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エオアベリサウルス




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エオアベリサウルスは、ジュラ紀中期(カニャドン・アスファルト層 Can˜ado´n Asfalto Formation)にアルゼンチンのパタゴニア(チューブート州)に生息した原始的なアベリサウルス類で、2012年に記載された。
 アベリサウルス類は白亜紀後期のゴンドワナ地域には多数知られているが、ローラシア地域には疑わしい断片的な化石しか知られていない。これまで、最古の確かなアベリサウルス類は、白亜紀前期の南アメリカとアフリカ由来であったが、アベリサウルス類の初期進化史についてはあまり知られていなかった。今回のエオアベリサウルスの発見により、最古のアベリサウルス類の生息年代は4000万年もさかのぼることになった。

 エオアベリサウルスの模式標本は、ほとんど完全な全身骨格であるが、頭骨の前半(吻の部分)や脊椎骨の一部は欠けている。発見されたのは、頭骨の後半部、5個の頸椎、9個の胴椎、完全な仙椎、27個の尾椎、左右の肩甲烏口骨、上腕骨、撓骨、尺骨、遠位手根骨、中手骨、指骨、完全な腰帯、左右の大腿骨、脛骨、腓骨、足根骨、中足骨、趾骨である。

 エオアベリサウルスは全長6 – 6.5 mの中型の獣脚類であるが、固有の特徴はどれも細かく難しい。方形骨の内側遠位の関節端が肥厚し、関節顆が平行に近いという(よくわからない)。中央の胴椎に、二重のV字形の板状部 lamina がある。尺骨の肘頭突起 olecranon process が大きく、尺骨の長さの30%以上を占める。恥骨孔pubic foramenが長く、長さが高さの2倍以上ある(図示されていないのでわからない)。恥骨の周囲突起 ambiens process が大きな、前側方を向いた凸型の膨らみとして発達している。

 吻部は失われているが、右の上顎骨の断片だけは見つかっていて、歯間板が癒合していることはわかるという。他のケラトサウルス類と同様に、頭骨の後半部は丈が高く、卵形の眼窩と大きな下側頭窓がある。涙骨の前眼窩窩は、拡がった層板で覆われている。後眼窩骨の頬骨突起(腹方突起)にはわずかに段がついているが、下眼窩フランジsuborbital flangeはない。頭蓋天井は特に肥厚しておらず、頭部には角などの装飾ornamentationはない。前頭骨は大部分が頭頂骨と癒合している。nuchal crestは盛り上がっているが、進化したアベリサウルス類ほどではない。
 頸椎は前後に短く、椎体の各側に2つの含気孔がある。頸椎の神経弓は含気性が発達しており、顕著なprezygoepipophyseal laminaeと大きなprespinal fossaeをもつ。頸椎の神経棘突起は、前後に短く非常に丈が低い。エピポフィシスはテーブル状で、神経棘と大体同じ高さである。
 前方の尾椎では、神経棘は高く前後に短く、横突起は強く背側方を向き、少し後方を向いている。前方の10個くらいの尾椎にはハイポスフェン – ハイパントラム関節がみられるという。
 

 系統解析の結果、エオアベリサウルスはアベリサウルス科の最も基盤的なメンバーと考えられた。これまで、最古の確かなアベリサウルス科は、南アメリカとアフリカの断片的な化石であり、それよりも古いアベリサウルス上科の記録は断片的で疑問の余地があるものであった。エオアベリサウルスの発見は、アベリサウルス科の生息年代を、4000万年以上も遡ったジュラ紀中期の初め頃まで広げるものである。このことはジュラ紀前期から中期にかけて、広義のケラトサウルス類(ケラトサウリア)が急速に多様化したことを示す。また、ケラトサウリアの主要な系統(「エラフロサウルス類」、ケラトサウルス科、ノアサウルス科、アベリサウルス科)が、この頃までにすべて出揃っていたと考えられる。

 注目されるのは、前肢の形態である。これまでアベリサウルス類の形態については、極端に短縮した前肢をもつ、白亜紀後期の特殊化した種類しか知られていなかった。エオアベリサウルスの発見によって、いままで知られていなかったアベリサウルス科の進化段階が明らかになってきた。エオアベリサウルスの前肢には、原始的な特徴と派生的な特徴のユニークな組み合わせがみられる。
 上腕骨は原始的で、短縮していない。撓骨と尺骨はやや短いが、ケラトサウルスのようなより基盤的なケラトサウルス類と比べて、それほど変わらない。ところが手(手首から先)は強く短縮していて、中手骨は短く太く、指骨は長さと幅が同じくらいで、蝶番状の関節面がなくなっている。末節骨も短くなっている。よって、アベリサウルス類の進化における前肢の変化は、まず遠位の要素から始まり、後になってより近位の要素まで及んだと考えられる。最近、「エラフロサウルス類」(エラフロサウルスとリムサウルス)やノアサウルス類の上腕骨にもアベリサウルス類と同じような変化がみられるといわれているが、今回エオアベリサウルスがアベリサウルス科に位置付けられたことを考えると、それらのグループではアベリサウルス科とは独立に上腕骨が変化したと考えられる。

 ジュラ紀中期で既に指が短縮していたとなると、撓骨と尺骨が短くなったのはいつ頃なのか、白亜紀前期くらいだろうか?いずれにしてもアベリサウルス科は、前肢の退化に関しては、ティラノサウルス科よりもはるかに由緒正しい「名門」だったことになる。(ラプトレックスが怪しいとなるとなおさらである。)また、ジュラ紀中期から白亜紀末まで、非常に長期にわたって繁栄したグループということになる。
 獣脚類では前肢のカギ爪は標準装備であり、スピノサウルス類やメガラプトルのように特に発達させた種類も多い。一方アベリサウルス類では、このエオアベリサウルスで既に、前肢を活用しようという気持ちが感じられない。おそらく、捕食や闘争に前肢のカギ爪を使う習性がなかったのだろう。もしそれがあったら、退化した個体は不利となって淘汰されるはずである。

参考文献
Diego Pol and Oliver W. M. Rauhut (2012) A Middle Jurassic abelisaurid from Patagonia and the early diversification of theropod dinosaurs. Proc. R. Soc. B published online 23 May 2012, doi: 10.1098/rspb.2012.0660

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