小坂洋右著 “大地の哲学”━アイヌ民族の精神文化に学ぶ━の紹介。
この本は、先住民族の知恵を学びつつ、より持続性の高い平等性に富んだ社会を築いていくことを私たちに訴えている。
『(前略) 資源が乏しいゆえに技術立国で戦後、米国に次ぐ世界第2位の経済大国にまでのし上がった日本はどうだろう。決定的だったのはやはり、福島第一原発事故だった。
それは日本が高い技術力を持ちながらも、なににどう使うべきか、科学技術でできることとできないことは何か、科学技術は完全にコントロール下に置かれているとはかぎらず、ときにリスクを伴うものだといった倫理や科学哲学、リスク哲学を完全に欠いていたことを内外に示す結果になってしまった。
最悪レベルの原発事故を起こしたにもかかわらず、誰も責任を取らず、検証も反省もできないでいることが、対外的な信頼なさらに低下させるのも避けられまい。
このままいけば、ヴィジョンや哲学がないまま、目先の利益だけを追求する薄っぺらな風潮がますます嵩じ、足元が揺らいでいくのが目にみえてくる。
いずれの国も一時は隆盛を極めたものの、その繁栄を継続させることができずに今はもがき苦しんでいるように見える。
現代文明は国単位の問題だけではない。世界各地で環境汚染が繰り返され、地球規模の温暖化を引き起こし、人が人を搾取して格差を助長し、破綻の淵を綱渡りしながら金融市場や多国籍企業が国境を越えて膨らんでいく。
現代と呼べる時代は戦後の70年を含めてもたかだか100年ほどで、近現代と括って産業革命からの歳月を数えても250年ほどにしかならない。
1万年の長きにわたって一つの文化を持続させた縄文時代や、1万数千年年前に到達した人々が保ってきた部族社会と比べると、私たちが生きているこの現代は間違いなく、より先行きが見通せない浪費・疾走型、疲弊型、そして環境破壊型の社会・経済に陥ってしまったと言える。
やはり、あらためて先住民族の知恵を学びつつ、より持続性の高い、平等性に富んだ社会を第三の道として、見つけ出さなくてはならないのではないか。
これまで狩猟採集社会であるアイヌ文化や縄文文化を通じて精神文化やその価値を学ぶ必要性を訴えてきたが、私は狩猟採集生活に戻れとか、部族制を採用すべきと提案しているわけではない。
自然とのつながりや科学技術への畏れを失っていたことが明白になったいま、東日本大震災後の今日、私たちがエコロジー社会を築くうえで、そうした精神文化を復興し、吸収することが土台や骨組みになると主張しているのである。 (後略)』
この本を読んで、次のように思った。2011年、東日本大震災が起こり、同時に人災である“福島第一原発事故”起こった。2020年には、リーマンショックをはるかに凌ぐ“新型コロナ禍”で、世界中が大不況に陥っている。
行政機関に「変わる時代、変えるスタイル、未来志向」という標語が掲げられていたが、地球温暖化を原因とする大雨や森林火災などが頻発しており、これからは、様々な形で生活のスタイルを変えていかねばならない。
「十勝の活性化を考える会」会長
注) 小坂洋右
小坂洋右(こさかようすけ)1961年札幌市生まれ。
旭川市で小中時代を過ごす。北海道大学文学部卒。英オックスフォード大学ロイター・ファウンデーション・プログラム修了。アイヌ民族博物館学芸員などを経て北海道新聞記者に。現在、編集委員。
著書に『破壊者のトラウマ――原爆科学者とパイロットの数奇な運命』(未來社)、『流亡――日露に追われた北千島アイヌ』(北海道新聞社)、『アイヌを生きる文化を継ぐ――母キナフチと娘京子の物語』(大村書店)、『〈ルポ〉原発はやめられる――日本とドイツ その倫理と再生可能エネルギーへの道』(寿郎社)、北海道庁公費乱用取材班として新聞協会賞、日本ジャーナリスト会議(JCJ)奨励賞を受賞。『原発はやめられる』で第27回地方出版文化功労賞奨励賞(ブックインとっとり主催)を受賞。
(出典:アマゾンより抜粋)