年賀の五十首歌を書いて、「秘すれば花」「まことの花」は、直面(ひためん)の下にあると思いましたです。直面(ひためん)を取り除くことはできませんから、それはおのずと、「秘すれば花」でありましょう。
皆様、明けましておめでとうございます。
元日の夜から、予定もなくてできてしまった五十首歌をアップします。
歳末のある晩、小紋さんの一周忌を祈りました。
これといったお題もなくて、先人の作品に触発されながら、できてしまったので、戸惑っております。
「月鞠」次号、20号に、掲載するのかなぁ。
自分でも、どうするかわかりません。
その折には、またもっと新しいことをしたくなっている気もしますが、
幸先のよいことは確かです。
本年もよろしくお願いいたします。
辰巳泰子拝
……………………
蹴速と辰砂
歳晩の八卦に虫を見ておりぬ肉の脂に湧くという虫を
いつかの蹴速かくのごときかうつつの辻をあらざる世へと統べかえてゆく
胸軋むまでの厭離は何ならん栞をはさむそこの件(くだり)に
元日のコンビニエンスストアさえ無明の包む夜とやなりぬる
明かり無きことをいうひと闇濃きを呟くもひと 立体交差
花衣やがて桔梗の枯れごろも巧まずあればなお清らなり
年の瀬を流され雛の彼(か)はたれか いまだし遠き潮(うしお)をおもう
はるかなる恋を告げたくなる夜更け 直面(ひためん)をすら割らねばならぬ
放念という一語の果てに溜まりゆくかなしみの脂(あぶら)虹のごとしも
勇者オリオン違うことなく昇り来よ我は流離のまなこを持てり
若き日のあなたにいつか遭うようで星を迎えにゆく冬大路
まなうらの若かりしひと眩しくて過ちたれば神話のごとし
相応の仕打ちのあれど憎めざり なお歳月の奥へしまいぬ
直面(ひためん)の下なるおもて 打ち割ればどの色としもなくてゆうぐれ
寂しいと感じるようになるまでを寄せ鍋にいたような心地す
くさなぎの剣の行方ひもとけばいまだし光うせぬ夕暮れ
男なぎ女なぎのみずをたたえて湖(うみ)はあり眼つむればはるか二月(にんがつ)のうみ
厭離穢土やもめが木戸のうちらにはコーヒー立ててけむりぐさ喫う
憂きことの一つ一つは薄荷飴 舌で濡らしてゆくオブラート
わたくしに剣無きことかなしめり老いてぞ受けん下の世話など
常温にもどす玉子の羊膜のみずからの殻に破れぬ勁さ
まんまるのお月さんには皺のある 恋がいのちの娘を持たず
花の無き植木鉢にはひと膚に温めてから遣る冬の水
あなたには見せぬこころのうちばかりみずみずしくて梛の葉群よ
なんとなく梅雨(ばいう)の頃でありしかな詳(つば)らかでなきは一まとめにす
電源入れて死者とつながる心地せり 朝な朝なの黒き飲み物
危うげな持ち物ならん年月(としつき)のフラッシュ・バック数珠なりにして
関東は冬晴れにして乾きたりおどけて被る麦わら帽子
底板のそうも厚くはあらぬ日々たぷんと傾(かし)ぐほほえみたれば
雪中行軍のひとくさり説かれなお悩み観世音は笑むけだし横顔
柿の木に柿の想いの成るごとし みずから重くなりゆくものか
一夜さを風のすさびに遭いぬれば山茶花は届くちぎれながらに
鼻緒切れ塩ビニ加工の草履にはさすらい来たる花の幾片(いくひら)
坂道を凪のわたらい息つけばここ架けわたす橋などなくて
首都高の上なる空のあかるさと下なる暗みよりひとの来る
野分ハギビス 硫化硫黄の水底と亀の甲羅を返してぞ過ぐ
東京は水道の街 夕されば空に辰砂の撒かれておりぬ
厭離穢土さよならルシアンルーレット うそぶきて婆沙羅 いつかの少年
三陰交冷えしるくして病み臥せばむやみに欲しくなるものの綺羅
新古今夏歌の巻 液晶に血を吐くごとき正月二日
暴力と嗜虐に触れでそのひとを語れば花のごと弱げなり
愛よりも恨みまされり新世紀 水銀計いまだ二十年
芯からにくき男のおらぬ恋の部は蕩けた時計のなかにいるよう
憂きことは寡婦(やもめ)暮らしの隙に入る野蛮を懲らすちから無きこと
眠る児はいつしらに大き樹となりぬちから無くておんなの育てし樹
憂きことの根方辿ればことごとく私にちから無きことに至る
直面(ひためん)の下なるおもて いつかは独り そのおもて提げこの世罷らん
くさなぎの剣の無くて火を点す 生きとし生きてあぶらが匂う
