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肉食の系譜
サウジアラビアのアベリサウルス類
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Copyright 2013 Kear et al.
中東のアラビア半島では恐竜化石は非常に珍しい。出版された報告としては、白亜紀のレバノンからブラキオサウルス類、ヨルダンからティタノサウルス類のそれぞれ分離した歯と骨、オマーン産の未同定の竜脚類の脚の骨、オマーンおよびシリア産の大型獣脚類の胴体の骨、オマーンおよびヨルダン産の断片的な鳥脚類の骨などがある。
サウジアラビアの恐竜化石については事実上何も報告されていなかった。Hughes and Johnsonは、サウジアラムコ(サウジアラビアの国営石油会社)の内部報告書について言及しているが、この報告書では紅海の北東沿岸にある白亜紀後期のAdaffa Formationから、おそらくティタノサウルス類と思われる竜脚類の骨の断片を記載している。2004から2008年にはサウジアラビア地質調査所とエジプト地質学博物館の共同調査が行われ、Adaffa Formationから多くの脊椎動物化石が発掘された。Kear et al.によるとこれらは、サメ、条鰭類、肺魚、カメ、ワニ、エラスモサウルス類、モササウルス類、水生のオオトカゲ類などからなる主に海生の動物相であった。その中にいくつかの恐竜の骨と歯も発見され、Kear et al. (2013)により報告された。
層序学的研究からAdaffa Formationの年代はカンパニア期初期からマーストリヒト期初期とされている。
Aynunah Troughという地溝構造の中の砂岩層から、7個の竜脚類の尾椎と2個の獣脚類の歯が発見された。これらの化石は、渦の作用で集められたらしく、他の脊椎動物の骨や多数の木片と混じった状態で見つかった。恐竜の骨はすべて分離していたが、解剖学的位置や大きさ、分類学的特徴などからそれぞれ同一個体のものと考えられた。
竜脚類の脊椎骨は連続した後方の尾椎と考えられ、多くはひどく浸食された椎体の破片であったが、1個は比較的完全で神経弓が保存されていた。椎体は円柱形で、明らかに前凹型procoelousであるが、これはティタノサウルス類の特徴である。神経弓は前方に位置しており、これはティタノサウルス形類と一致する。ティタノサウルス類であるイシサウルスやネウケンサウルスと似て、神経棘は長くのびて、後方に傾いている。これらのことから竜脚類の尾椎はティタノサウルス類と考えられた。
獣脚類の歯のうち1個は保存が悪く、側面と後縁(遠心)の一部が保存されていた。もう1個のSGS 0090は、比較的完全な歯冠である。歯冠の外形はやや薄く、丈が低く、側面から見てほとんど三角形で、頂点が底面の中心近くに位置している。前縁は丸くカーブしていて鋸歯がないが、後縁は明らかに直線的である。これはアベリサウルス類の上顎骨/歯骨の歯と一致する。後縁には幅広い鋸歯があり、また基部側に傾いたinterdental sulciがある。唇側および舌側の両方の表面に、頂点に向かって収束する縦の稜線がある。同じような縦の稜線は、ドロマエオサウルス類、スピノサウルス類、マシアカサウルスを含むケラトサウルス類で報告されている。これらの形質から獣脚類の歯はアベリサウルス類と考えられた。
著者らはこのアベリサウルス類らしい歯について、定性的な形質だけでなく、一連の定量形態学的な解析を行っている。主に保存の良いSGS 0090について、CBL (crown base length), CBW (crown base width), CH (crown height), AL (apical length), DA, DC, DB (遠心の稜縁distal carinaの頂点部、中央部、基部ごとの鋸歯密度 denticle density), DAVG (平均鋸歯密度) など11個のパラメーターを測定し、一連の多変量解析(主成分分析、判別分析、クラスター分析など)を行っている。
例えばCBL, CBW, CH, AL の4つ、またはCBL, CBW, CHの3つを用いて主成分分析を行い、第1主成分と第2主成分を座標として散布図を描くと、問題のSGS 0090は確かにアベリサウルス類(マジュンガサウルスとインドスクス)のデータの範囲内にプロットされた。判別分析などの他の手法でも同様に、アベリサウルス類のグループに分類された。
この論文ではサウジアラビアから初めて、断片的な化石ながら、定性的にも定量的にも分類群が同定された恐竜化石が報告されたことに、非常に意義があると強調している。ティタノサウルス類とアベリサウルス類が、ゴンドワナの北部により広く分布していたことがわかった。ティタノサウルス類とアベリサウルス類は、アルゼンチンでもインドでも一緒に見つかっているので、切っても切れない縁ということだろう。
断片的な化石とはいえ新しい知見なのだから、通常の記載だけでも短い論文にはなるはずだが、PLoS ONEに載せるためにこれだけの多変量解析を行わなければならないのだろうか。このくらいの解析は標準になったとすれば、結構大変な気がする。
参考文献
Kear BP, Rich TH, Vickers-Rich P, Ali MA, Al-Mufarreh YA, et al. (2013) First Dinosaurs from Saudi Arabia. PLoS ONE 8(12): e84041. doi:10.1371/journal.pone.0084041
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