トチを飼い始めたとき、うちには猫が3匹、15歳になる老犬が1頭いました。なので、トチにとっては犬や猫が家にいることは当たり前のことでした。
ある日、近くの公園から子猫の鳴き声が聞こえ、やがて路上生活者からパンをもらっているその猫の姿を見たとき、胸が締め付けられる思いでした。声の主は生後2か月も経っていないのではないか思われる、やせっぽちで片目が飛び出した子猫だったのです。
真夏だったこともあり、このままでは自力で生きられまい、カラスの餌食になるやもしれぬと胸を痛め、もし重病なら(飛び出した目玉が今にもこぼれ落ちそうだったんだもの)安楽死も仕方ないかもしれないと思って獣医さんに連れて行くと、「目は緑内障のようですが、健康状態は悪くありませんね」などと言われてしまったものだから、それじゃあ死なせるわけにはいかないし、この目ではもらってくれる人もいないだろうということで、うちの子になったのでした。
片目は視力がないようなので、せめて名前に「目-eye」を入れて、みんなに愛されるように「アイ」と名づけてやりました。のちのち患っている眼は摘出しなくてはならなくなり、片目になってしまったアイ。あちこちぶつかりながらもトチを慕って、くっついて歩いていました。
半年も経たないある日のこと、アイの様子がおかしかったので獣医さんに連れて行くと、猫白血病ウイルス感染症を発症していることが分かりました。
猫白血病ウイルス感染症は当時はまだワクチンがなく、発病すると80%は3年以内に亡くなるという恐ろしい病気でした。診察室で獣医さんに病名とその後どうなるかを告げられた時、「せっかく命拾いしたのに」と小さな命を抱きしめて泣いてしまいました。
毎週インターフェロンや点滴を打ちに獣医さんに通い、勧められることは何でもやったのですが、結局アイちゃんは発症してから2か月余りで短い生涯を閉じました。お別れの日「短い月日ではあったけど、家族に囲まれて過ごしたこと、おまえは一人じゃなかったことを忘れないでね」と声をかけてやりました。
ボッチにまだ最適な治療法が見つからないでいる今、ふっとアイちゃんのことが思い出されたのでした。