獣脚類を中心とした恐竜イラストサイト
肉食の系譜
ケルマイサウルス


大きい画像
ケルマイサウルスは、白亜紀前期バランジュ期からオーブ期(リャンムギン層Lianmugin Formation)に、中国新疆ウイグル自治区ジュンガル盆地に生息したカルカロドントサウルス類である。化石は断片的で、上顎骨の一部と完全な歯骨だけが知られている。
白亜紀前期のアジアからは大型獣脚類の化石記録が乏しく、同時期の他の大陸の大型獣脚類との比較が困難であった。この時代の貴重な大型獣脚類化石の一つとして、Dong (1973)が記載したケルマイサウルス・ペトロリクスKelmayisaurus petrolicus という上顎骨と歯骨があった。Holtz et al. (2004)はこれを系統不明の基盤的テタヌラ類としたが、Rauhut and Xu (2005) は「模式標本が断片的で、同定可能な形質を欠く」としてケルマイサウルスを疑問名とした。その後、この貴重な化石はアジアの獣脚類の研究から忘れ去られてしまっていた。そこでBrusatte et al. (2012)は、ケルマイサウルスの模式標本を再記載し、初めて詳細な解剖学的記載および他の獣脚類との比較を行った。その結果、ケルマイサウルスは固有の形質をもった、分類学的に有効な種であることがわかった。また系統解析の結果、ケルマイサウルスはカルカロドントサウルス科の一員であることがわかり、シャオチーロンに続いてアジアで2番目のカルカロドントサウルス類となった。
ケルマイサウルスは、歯骨の外側面の前方に、深く刻まれた背側に凹形の溝がある、という固有形質をもつカルカロドントサウルス類である。またケルマイサウルスは、他のどのアロサウロイドにもみられない、ユニークな形質の組み合わせを示す。上顎骨の歯間板の上下の丈が、前後の幅の2倍以上大きいこと、上顎骨に顕著な前方突起があること、そして歯骨の前腹方の「おとがい状」 chin-like の突起がないこと、である。
上顎骨としては、左の上顎骨の前方部分(上方突起の基部から前方)だけが保存されている。はっきりした前方突起が存在する。ケルマイサウルスでは、前方突起の前後の長さ(70 mm)が背腹の高さ(100 mm)より少し小さく、アロサウルス、ネオヴェナトル、モノロフォサウルスに似ている。一方、カルカロドントサウルスやマプサウルスのようなカルカロドントサウルス類では、前方突起は長さよりも高さの方がずっと大きく、はっきりした突起として認めにくい。
上顎骨はひどく浸食されているが、いくつかの部分では本来の骨の表面が保存されている。外側面では、最もよく保存された部分をみると骨表面は滑らかであり、アベリサウルス類やカルカロドントサウルスのような派生的カルカロドントサウルス類にみられる粗面はない。また腹側縁から約15 mm上方に神経血管孔の列がある。
上顎骨の内側面は保存が悪く、歯間板はあちこちで破損しているが、歯間板が癒合して一枚の板になっていることはわかるという。ケルマイサウルスでは歯間板の丈が高く、丈の高さが前後の長さの約2倍ある。これはアクロカントサウルス、カルカロドントサウルス、ギガノトサウルス、マプサウルスのような派生的なカルカロドントサウルス類と同様である。それに対してネオヴェナトル、アロサウルス、シンラプトルのような他のアロサウロイドではもっと丈が低い。
上顎骨には6個の歯槽の痕跡があり、そのうち4個は保存がよい。4番目の歯槽には成長中の置換歯が保存されている。この歯は70 mm の長さで、前縁が強くカーブし後縁はほとんどまっすぐであるが、残念ながらエナメルのしわのような表面の詳細な構造はわからないという。
左の歯骨はよく保存されており、前端と後端のみが少し欠けている。派生的なカルカロドントサウルス類では、顕著なおとがい状の前腹側突起 anteroventral process があるために、歯骨の前端が拡がって四角張っているが、ケルマイサウルスでは前腹側突起がなく、前端は拡がっていない。
歯骨のほとんどの部分で本来の骨表面が保存されている。主要な神経血管孔の列がはっきりしており、これらは後方では深い神経血管溝 primary neurovascular groove に沿って並んでいる。ケルマイサウルスではこの溝が、特に深くくっきりしている。これはある種のメガロサウロイドやいくつかのカルカロドントサウルス類と同様である。アロサウルスとネオヴェナトルではこのような顕著な溝はない。さらに、5番目の歯槽より前方にも顕著な溝 anterior accessory groove がある。この溝の中には4個の孔がある。この溝は他の基盤的テタヌラ類にはみられないもので、ケルマイサウルスの固有形質と考えられる。
歯骨には15個の歯槽があり、前端の欠けた部分にもう1個あったと思われる。どの歯槽も楕円形で、幅より前後の長さがずっと大きい。萌出した歯も成長中の歯も保存されていないが、歯槽の形からみると派生的なカルカロドントサウルス類のように、側扁した歯だったかもしれないという。
参考文献
Brusatte, S.L., Benson, R.B.J., and Xu, X. (2012). A reassessment of Kelmayisaurus petrolicus, a large theropod dinosaur from the Early Cretaceous of China. Acta Palaeontologica Polonica 57 (1): 65-72.
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )