十吟半歌仙 風見たかの巻
興業始末
平成二十八年四月十日十六時 起首
同日二十一時 満尾
於 三鷹「戎」
《連衆》
徳永未来……回文作家。「回文平家物語」にて第16回自費出版文化賞特別賞、NHKほか各メディアで取り上げられる。
宮田斉……歌人。大岡山歌会主幹。
和里田幸男……歌人。新暦の会。法橋ひらくらと「五線譜もしくはストライプ」創刊。
根本洋輝……ネットゲーム、アニメ、音楽が好き。酒を愛し、短歌を詠む。
吉田慎司……中津箒職人。SICF(スパイラルインデペンデントクリエイターフェスティバル)準グランプリ、日本民藝館展入選 など。
寺井龍哉……歌人。東京大学大学院生。本郷短歌会、半月歌会所属。第32回現代短歌評論賞「うたと震災と私」。
辰巳泰子……歌人。月鞠の会主宰。
岡本胃斎……「かばん」購読会員。通称・連句テロリスト。
佐藤元紀……歌人。かばんの会、月鞠の会に所属。職域では現場を離れ現在、管理職。
宗匠 辰巳泰子
執筆 岡本胃斎
亭主 佐藤元紀
発句・春 吉祥をちりばめ光る風見たか 未来
脇・春 水面にさわぐ青柳のかげ 元紀
春 たゆたひて蕊をついばむ残り鴨 泰子
雑 たたき睨んで誰が箸突く 洋輝
秋の月 やっと立ち月を見つめて真白き子 慎司
秋 たうもろこしの畑とぶとぶ 幸男
秋 どこから片づけようか鰯雲 斉
回文・恋 西から東に来たか歌垣 未来
夏の恋 少年は瞑りたるまま汗みづく 龍哉
雑 ドラえもん三十三変化さす 泰子
雑 目出帽(めだしぼう)暗くなるほどさみしくて 幸男
冬 雨降る鍋の小さき穴より 斉
冬の月 跳ねたくて凍てたる月を蹴るうさぎ よみ人しらず
雑 アポロの矢尻静寂(しじま)に潔(きよ)く 慎司
雑 鞭打つやひたいそがする夜の峠 元紀
雑 われに逢ひたきひとをおもひて 龍哉
花 浮舟の流れに薫る藤と花 未来
挙句・春 鞠も地球もまはれ春嵐 胃斎
――――――興業不始末記
※一 開催前、表記を旧かなにすることで合意しました。「やっと立ち」の促音表記は、宗匠の捌きによります。「奴と立ち(やつと立ち)」と意味の区別をするため。
※二 開催前、巻き上げてからの改訂を原則しない方向でしたが、座ののち、13句、15句、17句めを興業サイドで話し合い、改訂しました。
※三 13句めの改訂について。13句めの初案は「僕跳ねず六花の月を見るうさぎ」。座中、「六花の」に疑義を呈しましたが、応じられなかったため、「跳ねたくて」と上句のみ直したものを、初心者御免ということで通しました。しかしながら、作者から、扱いについて不服の申し立てがあり、執筆からは、女性の賓客が詠むべき花の定座を奪う形となるのはいかにも悔やまれると、あらためての疑義が示されました。
※四 15句めは、初案「鞭打つや馬いそがする夜の峠」。13句めとの打越を避け、二句めを改訂。
※五 17句め花の定座は、13句めの全面改訂を経て、ここで正花をだすことになったので、「藤と花」に改訂。花といえば桜。わざわざ桜といわない。桜の花ともいわない。桜以外の植物の花は、正花ではない。半歌仙で、花の定座は、一つしかない。半歌仙に、一つしか出せない「花」は、ウェディングドレスのようなもの。
※六 上記一の但し書き、二~五の改訂をもちまして、「風見たかの巻」、興業不始末記といたします。
――――――連衆からの感想など
連歌初体験の私が「吉祥寺と三鷹」で発句とし、元紀さんが色鮮やかな 柳の風景に変えてくれた。
恋で「歌垣」を詠んだら宗匠から「暑苦しい。風通しよくして」とダメ 出し。
一句の中のバランスを考えねば。
龍哉さんが「瞑りたるまま汗みづく」と受けてくれて静かに風が通った。
斉さんの「鍋の穴」から覗く世界が新鮮。
連歌って蹴鞠だなと思っていたら、胃齋さんが「鞠も地球も」と挙句。
連歌は面白い。パタパタとパノラマがこまおくりされる。
(徳永未来)
初体験なりの感想を述べさせて戴くと、みんなで駅伝をやっている様な感覚でした。
季節や位置、地の利と不利をどう活かすか殺すか。
受ける襷をどう展開するか。
共同制作なのでリラックスは出来ますが、皆への敬意や見栄もある分、へばりたくもないし、出来るなら上手い事も言いたい。
日頃の体力やジャンプ力など、総合的に試される感覚でした。
ライブで反応が得られるのも、普段は味わえない魅力だと思います。
(吉田慎司)
心敬の「ささめごと」にある人の言葉として引かれてゐるのですが
「連歌は座になき時こそ連歌にて侍れ」
これが忘れられません。
(佐藤元紀)
序盤は一座おそるおそるだったが、「たうもろこしの畑とぶとぶ」あたりから急激に面白くなってきた。
「規則はあるけれど、逆に言えばそれ以外何でもやっていいということだから」と佐藤元紀さんが言ってくださった。
「夏の恋」の五七五を辰巳泰子さんが極彩色の夢に変換し、「雑」の七七に徳永未来さんがおもたく華を添える。
卓上の「たたき」から回る「地球」まで、三鷹の居酒屋から別乾坤が立ちあがった。
