まず、蚊取り線香の煙に含まれる殺虫成分は、「ピレスロイド」と言って除虫菊として有名なシロバナムシヨケギクに含まれる天然の殺虫成分「ピレトリン」に似せて作られた化合物です。このピレスロイドは虫の口や皮膚から入り込み、神経に作用し麻痺させ殺します。では人間に対してはどうかというと、ピレスロイドは高温では効果が低く、哺乳類の体内に入っても早く分解されて短時間で体の外へ排出されます。逆に、変温動物である虫にはより効果が強く出るのです(#1,2)。このように、子供たちが蚊取り線香の煙を吸っても体に有害とは言えません。
では長期的な視点で見て、子供の発達への影響はどうでしょうか?ピレスロイドを含む農薬の安全性に基づいた疫学研究16個を吟味した論文では、その関連の強さや用量反応に関して子供の神経発達に因果関係は示しませんでした(#3)。つまり、現時点での科学ではピレスロイドは子供の発達に悪影響を及ぼしているとは考えにくいです。
しかし、蚊取り線香でないにせよ、煙を直接吸い込んだり、直接顔に当てたりすることは、煙が目や鼻やのどに刺激を与えてしまうため、よくありません。また、煙自体が気管に刺激を与えてしまい、気管支喘息の発作を誘発する作用もあります(#4)。直接、人体に煙がかからないようにする工夫をしましょう。
最後に、心配されるような、灰が体の中で蓄積することはありませんが、最近の研究結果で、慢性的に線香を日常的に使用する家庭の子供は使用しない家庭と比べて喘息発症のリスクが高く、肺機能も低下しやすくなるという報告(#5)もあるので、注意が必要です。