぶ大統領ベスト3に常にリンカーンが入るのはこういうことなんですよね。うーんてことはリンカーンはアメリカのヤマトタケルか?? (⌒▽⌒)アハハ!

 また現在と違い、アメリカの大統領に実に気軽に会えた当時の状況やシークレットサービスなんぞ無い開けっぴろげな感じも上手く表現されてました。護衛官らしき人は見当たらなかったね。

 ところで実はリンカーンは坂本龍馬や西郷隆盛と同時代の人なんです。幕末アメリカの黒船によって開国させられた日本なのですが、ぱったりその後アメリカの影が見当たらなくなってしまうのは、あの後アメリカは南北戦争で日本や捕鯨どころの騒ぎじゃなくなってしまうからなんですよ。そうそう名前は忘れましたがリンカーンに会った日本人も居るんですよ。

 司馬遼太郎さんの坂本竜馬には、竜馬が「日本の将軍が飯炊きの下女の給金を心配したことがあるか?アメリカの大統領はいつも下女や職人の給金を心配しちょる。この一事を持ってしても幕府を倒す理由とするに事足りる!」という言葉(まあうろ覚えなので細部は違うと思うのですが)を言わせていますが、まさしくそんなシーンも出てきますよね。

 方やたった数100メートル先の江戸城に登城するために200名近い行列を組まないと行けない形式主義の幕末日本(例えば井伊直弼がそうでした) 

 単身で軽々と民衆に接し意見を聞く大統領リンカーン。幕末の志士坂本龍馬や西郷隆盛が驚嘆し新しい国の道標とした衝撃はこんなことからも分かるのです。

 翻ってアメリカ国民にしてみれば、世界最初の民主主義国としての矜持、と実験国として失敗できない綱渡りも再確認できる構成になっているわけですよね。というか今気が付きましたが、現代アメリカ合衆国に暮らす人々にとってもこの映画は自分たちが合衆国市民であるということを再確認させる紐帯となっているんですな。うーんオスカー狙いのド直球だなスピルバーグ!

 ただやはりアメリカは国自体がでかいということも有り、電信や鉄道などの最先端技術を惜しげもなく投入していたことなど、国家の方向性は今と同じなんだよなあと。しかし南北戦争は実は奴隷解放だけでなく 北 保護貿易主義VS自由貿易主義 南 の対立でもあったのですが、まあそれはまた別の話。

 とにかく 秀逸な台詞も多く 鑑賞中何回も拍手してしまいました

 1つだけネタバレですが 強固に奴隷解放に反対する民主党議員に対して(リンカーンは共和党)

リンカーン 「この法案は あなたを奴隷制度から解放するのです」 というセリフにはしびれました

良い映画でした 激賞 おすすめ度 ★★★★★

 

 

 

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