獣脚類を中心とした恐竜イラストサイト
肉食の系譜
このブログの功罪
10年もブログをやっていると、自分の活動はどういう意味があるのだろうかと少しは考えるようになる。
このサイトは何の役に立つのか、は思いつく。夜中に突然、トルボサウルス・タンネリとトルボサウルス・グルネイの違いは何か、知りたくなった時に役立つ。ゲニオデクテスがなぜケラトサウルス科なのかもわかる。要するに、世の中のほとんどの人にとって、全くどうでもいいことがたくさん書いてある。希少価値である。
心配なのは「罪」の方で、このブログはもしかすると、青少年に悪影響を与えたのではないかと危惧している。
ブログ開設まもない頃には、「どんな資料を参考にしているのですか?」と訊かれたものである。昔、金子隆一氏の著書に「一次資料である論文を読んでいない者とは話をする気がしない。」という趣旨の文言があったが、そうはいってもアマチュア恐竜ファンには、なかなか敷居が高いものとされていたはずだ。それが、昨今では恐竜ファンのレベルが向上したのか、学術論文こそが本当の情報源である、ということが、マニアまではいかない恐竜ファンの間にも浸透してきた様子がうかがえる。もちろん昔からマニアックな人は学術論文を取り寄せていたが、ネット社会になって技術的に容易になった。原著論文の写真や骨格図を見るアマチュア恐竜ファンの数は増加したと思うし、論文に限らずアマチュアが入手できる情報のクオリティも上昇した。
ただし多数の恐竜の論文を読めば、サイエンスライターのような文章や本が書ける、というものではない。情報収集は必要条件ではあっても十分条件ではない。ましてや研究者のレベルに近づいた、などと錯覚するのは全くの勘違いである。例えばこのサイトの「バラウル」の記事は、具体的にどの形質がドロマエオサウルス類とアヴィアラエのどちらに近いか、一部を抜粋して紹介してある。骨学的記述が列挙してあるように見えて、これだけで辟易してしまう読者もおられるだろう。しかし、Andrea Cauが扱っている情報量はこんなものではない。少なくとも10倍以上はあるだろう。またこの研究はBrusatteのモノグラフをふまえて否定的なデータを提示する性格の仕事なので、過去の複数の引用文献を相当程度、勉強し論点を整理しなければならない。どの分野でも、研究者が論文をまとめるために必要な作業は、部外者の想像を超えたものであるはずだ。
つまり自戒を込めていえば、多少の論文や総説を読みこなしたからと言って、わかったような気になってはいけないということである。
英語力などの制約はあるにしても、誰でも論文のPDFを入手し、一応は読めるような世の中になったとすれば(もちろん一般の恐竜ファンが皆そういうことをするわけではないが)、このサイトの恐竜情報に対する立場も多少は変わってくるだろう。以前からそうではあるが、重要な恐竜のニュースでもナショジオなどのメディアで十分紹介されているような場合、ここで取り上げる意味は薄いと考える。それよりも、自分の興味に従って独自のテーマを追究する方が性格に合っている。
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