大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

中国の19銀行、いまだ2018年の決算発表できず: 包商銀行は公的管理に移行

2019年06月11日 | 日記

 フィナンシャルタイムズ(2019年6月5日)は、中国で多くの銀行が2018年の決算発表をいまだできておらず、その財務内容への懸念が高まっているとする記事を掲載した。

 FT紙によれば現在、19銀行が2018年決算をいまだ公表していないが、その資産合計は6470億ドル(70兆円:1ドル=110円)に達する。

 このうちのひとつ内モンゴルの包商銀行(Baoshang Bank)は2019年5月末に公的管理に移されており、他の銀行についても多くの不良債権を抱えるなどの問題があるのではないかとの懸念が高まっている。

 それをうらづけるように19銀行のひとつ錦州銀行(Jinzhou Bank)では、借り手の返済能力などについて大手会計事務所(アーンスト・アンド・ヤング)と意見が合わず、会計事務所が撤退する事態となっている。

 FT紙は、バークレーのアナリストの意見として、中国では今後、小規模の銀行やノンバンク(資金を個人でなく金融機関などに頼っている貸し出し機関)の淘汰(大銀行による吸収・合併)が進むとする見方を紹介している。


アメリカとメキシコ、不法移民抑制で合意: 関税は無期限延期

2019年06月09日 | 日記

 日本でも詳しく報道されているように、2019年6月7日(金)、アメリカとメキシコは不法移民抑制について合意し、メキシコへの関税は「無期限」で延期された。

 今回メキシコは、(1)新たに6千人からなる国境警備隊を創設し、おもに南部国境に配置する、(2)難民申請者のうち申請が通る可能性がとくに低いと思われる人を、審査の期間、メキシコに戻して待機させる制度(MPP)を拡充する、ことで合意した(注1)。

 なおアメリカが強く要求していた、(アメリカへの)難民申請者最初に入国した国(ホンジュラスとエルサルバドルの人についてはグアテマラ、グアテマラの人についてはメキシコ)で難民申請をおこなわなければならない-つまり最初に入国した国にアメリカから強制送還される-仕組みについてはメキシコの強い反対で合意に至らなかった(注2)。

 今回の騒動の発端は、アメリカにおける不法移民の急増

 この数年、アメリカで拘束される不法入国者数は年30万人から40万人の間にとどまっていたが、今年2月から拘束される人が急増。2019年度(9月が最終月)は拘束者数が100万人をこえる可能性がでてきた。

 またトランプ政権が不法入国者とならんで問題にしているのが難民申請者

 米国務省(外務省)によれば現在、アメリカでは約80万人の難民申請者の審査がおこなわれているが、申請者が多いため審査には数年がかかっている。

 アメリカでは、申請者が未成年をともなう家族の場合などは審査期間中アメリカ国内に滞在することが許可されてきたが、国土安全保障省はそのまま行方不明となるケースが少なくないとしている(注3)。

 ちなみに2019年度は難民申請者のうち28万人の審査が終了し、そのうち3万人程度が申請を認められる見込みとされている(申請9人に1人程度の認定)。参考までに日本の状況をのべると、2018年の難民申請者数は10,493人。在留を認められたのは82人となっている(申請の1%未満)。

 今回、ひとまず関税は回避された。

 しかし、今回の合意では90日以内に追加対策について合意するとされている。

 このため、今後90日間にアメリカへの不法入国者が顕著に減少しなかった場合は、追加対策をめぐってアメリカとメキシコの対立がふたたび激化する可能性も残されている。

 しばらくアメリカとメキシコの関係に注意していきたい。

注1:アメリカとメキシコは2018年12月、難民申請者のうち申請が通る可能性がとくに低いと思われる人を、審査の期間、メキシコに戻して待機させる制度(MPP)について合意した。しかしメキシコ政府は受け入れに制限をかけており、制度開始から6か月間の受け入れは約8,500人にとどまっている

 なお、アメリカではMPPが国内法および国際法で難民に認められた権利を侵害しているとして、その差し止めを求める訴訟がおこされた。そして2019年4月9日、サンフランシスコの連邦地裁は、MPPを違法としてその難民申請者のメキシコへの移送中止を命じる判決を下した。しかし、2019年5月8日、第9連邦巡回控訴審(高裁)は、地裁の移送中止を取り消し、難民申請者のメキシコ移送を認める判決をくだした。最終的な判断は、連邦最高裁において下されることになる。

注2:アメリカとメキシコは、合意から45日後と90日後に不法移民抑制の実態について検証をおこない必要な追加措置を決定するとしている。このときまでに不法移民抑制が十分に進まない場合、あらためて「難民申請者は最初に入国した国で難民申請をする」仕組みが両国の大きな争点になるとみられている。

  ⇒ ウォールストリートジャーナルによれば、メキシコ政府は2019年6月14日(金)、協定締結(6/7)の45日後、不法入国者を減らせなかったとアメリカが認めた場合、「難民申請者は最初に入国した国で難民申請をする(safe third country)」仕組みを導入することをアメリカに約束していたことを明らかにした。

注3:実際は、難民申請の審査中に行方不明になる人はやや増加傾向にあるもの、けっして大きな割合ではない。UCLAロースクールのイングリッド教授らによる研究によれば、2001年から2016年にかけて拘束を解かれた難民申請者(家族)の場合、その96%が審査に出ているとされている。


アメリカの国別輸入額のトップはメキシコ: 6月10日から5%の関税適用

2019年06月05日 | 日記

 米政府はメキシコがアメリカへの不法入国者数を大きく減少させなければ、2019年6月10日(月)からメキシコからの全輸入品に5%の関税を適用する予定になっている。

 メキシコが十分な措置をとらない場合、関税は7月1日に10%に、以降1か月ごとに5%引き上げられ10月1日には25%に達する予定(背景の説明はこちら)。

 ところでこれに対し一部で、①中国との貿易紛争ほどの影響はでない、②トランプ大統領の思いつき、脅しで実際には関税を引き上げない、という見方がでているがはたして実際はどうなのであろうか?

