もう10年近く前のことでしょうか、福井に住んでいた時に北陸の美味いものを食べ尽くそうと随分出かけました。そして食に付き物なのは器。福井の河和田の漆器が良いというので足を運んでみました。
たまたま入った漆器屋さんで、ふと手にした漆器のぬくもりが心地好く、両手にのせて魅入っていました。そんな私に気が付いた店主が、「そんなに気に入ったなら」と山本さんのご自宅に連れて行って下さいました。突然の訪問にも関わらず山本さんは、漆の魅力について丁寧に面白おかしく説明して下さったものでした。あまりにも気さくな人柄と、時折見せる職人の厳しい目、私たちは漆器は勿論ご本人のファンになりました。
「使わんものを買って大切に仕舞い込んでおくほど無駄なことはない。使うことで自然につく傷くらいなら気にならない、というのも、きちんと作られた漆のもののいいところやでな。」
木地から仕上げまでの何十工程も、一切の妥協、手抜きなし。漆の精製も、古来から伝わる方法を、そのまま、実践。自分の仕事に自信のある職人でなければ言えない言葉です。短い時間でしたが漆のことだけでなく、もっと大切なことも教えてもらえた気がします。
今、日ごろの暮らしにがんがん漆器を使っています。何十年か経ち、どんな表情を見せてくれるのか楽しみに…。