つらねのため息

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『新居格随筆集 散歩者の言葉』

2024-06-26 22:54:24 | 読書

荻原魚雷編『新居格随筆集 散歩者の言葉』(2023年、虹霓社)読了。80年以上前の文章とは思えない、親しみやすく温かみのある文章で、良い意味で力が入っていないというか、肩の力が抜けた感じのとても読みやすいエッセイ集だった。

戦後、新居格と一緒に生協運動に取り組んだ大沼渉が新居の字について「彼の人特有の丸い文字」というような表現をしていたが(記憶で書いているので少し不確かだが)、まさにそんな丸文字で書かれたのではないかなというのが目に浮かぶような、人柄がにじ目出てくるような文章がとても心地よい。

この随筆集に収められた作品群が発表された時期は日本が戦争に向かい、突入していった時期に重なる。はじめは昭和モダンの空気を感じさせるような雰囲気だったものが、徐々に不自由になっていくのが新居の生活を描いた文章の中からも伝わってくる。逆に言えば、その時代にそれまでと変わらない筆致で市井の一市民の「生活」を書き記していったのは新居なりの時代への抵抗だったのかもしれない。

「小さな世界」という掌編を読んでいたら「こゝまで書いて来たとき、(消費)組合の配給者が来た」というフレーズが出てきて、昨今のオンライン会議の途中に宅配などの対応で中断するのと同じようなシーンに思えて、思わず笑ってしまったのだが、そんな普通の生活の日常のひとコマが何より大切なのだということを改めて感じさせてくれる一冊。



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