芙蓉の花は、学童だった頃の遊びの思い出に繋がる。
通学路の途中に医院があって、道路に面してかなり大きな芙蓉の木が植えられていた。
この花には、通称チビドリという茶色の小さな蝶、セセリチョウ目のチャバネセセリをはじめとする多くの仲間が蜜を吸いに集まる。花に群がるその数は、無数と言って良いほど多かった。
通学の帰りの道すがら、この花に群れるチビドリを捕え、メヒシバという草の茎の先の一本の花穂でこの蝶の胴を縛る。メヒシバの茎を空中に高く掲げて振ると、眼のよいシオカラトンボがすぐ見つけ、チビドリに襲いかかってくる。時にはオニヤンマも来る。
トンボは獲物に集中して、草の茎もそれを持つ児童の姿も、あの大きな複眼に入らなくなるのだろう。それが面白くて、下校の帰途、この遊びに熱中した。
いつの時代に始まったのかこの遊び、相当古くまで遡れそうだ。残念なことに、この遊びはもう絶えてしまって見かけることはない。今の子供たちの電子ゲームと異質の、素朴な遊びだったが、狩猟本能を満足させる、スリルある遊びだった。
孫たちにこの遊びの楽しさを伝えたくても、餌も獲物もメヒシバも激減してしまった今日では、いかんとも再現の仕様がない。華やかな芙蓉の花も、チビドリが集わなくなっては、さぞかし寂しいことだろう。
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