京都府と大阪府の境に位置するサントリー山崎蒸溜所は天王山の麓に建ち、近くでは桂川、宇治川、木津川の三つの川が合流する。日本初のウイスキーづくりを目指した鳥井信治郎(1879~1962年)が山崎を選んだのは、この地形が影響する気候と良質な地下水だった。
水温が異なる三川が合流することで霧が発生し、熟成がゆっくりと進む湿潤な環境が生まれる。使用する地下水は、名水百選に認定された水無瀬神宮(島本町)の「離宮の水」と同じ水源で、まろやかな水質は日本人に合うウイスキーづくりに適している。
蒸溜所では魅力をもっと知ってもらおうと、工場見学を催している。銅製の蒸留釜「ポットスチル」や原酒が詰まった樽が並ぶ貯蔵庫などを見て回り、製造工程を学べる。見学後の試飲では、ハイボールなどを味わえる。
近年のウイスキーブームやドラマ人気を背景に、2014年は山崎蒸溜所に前年を4千人上回る12万7千人が訪問した。海外からの見学客も増加している。昨 年12月上旬にフランスから来たカップルは「フランスではストレートで飲むことが多いが、ソーダで割るとソフトな口当たりになって飲みやすい」と満足そう だった。
ウイスキーの売り上げは伸びており、総市場では14年が前年比105%と増加した。サントリーホールディングスによると、ウイスキー「山崎」は同110%で、本格志向の愛好者も増えつつあり、ブームはまだまだ続きそうだ。
■天使の分け前
静寂に包まれた薄暗い貯蔵庫には、長い時間をかけて熟成を続けている原酒が入った大量の樽が積まれている。ウイスキーが醸し出す味わいや香りは、この工程で育まれる。
原酒は熟成していくうちに、水分とアルコール分が蒸発して少しずつ失われていく。年間2~3%が減るという。
なくなった分は「天使の分け前」と呼ばれている。おいしいウイスキーをつくるために天使が手伝ってくれているから、という考えらしい。
工程の途中までは、ビールや焼酎とさほど変わらない。その後の熟成の長さで、酒としての個性は大きく違ってくる。味を深め、琥珀(こはく)に色づくその変化は人の力を超えているようで、天使のおかげだと思えるのは分かる気がする。
長いもので数十年を要するウイスキーづくり。経てきた時間に思いをはせながら、楽しむのもいいかもしれない。
【 2015年01月04日 11時49分 】