出所:Census Bureau

 

 上はアメリカの国別輸入額(月)の推移である(サービスを除く)。

 2018年10月までは中国からの輸入がダントツに多かったが、それ以降、関税引き上げや貿易赤字を気にするアメリカへの配慮などからか中国からの輸入が急減

 2019年3月にはメキシコが中国を上回って、アメリカの輸入第一位におどりでている。

 アメリカのメキシコから輸入額は月300億ドル(3.3兆円:1ドル=110円)、年3600億ドル(40兆円)に達するもので、経済への影響が小さいとはとても言える規模ではない。

 さらに工業製品についていえば、メキシコからの輸入品には中国からの輸入品より多くのアメリカ製部品が使われているため、関税引き上げの影響は中国より大きく出る可能性も指摘されている。

 ②については、関税引き上げがツイッターでの突然の発表だったため、まるでトランプ氏が思いつきをそのままツイッターしてしまったような印象を与えた。

 しかし、ニューヨークタイムズは、実際には関税公表までホワイトハウスで数週間の議論があった末の発表であり、発表時には税関当局の実務的準備もすでに進められていたことを明らかにしている。

 もっとも、前のブログで書いたようにメキシコは実は今年2月ごろから不法移民の取り締まり強化にすでに政策転換しており、トランプ大統領の関税引き上げ発表をうけ、先週からはさらに取締りを強化している。

 また、メキシコをサプライチェーンに組み込んでいる産業界からの強い反対世界的な株安の進行などの問題も発生している。

 こうしたなか最終的にどのような判断がくだされるのかは最後の瞬間までトランプ大統領にしかわからない。

 どうなるか注目している。

 

 出所:同上


トランプ氏が、メキシコに5%関税を課した理由: 不法入国者の急増か?

2019年06月01日 | 日記

 2019年5月30日(木)、トランプ大統領は、メキシコがアメリカへの不法移民流入を止めなければ6月10日から同国からの輸入に5%の関税を発動するとツイートした。

 不法移民流入抑制ができなければ関税は1か月ごとに5%引き上げられ、10月には最高の25%まで引き上げられる予定。

 メキシコ・カナダとの貿易協定交渉は山を越えたとほとんどの人が思っていたため、このちゃぶ台がえしのニュースは世界中に大きな衝撃を与えている。

 そこで、いったいどうして今この時期にメキシコの関税引き上げなのか調べてみた。

 すると、この数か月、メキシコからアメリカへの不法入国者がこの10年なかった勢いで増加していることがわかった。

 

     出所:U.S. Customs and Border Protection

 

 上は、アメリカの南部国境地域で拘束された不法入国者の推移。

 リーマンショックの少し前から拘束された不法入国者が減少し、2011年以降は年40万人前後で安定していたことがわかる。

 アメリカ国土安全保障省は、国境警備の効率化・強化により年々、不法入国者の拘束率が上がっているとしている。

 このことを考えると、実際に不法入国した者の数(拘束されなかった人を含む)はむしろ減少していた可能性が高いと思われる。

 ところがこの数か月に大きな変化が起きていた。

   出所:同上

 

 上は月単位でみた拘束された不法入国者数である。

 直近のグラフが急に立ち上がっていることがわかる。

 拘束者数は2019年1月までは5万人前後だったのが、2月は6.7万人、3月は9.3万人、4月は9.9万人とわずか3か月で拘束者が倍増している。

 今回の関税引き上げの背景には、こうした不法移民の急増があったのではと思われる。

 ところで、どうして今年の2月から急にアメリカへの不法入国が増えたのであろうか?

 ニューヨークタイムズはこの問題について、トランプ大統領が「不法入国が減らなければメキシコとの国境を閉鎖する」との発言を繰り返したため、駆け込みで入国しようとした人が増えた可能性を指摘している。

 ちなみに、メキシコはトランプ大統領の批判とは少し違って直近数か月は不法入国者抑制にかじを切っている。

 すなわち、2018年12月にメキシコ大統領に就任したロペス・オブラドール大統領は就任当初、人道的立場からホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルなどメキシコの南に位置する国々からアメリカを目指す人々のメキシコ入国(通過)を黙認した。

 しかし、これをトランプ大統領が強く批判。また押し寄せた移民によって財政負担が大きくなった国境沿いの地方自治体から不満が噴出するようになった。

 このためロペス・オブラドール大統領は路線修正を余儀なくされ、この数か月は中米からの入国者の強制送還を増やすなど不法入国者の抑制をはかっていた

 ただし、先に述べた背景などからアメリカへの不法入国は減らず、それが今回の関税引き上げ宣言につながったと考えられる(メキシコ政府による強制送還が逆に急いでアメリカに向かう人々を増やした可能性もある)。

 この問題は、貿易問題というよりは不法移民・不法入国の問題であり、これからはじまる大統領選挙の戦略上、トランプ氏が譲歩することの難しい問題である。

 今後の推移を引き続き注意してみていきたい。

 

2019/6/2追記

 ニューヨークタイムズ(2019/6/1)によれば、2019年5月30日(木)、ホワイトハウスのマルバニー氏は「我々は国境を超える人数で判断する。そして、その人数はただちに顕著なレベルで減少を始めなければならない」と発言した。

2019/6/6追記

 2019年6月5日(水)、米税関・国境取締局(CBP)は5月に南部国境で拘束された不法入国者が132,887人になったと公表した。