3年振りに黒法師岳(2067m)に登った。この前は雨だったが今度は好天に恵まれた。連休とあって、戸中林道のゲート前に駐車している車は10台余り。県外ナンバーが多かった。南アルプス深南部の中ではアクセスの良い山だから、入山者は毎年増えているのだろう。ゲート前の林道下にゴミが散乱していることが、それを物語っていた。
メインルートの等高尾根、標高1500mあたりの平坦地は、10年ほど前まで丈成すスズタケが密生し、さながらササのトンネルの観を呈していたのだが、累年衰退して今ではほとんどが枯れている。スズタケの衰退は、何に原因があるのだろう?丹沢では、多年の調査によって主原因をシカの食害と特定し、対策が採られたように聞く。深南部も原因の調査と対策を急がないと、この山域を守る深いスズタケの藪が、消滅してしまうかもしれない。
前方(東方)前黒法師岳(1944m)
山頂に着いて辺りを観ると、一帯の針葉樹の立ち枯れが目立ち、以前よりかなり明るくなっているように感じた。立ち枯れは深南部の全域で進行しているとの報告もある。地球温暖化に因るものか?それとも酸性雨がもたらす被害なのだろうか?新潟から来た登山グループのひとりは、「山名から想像していた、黒木(針葉樹)の森のイメージとは随分違う」と話していた。
温暖化は自分の過去の登山記録からも明らかで、12年前の10月10日に見事な紅葉を見た地点では、今回まったく広葉樹が色づいていなかった。林道のフジアザミの花が真っ盛りであることも、紅葉が遅くなっていることと同じ要因によるものかもしれない。
山頂の西端から、バラ谷の頭(2010m)との間の鞍部(通称黒バラ平)を見下ろすと、広葉樹と針葉樹が疎らに混生するスズタケの絨毯の上を、白いゴマ粒のようなものがこちらに向かって動いている。目を凝らしてよく見ると、それはササ原の中の山道を独り歩く人の姿だった。
縦走の登山口からそのあたりまでは、大小三つのピークを越さなければならない。しかも熊の棲息域での単独行。きっと深南部の山々の自然と静寂をこよなく愛する人だろうと、親近感と敬意の念が湧いた。
谷から吹き上げる心地よい風に吹かれながら、彼の軽快な足どりを目で追っていたら、「旅人よ」(団厚作作曲・岩谷時子作詞)のフレーズとメロデイーが脳裡に流れ始めた。
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