(寺井龍哉)
興業始末
平成二十八年四月十日十六時 起首
同日二十一時 満尾
於 三鷹「戎」
《連衆》
徳永未来……回文作家。「回文平家物語」にて第16回自費出版文化賞特別賞、NHKほか各メディアで取り上げられる。
宮田斉……歌人。大岡山歌会主幹。
和里田幸男……歌人。新暦の会。法橋ひらくらと「五線譜もしくはストライプ」創刊。
根本洋輝……ネットゲーム、アニメ、音楽が好き。酒を愛し、短歌を詠む。
吉田慎司……中津箒職人。SICF(スパイラルインデペンデントクリエイターフェスティバル)準グランプリ、日本民藝館展入選 など。
寺井龍哉……歌人。東京大学大学院生。本郷短歌会、半月歌会所属。第32回現代短歌評論賞「うたと震災と私」。
辰巳泰子……歌人。月鞠の会主宰。
岡本胃斎……「かばん」購読会員。通称・連句テロリスト。
佐藤元紀……歌人。かばんの会、月鞠の会に所属。職域では現場を離れ現在、管理職。
宗匠 辰巳泰子
執筆 岡本胃斎
亭主 佐藤元紀
発句・春 吉祥をちりばめ光る風見たか 未来
脇・春 水面にさわぐ青柳のかげ 元紀
春 たゆたひて蕊をついばむ残り鴨 泰子
雑 たたき睨んで誰が箸突く 洋輝
秋の月 やっと立ち月を見つめて真白き子 慎司
秋 たうもろこしの畑とぶとぶ 幸男
秋 どこから片づけようか鰯雲 斉
回文・恋 西から東に来たか歌垣 未来
夏の恋 少年は瞑りたるまま汗みづく 龍哉
雑 ドラえもん三十三変化さす 泰子
雑 目出帽(めだしぼう)暗くなるほどさみしくて 幸男
冬 雨降る鍋の小さき穴より 斉
冬の月 跳ねたくて凍てたる月を蹴るうさぎ よみ人しらず
雑 アポロの矢尻静寂(しじま)に潔(きよ)く 慎司
雑 鞭打つやひたいそがする夜の峠 元紀
雑 われに逢ひたきひとをおもひて 龍哉
花 浮舟の流れに薫る藤と花 未来
挙句・春 鞠も地球もまはれ春嵐 胃斎
――――――興業不始末記
※一 開催前、表記を旧かなにすることで合意しました。「やっと立ち」の促音表記は、宗匠の捌きによります。「奴と立ち(やつと立ち)」と意味の区別をするため。
※二 開催前、巻き上げてからの改訂を原則しない方向でしたが、座ののち、13句、15句、17句めを興業サイドで話し合い、改訂しました。
※三 13句めの改訂について。13句めの初案は「僕跳ねず六花の月を見るうさぎ」。座中、「六花の」に疑義を呈しましたが、応じられなかったため、「跳ねたくて」と上句のみ直したものを、初心者御免ということで通しました。しかしながら、作者から、扱いについて不服の申し立てがあり、執筆からは、女性の賓客が詠むべき花の定座を奪う形となるのはいかにも悔やまれると、あらためての疑義が示されました。
※四 15句めは、初案「鞭打つや馬いそがする夜の峠」。13句めとの打越を避け、二句めを改訂。
※五 17句め花の定座は、13句めの全面改訂を経て、ここで正花をだすことになったので、「藤と花」に改訂。花といえば桜。わざわざ桜といわない。桜の花ともいわない。桜以外の植物の花は、正花ではない。半歌仙で、花の定座は、一つしかない。半歌仙に、一つしか出せない「花」は、ウェディングドレスのようなもの。
※六 上記一の但し書き、二~五の改訂をもちまして、「風見たかの巻」、興業不始末記といたします。
――――――連衆からの感想など
連歌初体験の私が「吉祥寺と三鷹」で発句とし、元紀さんが色鮮やかな 柳の風景に変えてくれた。
恋で「歌垣」を詠んだら宗匠から「暑苦しい。風通しよくして」とダメ 出し。
一句の中のバランスを考えねば。
龍哉さんが「瞑りたるまま汗みづく」と受けてくれて静かに風が通った。
斉さんの「鍋の穴」から覗く世界が新鮮。
連歌って蹴鞠だなと思っていたら、胃齋さんが「鞠も地球も」と挙句。
連歌は面白い。パタパタとパノラマがこまおくりされる。
(徳永未来)
初体験なりの感想を述べさせて戴くと、みんなで駅伝をやっている様な感覚でした。
季節や位置、地の利と不利をどう活かすか殺すか。
受ける襷をどう展開するか。
共同制作なのでリラックスは出来ますが、皆への敬意や見栄もある分、へばりたくもないし、出来るなら上手い事も言いたい。
日頃の体力やジャンプ力など、総合的に試される感覚でした。
ライブで反応が得られるのも、普段は味わえない魅力だと思います。
(吉田慎司)
心敬の「ささめごと」にある人の言葉として引かれてゐるのですが
「連歌は座になき時こそ連歌にて侍れ」
これが忘れられません。
(佐藤元紀)
序盤は一座おそるおそるだったが、「たうもろこしの畑とぶとぶ」あたりから急激に面白くなってきた。
「規則はあるけれど、逆に言えばそれ以外何でもやっていいということだから」と佐藤元紀さんが言ってくださった。
「夏の恋」の五七五を辰巳泰子さんが極彩色の夢に変換し、「雑」の七七に徳永未来さんがおもたく華を添える。
卓上の「たたき」から回る「地球」まで、三鷹の居酒屋から別乾坤が立ちあがった。
(寺井龍哉)