道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

アカペラ礼讃

2004年12月27日 | 人文考察
年の瀬のクリスマスから大晦日にかけて、賛美歌、ゴスペル、その他でアカペラの合唱を聴く機会が急に増える。
 
アカペラ(a cappella)はイタリア語で、cappella は英語のchapelだそうだ。音楽の形式として、教会で「礼拝堂風に」 歌われる合唱音楽をアカペラと言ったらしい。今では一般的に、無伴奏でコーラスすることを「アカペラ」と言うようだ。声音だけのハーモニーがアカペラの魅力ということだろう。

西洋音楽は、メロデイー・リズム・ハーモニーの基本要素で構成されるが、このうち最も重要なのは楽曲に深みと彩りを与えるハーモニーではないだろうか。和声学という学問が確立していることをみても、伝統的西洋音楽の美しさの核心はハーモニーにあると思う。リズムが生命のジャズにあっても、和声はやはり最も重要な要素であり、精緻な不協和音の効果がジャズ独特の音楽世界を創り出した。

ところで、忌憚無く言わせて貰うなら、我々日本人(ある世代以上の)は欧米人(アフリカ系を含む)と較べて、声音でハーモナイズすることが不得手のように思う。端的に言うと、ハモることが下手ということだ。これは音感に問題があるのだろうか?

人種間で音感に差異がなく、また音感が100%天性のものでもなく、耳の訓練で向上させることができるとすれば、ハモり下手な我々は、適切な耳の訓練を受ける機会がなかったということになる。キリスト教は宗教的な感覚を音楽の和声で表現し、布教の輔けとした。教会音楽によって、幼児期から和声に熟れていることは、キリスト教国の人々の大きなアドバンテージだが、それには、もともとその宗教と音楽を結びつけた人種・民族の優れた音楽性が寄与していることは間違いないだろう。

明治以後の日本人の初等音楽教育は、メロデイーに偏り、ハーモニーというものを疎かにしてきたのではないかという疑念を私はいだいている。自分自身の小学校時代、すなわち昭和のある時期までの小学校唱歌というものは、独唱または斉唱を目的に作られ、コーラス曲にアレンジされたものはほとんど無かったか、あったとしても僅かだった。

一定の年齢以上の人は憶えているだろうが、昔の小学校の音楽授業は、ほとんどメロデイーをなぞることに終始していた。音楽の授業というと、先生のピアノに合わせてクラス全員が斉唱を繰り返し、その後ひとりづつ順番に独唱していかに譜面に忠実に唱えるかを試されるのが常だった。ハモる楽しさは、合唱部にでも入らなければ味わえない。

私は、この時代の初等音楽教育が、後の日本のカラオケブームに繋がっているのではないかと見ている。文化とまで謂われるカラオケは、基本的には専らメロデイーをトレースするだけものだ。伴奏に合わせ、いかに歌手の歌い方に忠実であるかを競うカラオケ巧者がどこにでも居たものだ。この人達の大方は、小学校唱歌によって初めて音楽に触れた世代だった。独唱か斉唱で唄うことしか習わなかった世代だ・・・

カラオケブームは、その人達の存在に負うところが大きかったのではないだろうか?ひとりが歌い、残りの人達は聴き手に回るというカラオケの場の光景は、昔の小学校の音楽授業に酷似している。あの猫も杓子もカラオケという異様な現象は、ある時代までの日本の初等音楽教育の欠陥がもたらしたものであると思う。

今、アカペラで歌うことを楽しんでいるのは、その人達の子弟の世代だ。彼らは物心つくと、先ずテレビで音楽に触れた。テレビの中では、あらゆる音楽ジャンルの曲が常に流れている。

幼児の頃から、リズムとハーモニーに耳が慣らされ、音楽を好きとか嫌いとかにかかわらず、その世代はリズム感・音感が自然に養われた人達だろう。学校での音楽授業もリズム・ハーモニー重視に変わり、初等教育段階から器楽と合唱に馴染んでいる。

アカペラは、歌う側ばかりでなく、聴く側にも勝れた音感の存在を要求する。そのような音感をもった人達の数は、旧い世代とは比較にならないほど多くなった。カラオケでも彼らは頻繁にハモる。

人がふたり以上集まり、誰かがメロデイーを口ずさんだら、自然にコーラスが成立するようなシーンを、日常当たり前に目撃する日も遠くなさそうだ。ほとんどの大学にアカペラサークルがあり、各地では市民参加の合唱団やゴスペルクワイアが増加の一途にあるのは心強い。伴奏無しで、美しいハーモニーの歌唱を歌えることができる人々の増加は、この国全体の音楽の水準を確実に高めている。

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