私の育てたる樹は一本木 誰にか似るということもなく
母亡くて無明にさがす一灯し 虫を焼ききる母でありしが
元日の夜から、予定もなくてできてしまった五十首歌をアップします。
歳末のある晩、小紋さんの一周忌を祈りました。
これといったお題もなくて、先人の作品に触発されながら、できてしまったので、戸惑っております。
「月鞠」次号、20号に、掲載するのかなぁ。
自分でも、どうするかわかりません。
その折には、またもっと新しいことをしたくなっている気もしますが、
幸先のよいことは確かです。
本年もよろしくお願いいたします。
辰巳泰子拝
……………………
蹴速と辰砂
歳晩の八卦に虫を見ておりぬ肉の脂に湧くという虫を
いつかの蹴速かくのごときかうつつの辻をあらざる世へと統べかえてゆく
胸軋むまでの厭離は何ならん栞をはさむそこの件(くだり)に
元日のコンビニエンスストアさえ無明の包む夜とやなりぬる
明かり無きことをいうひと闇濃きを呟くもひと 立体交差
花衣やがて桔梗の枯れごろも巧まずあればなお清らなり
年の瀬を流され雛の彼(か)はたれか いまだし遠き潮(うしお)をおもう
はるかなる恋を告げたくなる夜更け 直面(ひためん)をすら割らねばならぬ
放念という一語の果てに溜まりゆくかなしみの脂(あぶら)虹のごとしも
勇者オリオン違うことなく昇り来よ我は流離のまなこを持てり
若き日のあなたにいつか遭うようで星を迎えにゆく冬大路
まなうらの若かりしひと眩しくて過ちたれば神話のごとし
相応の仕打ちのあれど憎めざり なお歳月の奥へしまいぬ
直面(ひためん)の下なるおもて 打ち割ればどの色としもなくてゆうぐれ
寂しいと感じるようになるまでを寄せ鍋にいたような心地す
くさなぎの剣の行方ひもとけばいまだし光うせぬ夕暮れ
男なぎ女なぎのみずをたたえて湖(うみ)はあり眼つむればはるか二月(にんがつ)のうみ
厭離穢土やもめが木戸のうちらにはコーヒー立ててけむりぐさ喫う
憂きことの一つ一つは薄荷飴 舌で濡らしてゆくオブラート
わたくしに剣無きことかなしめり老いてぞ受けん下の世話など
常温にもどす玉子の羊膜のみずからの殻に破れぬ勁さ
まんまるのお月さんには皺のある 恋がいのちの娘を持たず
花の無き植木鉢にはひと膚に温めてから遣る冬の水
あなたには見せぬこころのうちばかりみずみずしくて梛の葉群よ
なんとなく梅雨(ばいう)の頃でありしかな詳(つば)らかでなきは一まとめにす
電源入れて死者とつながる心地せり 朝な朝なの黒き飲み物
危うげな持ち物ならん年月(としつき)のフラッシュ・バック数珠なりにして
関東は冬晴れにして乾きたりおどけて被る麦わら帽子
底板のそうも厚くはあらぬ日々たぷんと傾(かし)ぐほほえみたれば
雪中行軍のひとくさり説かれなお悩み観世音は笑むけだし横顔
柿の木に柿の想いの成るごとし みずから重くなりゆくものか
一夜さを風のすさびに遭いぬれば山茶花は届くちぎれながらに
鼻緒切れ塩ビニ加工の草履にはさすらい来たる花の幾片(いくひら)
坂道を凪のわたらい息つけばここ架けわたす橋などなくて
首都高の上なる空のあかるさと下なる暗みよりひとの来る
野分ハギビス 硫化硫黄の水底と亀の甲羅を返してぞ過ぐ
東京は水道の街 夕されば空に辰砂の撒かれておりぬ
厭離穢土さよならルシアンルーレット うそぶきて婆沙羅 いつかの少年
三陰交冷えしるくして病み臥せばむやみに欲しくなるものの綺羅
新古今夏歌の巻 液晶に血を吐くごとき正月二日
暴力と嗜虐に触れでそのひとを語れば花のごと弱げなり
愛よりも恨みまされり新世紀 水銀計いまだ二十年
芯からにくき男のおらぬ恋の部は蕩けた時計のなかにいるよう
憂きことは寡婦(やもめ)暮らしの隙に入る野蛮を懲らすちから無きこと
眠る児はいつしらに大き樹となりぬちから無くておんなの育てし樹
憂きことの根方辿ればことごとく私にちから無きことに至る
直面(ひためん)の下なるおもて いつかは独り そのおもて提げこの世罷らん
くさなぎの剣の無くて火を点す 生きとし生きてあぶらが匂う
私の育てたる樹は一本木 誰にか似るということもなく
母亡くて無明にさがす一灯し 虫を焼ききる母でありしが