これが私の生きる道

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舞台「私を離さないで」

2014年05月08日 21時19分45秒 | 演劇
会場のさいたま芸術劇場は名前だけは知っていましたが
はじめて訪れました。
与野本町という割かし地味な駅で
埼京線を毎日利用している自分ですがはじめて降車した位です。
舞台といえば東京ばかりで、埼玉ってここの他に専用劇場って他にありませんよね。
そういった意味でもお金を掛けているのか
大層立派な施設でした。

ステージの奥行がものすごくあって
その遠近法を利用した演出も何個かありました。
小劇場には小劇場の良さもありますけど
同じお金を払うならこういう場所の方が
特別なものを観たな、っていう感覚にはなります。

この舞台を観ようと思ったきっかけは
多部未華子、木村文乃の両名が出演するということで
原作が海外文学ということで
正直内容に関してはそれほど期待していませんでした。


あらすじ:

物語の舞台は、自然に囲まれた「ヘールシャム」と呼ばれる寄宿学校。
外界から完全に隔離されたこの学校で、少年少女たちが
徹底した管理のもと、特別な存在と言い聞かされながら暮らしている。
幼い頃からここで一緒に暮らす3人の男女の間に、
次第に友情や恋が芽生え始める、
しかし、そこに孤独、憧れ、不安、嫉妬といった感情が複雑に絡みだし、
その関係には微妙な変化が訪れる。
やがて彼らは「ヘールシャム」の驚くべき秘密、
そして彼らに課せられた特別という言葉の残酷な真実を知ることになる。


(この先、ネタばれあります。
また個人的な解釈が含まれていますので、
本来の意味とは違う部分も多分あります。)


3幕制で、第1幕では「ヘールシャム」での学生時代のシーンが描かれます。
普通に見ていると何気ない学校生活の1シーンのように思われますが
何か言いようのない違和感のようなものを感じます。
彼らが「特別」な意味は、序盤では明かされず
物語が進むにつれて明らかになってくるので
多少ミステリー的な要素も含んでいます。

彼らが特別なのは、ガンの治療を行う際に必要な臓器提供の為だけに
産み落とされたクローン人間だということです。
しかも提供する立場になるまでは
臓器提供者の世話をする介護士になる(義務?)
という悲惨な生き方を運命づけられています。
観ているこちら側はそんなひどいことを、と思うんだけど
彼らはその運命を受け入れているので
奇妙な風景に写ります。
もし自分がこの立場だったら、もがき苦しむと思うし
彼らにもそうして欲しいと願ってしまう、
しかしそういう話になっていないので
居心地悪い感覚になってしまいました。

これは同じ人間だからそういう風に思ってしまうわけですけれど
豚とか牛とか人間に美味しく食べられる為だけに
これと近いことを現実的に行っているんですよね、
それからして人間って勝手な生き物だと思い知らされます。

あともう一つの違和感は、学生時代から
八尋(多部未華子)ともとむ(三浦涼介)は惹かれあっているのに
もとむは鈴(木村文乃)と付き合っているところです。
第3幕で、鈴は二人の仲を引き裂くようにしていたと
八尋に許しを請うわけですが
自分はどちらかというと鈴を擁護したい派です。
八尋は純真な優等生という設定のようですが
ちょっと天然が過ぎてイラっとさせるところがあります。

もとむと鈴が付き合っていると知っているのに
もとむに対する態度があからさまに好意むき出しというか
逆によく鈴が怒らないなぁと思うほどです。
第2幕では「ヘールシャム」を卒業して「農園」で生活を始めるますが
そこで、八尋が鈴に「時折、誰でもいいから抱かれたいときがある」と相談します。
鈴はそんなことはないとそのときは話しますが、
これも嘘だったと謝ります。
この性質は残された時間が限られているから、
子孫を残そうとする為の本能的なことからくるのかなぁと想像しました。
しかし純真そうな八尋が結構普通に話しているので
変な気分になりました。

最近、死のことを考えることがよくあって
この舞台の内容はそれを否応なく刺激させます。
多分、自分が気づいていないような伏線が
序盤に多数張られているような気がしていて
もう一度見直したい気分があります。
とにかく終わった後も色々考えさせられる話で
映画もあるみたいなんでそちらも見てみたいです。

一見無垢だけどちょっと一癖ある役柄は
多部未華子にはぴったりだったと思います。
テレビで見る分には、可愛いというよりも個性的な顔をしているように感じていましたが、
実物はかなりの美形でした。
今回は最前列だったのではっきり表情まで見られましたが
笑った顔も困った顔もどちらも魅力的です。

もとむ役の三浦涼介は全くの初見で
外見はチャラチャラしてそうだったけど
すごくいいと見直しました。
27歳と結構歳もいっているし、
もっとドラマに出てもおかしくないと思うんですけどね。
本人的にあまり出たくないんですかね。

鈴役の木村文乃は普段見るイメージとそんなに変わりませんでした。
3人の内では鈴が一番可哀想で同情していて
こういう少し不幸な役柄が彼女には合っているのかもしれません。
初舞台とのことでしたが
そんなことは微塵も感じさせない演技っぷりでした。

思わずパンフレットも買ってしまったわけで、出演者のインタビューを読むと、
大変だけど稽古に行くのが楽しい、と多くの人が話していて
おそらく自分がこういう気持ちだったのは
中学時代、部活に行っていたときに近いんじゃないかと思いました。
朝練、夕練、試合があるときは休日も
きつい練習があったわけですが
それが嫌だと思ったことは1回もなく
当時は意識したことはなかったけど
すごい充実した日々を過ごしていました。

もちろん舞台の稽古は仕事という一面がありますけど
生き甲斐とかやりがいとかそういうものがなければ
こんな大変なことを進んでやることができるとは思えません。
お金の為だけに仕事をしている身としては
それがひどく羨ましいことに思えてなりません。
こういう意味のある職業に就かないとダメだよなぁと
暗い気分になります。

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