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アンキオルニスはどの辺がトロオドン類?



アンキオルニスといえば、今は圧倒的に「羽毛の色」であり、羽毛の構造や進化も話題になるが、骨に注目した紹介は少ない。私は獣脚類の「顔つき」に興味があるので、トロオドン類の特徴がどのように進化してきたのか、簡単に確認したい。
 アンキオルニスの段階では、始祖鳥やミクロラプトルなどと大差ない、基盤的なパラヴェス類の顔である。眼窩が大きめの単純な顔つきで、後のトロオドン類のような特徴的な鋸歯もなく、吻が長くもない。これのどの辺がトロオドン類なのだろうか。

アンキオルニスがトロオドン類と共有する形質は、1)大きなmaxillary fenestra と前眼窩窓が狭いinterfenestral barで隔てられている、つまりmaxillary fenestraが拡大しているので、前眼窩窓との間の骨がinterfenestral barとよばれる細い板状の部分だけになっている、2)左右の鼻孔の間のinternarial bar が背腹に扁平である、3)歯骨の側面に後方で広がる顕著な溝があり、その中に神経血管孔が収まっている、4)歯列の前方の前上顎骨歯と歯骨歯が密集している、5)胴椎と前方の尾椎の横突起が細長い、である。

またアンキオルニスは、メイといくつかの形質を共有しており、これもアンキオルニスがトロオドン類に位置づけられる要因となっている。それらは、1)外鼻孔が大きく前眼窩窩の前縁より後方にのびている、2)頬骨の眼窩下突起の背内側縁にそって溝がある、3)鋸歯がない、4)上顎骨の歯列が後方にのびている、などである。

後方の歯列についてHu et al. (2009) は、まばらに分布している点はアヴィアラエに似ているといっている。多数の歯が並んでいるわけではないので、トロオドン類の状態とは異なるということだろう。しかし前方と後方で分布が異なる(前方では密集し、後方では間隔があいている)という意味では、すでに前兆がみられるといってもいいのではないだろうか。つまり歯列の分布と歯骨の溝は、由緒正しいトロオドン類の特徴といえるだろう。また大きなmaxillary fenestraに狭いinterfenestral barというのも、後のビロノサウルスなど吻の長い種類では顕著だが、意外と由緒正しい形質なのだなというのが感想である。

注)Hu et al. (2009) には頭骨復元図も載っているが、ここではそれを用いず実物のスラブ・カウンタースラブの線画を用いた。その理由は、以下である。Hu et al. (2009)はmaxillary fenestraの前方にpromaxillary fenestraがあると考えて描き込んでいるが、写真と線画ではpromaxillary fenestraの形が保存されているようにはみえない。そしてpromaxillary fenestraを描き込んだために、maxillary fenestraが後方にずれてinterfenestral barが実際よりも細くなってしまっている。また実物ではmaxillary fenestraの位置に大きい上顎骨歯が3本あるが、頭骨復元図ではその位置関係がずれている。歯骨の前方と後方の歯の大きさも少し変わっている。

ちなみに、メイと同様に「外鼻孔が大きく前眼窩窩の前縁より後方にのびている」とあるが、「前眼窩窩の前縁」は破損した部分にあるようにみえる。明確に見えているのではなく推定ということだろう。


参考文献
Hu, D. Y., Hou, L. H., Zhang, L. J. & Xu, X. (2009) A pre-Archaeopteryx troodontid from China with long feathers on the metatarsus. Nature 461, 640-643.
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