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ブラジルのスピノサウルス類の再検討とスピノサウルス類の頭蓋の進化(下)



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論文の復元頭骨図は、イリタトルと比べてアンガトゥラマの方が少し大きいことを表している。オクサライアは時代も後であり、アフリカのスピノサウルス亜科と近縁と考えているので、スピノサウルスの復元頭骨に当てはめるとこうなるのかもしれない。

円錐形の歯、細長い吻、後退した外鼻孔など、スピノサウルス類の多くの頭蓋と歯の特徴は半水生の生活と関連している。また歯や骨の同位体組成の分析や組織学的解析からも、スピノサウルス類は半水生や水生の動物と近いことがわかっている。しかし、同位体組成のデータは、スピノサウルス類の中でも、より陸生に近いものとより水生に近いものがいたことを示している。またスコミムスとスピノサウルスのネオタイプの肢の骨の組織切片からも、水中環境への適応の程度に差があったことが示されている。

このようなスピノサウルス類の中での生態の多様性が、外鼻孔の状態とも関連していると思われる。スピノサウルス類の中で、外鼻孔の位置と大きさはさまざまである。外鼻孔が小さいことは嗅覚の重要性が低いことを示し、外鼻孔が大きいことは嗅覚の重要性が高いことを示すと考えられる。外鼻孔が最も小さい“スピノサウルス”ではまた、外鼻孔が最も後方に移動している。外鼻孔が後方にあることは、嗅覚刺激の収集に向いていない。またもう一つの観点として、外鼻孔と嗅球の間のスペースには鼻腔があり、間接的に嗅上皮の表面積を反映している。種々のスピノサウルス類の頭骨を比較すると、外鼻孔の位置が前方にあるほど鼻腔が大きく、嗅上皮の表面積が大きいことになるわけである。

魚食性の捕食者とくに半水生の四肢動物にとって、嗅覚は主要な感覚ではない。これらの動物にとって、嗅覚以外の感覚が重要である。ワニ類は吻部に機械受容器をそなえており、これで水の動きを感知する。鳥類と翼竜類では主に視覚が重要である。“スピノサウルス”の吻には内部が連絡した多数の孔があり、ワニ類と同じような機械受容感覚を用いていたと考えられる。“スピノサウルス”は嗅覚よりも機械受容感覚により大きく依存し、イリタトルやバリオニクス亜科ではより嗅覚に依存していた可能性がある。

面白いことに化石記録にはそれを支持するものがある。バリオニクスの腹腔からは半ば消化されかけた魚のウロコとともに、鳥脚類の幼体の骨が見つかっている。またスコミムスの下顎の力学的特性から、スコミムスは小型の陸生動物をも捕食できただろうと示唆されている。さらにアラリペ盆地の翼竜の頸椎にスピノサウルス類の歯冠が埋まっていたことから、この地域のスピノサウルス類が魚以外の獲物を捕食したことが示されている。一方、“スピノサウルス”の歯槽の位置にはOnchopristisとされる魚の脊椎骨の一部が見つかっている。これは間接的な証拠であるとしても、“スピノサウルス”の吻の形態とともに魚類が主な獲物であったことを示唆している。
 つまり現在得られている証拠は、バリオニクス亜科とアラリペ盆地のスピノサウルス亜科(イリタトルなど)が陸生動物をも捕食したことを示しており、そのためには嗅覚が重要である。一方“スピノサウルス”が魚類など水生動物を捕食するためには、視覚や機械受容感覚が重要だったと考えられる。


個人的に一番感心したのは、あきらめてはいけないということである。
 イリタトルの歯列が同定されていないことは、「盲点」だったのだろう。既に記載され、再記載された標本であっても、アイデア一つで、つまり新しい観点や解釈があれば、新しいデータを得ることができ、論文が書ける。系統解析もやり直すことができる。そこが素晴らしい。
 また外鼻孔が保存されたスピノサウルス類は4種しかいないが、外鼻孔周囲の骨の位置関係はそれぞれ異なっているのが面白い。
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